ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2020年08月05日
叡王戦、王位戦、棋聖戦、清麗戦とタイトル戦が目白押しの7月上旬です。叡王戦は第1局の千日手に始まり、第2局は持将棋と波乱続きのシリーズです。藤井聡太七段はダブル挑戦で史上最年少タイトルなるでしょうか。
撮影:夏芽
(第1図は▲2四歩まで)
第1図は第5期叡王戦七番勝負第2局(▲豊島将之竜王・名人△永瀬拓矢叡王)。角換わり腰掛け銀から駒得に成功した後手がリードしています。▲2四歩にどう対応するか悩ましいですが、構わず△6六桂が好判断。▲2三歩成△同玉▲2四歩△同銀▲2五歩△同銀▲2四歩△同玉とさっぱり取って、「中段玉寄せにくし」です。以下▲5二飛に△3一金打と投入し、後手玉に寄りはありません。先手も入玉を目指す展開でまだまだ終盤戦が続き、タイトル戦で6年ぶりに持将棋が成立しました。この日は引き分けで第3局へと進みます。
撮影:常盤秀樹
(第2図は△3一桂まで)
第2図は第61期王位戦七番勝負第1局(▲藤井聡太七段△木村一基王位)。初防衛を目指す木村一基王位への挑戦者は藤井七段。公式戦では本局が初手合です。角換わりから先手が猛攻を仕掛け、後手もギリギリで踏ん張る局面が続いています。△4八馬が間に合うと負けなので先手は詰めろを掛け続ける必要があります。▲1五歩が「端玉には端歩」の寄せ。△同歩に▲2六金が正しい寄せで、ピッタリ詰めろが続きます。以下も押し切り、挑戦者が好スタートを切りました。
撮影:吟
(第3図は▲9七銀まで)
第3図は第61期王位戦七番勝負第2局(▲木村王位△藤井七段)。相掛かりから木村王位が会心の指し回しでリードを広げますが、藤井七段も必死の粘りで決め手を与えません。時間切迫もあって藤井七段の辛抱が実り、図の直前で逆転しています。ここで△9八金が「玉は包むように寄せよ」の挟撃で、先手玉は受けが難しくなりました。以下▲5一と△6二玉▲5二と△7二玉▲6二と△8三玉と逃げ出して後手玉は捕まりません。藤井七段が大きな逆転勝ちで2連勝としました。
撮影:中野伴水
(第4図は▲8五同桂まで)
第4図は第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局(▲藤井聡太七段△渡辺明棋聖)。ここまで挑戦者が2連勝で初タイトルまであと1勝で迎えた第3局。角換わりから両者研究十分の激しい展開となりました。図は後手優勢で、ここから△7九銀▲8七金△7八馬▲9四歩△8六歩が「要の金を狙え」の鋭い寄せで、たちまち先手玉は受けなしになりました。以下の猛攻も正確にかわし、渡辺棋聖が踏ん張って1勝を返しました。
撮影:常盤秀樹
(第5図は△3六歩まで)
第5図は第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負第1局(▲里見香奈清麗△上田初美女流四段)。相振り飛車から激しい流れで迎えた終盤戦。▲3六同銀も自然ですが、△4六角のような手が気になります。実戦は▲7四歩と銀取りを無視したのが「終盤は駒の損得より速度」です。△3七歩成▲同金と銀を王手で取られましたが、後手玉への攻めの方が一手速いと見ています。実戦もそのまま攻めきって一手勝ちを収めました。
撮影:康太
(第6図は△5七歩成まで)
第6図は第2期ヒューリック杯清麗戦五番勝負第2局(▲上田初美女流四段△里見香奈清麗)。ゴキゲン中飛車対急戦の終盤戦ですが、玉の危険度がまるで違い後手勝勢です。「5三のと金に負けなし」の格言(この場合は後手なので5七)通り、と金の存在感が抜群で、攻めが切れる心配はありません。里見清麗が快勝で、初防衛にあと1勝としました。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段