藤井、対抗形のねじり合い制す ~ヒューリック杯棋聖戦振り返り~

藤井、対抗形のねじり合い制す ~ヒューリック杯棋聖戦振り返り~

ライター: 渡部壮大  更新: 2025年07月14日

 藤井聡太棋聖に杉本和陽六段が挑戦したヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負。杉本は初のタイトル挑戦で新鮮なカードとなった。

ヒューリック杯第96期棋聖戦挑戦者決定戦

 挑戦者決定戦は杉本と永瀬拓矢九段。杉本の三間飛車から相穴熊へ。中盤の分かれで永瀬がはっきりとリードを奪ったが、杉本も諦めずにチャンスを待つ。

【第1図は△5九竜まで】

 ついに先手に流れがきたところ。先手玉は詰めろで▲3一馬は間に合わない。この一手だが、▲4九角があまり見ない受け。しかしこれで先手玉に詰めろが掛からない。△5一歩と手が戻ったが、▲同竜△同竜▲同馬で後手玉に詰めろが掛かり攻守逆転だ。
 杉本はこの勝利でタイトル初挑戦と六段昇段を決めた。25歳で三段リーグを抜けた苦労人が大舞台へ。

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写真:牛蒡

ヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負第1局

 第1局は栃木県日光市「日光金谷ホテル」にて。杉本の三間飛車ミレニアム対藤井の居飛車穴熊となった。左辺でのやり取りを経て、勝負は玉頭戦へ。

【第2図は▲2三金まで】

 先手が先に詰めろを掛けたが、△1三金がしぶとい。対して千日手模様に▲1四金と食い付く手もあったが、実戦は▲2四金△同金▲3三角と踏み込んでいく。しかし△2二香▲1三銀△1二銀▲2四銀成△3二歩と進んでみると、金は取れたが後手玉が見えない形になってしまった。以下▲5一角成ではつらく、△3六金と押さえられて後手が一手勝ちの形になった。

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写真:玉響

ヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負第2局

 第2局は兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」にて。四間飛車に対して藤井は穴熊を目指すが、囲わせる前に振り飛車が動いて中盤戦を迎える。じわじわと居飛車が模様を良くし、振り飛車は苦しい戦いに。

【第3図は△7三桂まで】

 左辺でポイントをあげているが、▲3五歩と右辺でも稼ぎにいく。△同角は▲2三飛成があるため、これで角の働きが悪くなった。指す手の難しい後手は△1二香と待ったものの、▲8六角△7一玉▲7七桂と居飛車の駒の働きばかりが良くなっていく。以下も後手にチャンスを与えずに押し切り、藤井が2連勝。

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写真:翔

ヒューリック杯第96期棋聖戦五番勝負第3局

 第3局は千葉県木更津市「龍宮城スパホテル三日月」にて。杉本は先手中飛車から、中央の押し合いとなる持久戦へ。杉本が食い付いて、藤井は際どいしのぎを見せる。

【第4図は▲5六金まで】

 後手玉は非常に危険な格好だが、△3五桂と攻め合う。▲2二銀と打ち、部分的には受けなしの格好だが、△2七銀が用意の好手。この手を見て杉本は残り時間を使い切り、投了となった。以下は▲2七同金は△同桂成▲同玉△3五桂▲3六玉△2七銀▲2五玉△3四金打▲1四玉△1三歩▲同銀成△同角、▲1七玉には△3三桂で、いずれもピッタリ後手の勝ちになっている。

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写真:琵琶

 初挑戦の杉本は振り飛車で真っ向勝負を挑んだが、藤井の終盤の前に奮闘及ばず。藤井は3連勝での防衛で棋聖6連覇。タイトル獲得は早くも30期目となった。

注目対局プレイバック

渡部壮大

ライター渡部壮大

高校生でネット将棋にハマって以来、趣味も仕事も将棋な人。
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。

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