「玉は包むように寄せよ」ヒューリック杯清麗戦 岩根女流三段VS山根女流初段戦を解説【山口絵美菜女流1級の好局選】

「玉は包むように寄せよ」ヒューリック杯清麗戦 岩根女流三段VS山根女流初段戦を解説【山口絵美菜女流1級の好局選】

ライター: 山口絵美菜  更新: 2020年01月28日

年も改まりまして、今年も本講座をよろしくお願いいたします。

今回はヒューリック杯清麗戦より、岩根忍女流三段―山根ことみ女流初段戦をご紹介します。両者1勝で迎えた本局。清麗戦は6勝予選通過、2敗失格方式なのが特徴です。

対局者二人とも振り飛車党。将棋は相振り飛車に進行しました(第1図)。

【第1図は△9四歩まで】

先手の岩根女流三段が三間飛車・美濃、後手の山根女流初段が向かい飛車・美濃という組み合わせです。後手が現状美濃囲いですが、△2五歩には▲3七銀~▲3八金と矢倉に組み替える含みがあります。相振り飛車は序盤の選択が形勢に直結することもあるので、作戦負けしないよう注意が必要です。

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第13期マイナビ女子オープン予選での岩根女流三段 撮影:常盤秀樹

先手が積極的に開戦し、中盤戦に突入した第2図、△2五歩と突いた局面です。

【第2図は△2五歩まで】

ここで▲3七銀は悠長。戦いが始まっているため、囲いが一瞬でも乱れるのは不安です。実戦は▲3七桂と跳ねました。次に▲4五桂と跳ねれば角銀の両取りの狙いがあります。後手は6筋が攻められている状況のため、5三の銀が剥がされるのは避けたいところ。本譜は△5五歩▲4五銀△2六歩▲同歩△6五歩と手を戻して6筋を清算しました。

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第9期リコー杯女流王座戦一次予選での山根女流初段 撮影:常盤秀樹

局面が進み、終盤の入り口に突入した第3図。飛車取りに△9五角と飛び出したところです。

【第3図は△9五角まで】

単に飛車を逃げるのは弱気。9五角は自陣にまで効いているので、ここは角道を遮りたいところ。使えそうな持ち駒は銀と桂馬ですが、どちらを使いますか?

実戦は▲8六桂と打ちました。これは(1)飛車取りを防ぐ効果と、(2)▲7四桂と跳ねるという二つの狙いがある「一石二鳥の手」です。受けるだけでなく、攻めも見込んだ手が指せるようになったら上達待ったなし!攻防手を探していきましょう。

迎えた最終盤、第4図は△6三玉とかわしたところです。まずはノーヒントで「縛る」手を考えてみてください。

【第4図は△6三玉まで】

「玉は包むように寄せよ」という格言にならい、援軍のいない右辺に持ち駒を置いてみることを考えましょう。寄せが見えないときは「相手の玉が動ける範囲を狭くする」のがコツです。王手で追いかけてしまう前に、挟み撃ちにしてしまいましょう。

岩根女流三段は▲4三角と打って挟撃体制を築きました。次に▲5四銀△6四角▲5三銀打までの詰めろです。その順を防がれても、▲4三角は金取りでもあるので駒不足の心配もありません。以下岩根女流が寄せ切り2勝目を上げました。

山口絵美菜女流1級の好局選

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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