将棋コラム

将棋ソフトの進化は将棋界に何をもたらしたか。これまでの電王戦を振り返る

将棋ソフトの進化は将棋界に何をもたらしたか。これまでの電王戦を振り返る

更新: 2017年06月25日

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5月21日、第2期電王戦二番勝負が閉幕。2012年に始まったプロ棋士対コンピュータ将棋ソフトの戦い、将棋電王戦と、それに続く電王戦は、6年の歴史を持って完全終了が宣言された。 今回は、まず電王戦の歴史を振り返り、続いて第2期電王戦の戦いを考察する。

電王戦の歴史を振り返る

過去6回の電王戦の歴史は以下の通り。

2012年 故・米長邦雄永世棋聖●-○ボンクラーズ(第1回将棋電王戦)
2013年 現役プロ棋士代表5人●-○コンピュータ将棋代表5ソフト(第2回将棋電王戦)
2014年 現役プロ棋士代表5人●-○コンピュータ将棋代表5ソフト(第3回将棋電王戦)
2015年 現役プロ棋士代表5人○-●コンピュータ将棋代表5ソフト(将棋電王戦FINAL)
2016年 山崎隆之叡王●-○Ponanza(第1期電王戦二番勝負)
2017年 佐藤天彦叡王●-○Ponanza(第2期電王戦二番勝負)

このうち、故・米長邦雄永世棋聖が戦った第1回だけは引退棋士の戦いだったが、以降はすべて現役プロ棋士が戦っている。

苦戦するプロ棋士

初めて公式にプロ棋士がコンピュータ将棋ソフトと戦った第2回将棋電王戦は、将棋ファンの垣根を越えて、一般のマスコミに大きく取り上げられて社会現象と呼べるまでの盛り上がりを見せた。

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第2回将棋電王戦の記者会見の様子

戦前の予想はプロ棋士有利と見られていたが、終わってみればプロ棋士の1勝3敗1引き分け。続く第3回は1勝4敗と差を広げられた。ここまでトッププロの三浦弘行八段(当時)や屋敷伸之九段も敗れており、プロ棋士側の苦戦は明らかだった。

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唯一の勝ち星を挙げた阿部光瑠四段(第2回=左)。※段位は当時のもの

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唯一の勝ち星を挙げた豊島将之七段(第3回=右)。※段位は当時のもの

プロ棋士の逆襲

「もうプロ棋士はコンピュータ将棋ソフトに勝てない」、そんな空気が漂う中でプロ棋士側は、対コンピュータ戦の適性が高いと思われる若手実力派を揃えて、背水の陣で将棋電王戦FINALに臨んだ。結果は、プロ棋士の3勝2敗。大きな1勝を挙げて、団体戦形式の将棋電王戦は閉幕した。

続く第1期電王戦は、新設された棋戦・叡王戦の覇者と将棋電王トーナメントを制したコンピュータ将棋ソフトが1対1の二番勝負で戦う形式となった。

第1期の結果は山崎隆之叡王の2連敗に終わる。だが、二番勝負という形式からもわかるように、戦いの趣旨は互いのプライドをかけて勝ち負けを競うことよりも、将棋の内容に重点が置かれるものとなっている。電王戦の立役者である、故・米長邦雄永世棋聖が語った「コンピュータと人間の共存・共栄」という理想に、より近づいたものになったといえるだろう。

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山崎隆之叡王(第1期)

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佐藤天彦叡王(第2期)

第2期電王戦を振り返る

第2期叡王戦を制した佐藤天彦叡王。将棋界の7大タイトルの中でも、最も伝統の長い名人を保持している。電王戦史上初のタイトルホルダーの登場ということで大きな話題になった。

対して第4回将棋電王トーナメントを制したコンピュータ将棋ソフト代表はPonanzaだ。第2回将棋電王戦からずっと出場を続け、対プロ棋士戦績無敗の最強ソフトである。

第1局はPonanzaの完全勝利

早速、第1局を振り返るが、戦型は相掛かり戦に進んだ。この戦型は戦いのバリエーションが多いことが特徴だ。

この戦いで佐藤は力を発揮できず、中盤でリードしたPonanzaが徐々にリードを広げる展開で危なげなく勝ち切った。乱戦模様の戦いであったが、Ponanzaの持つバランス力がいかんなく発揮された戦いであったといえるだろう。

第2局は佐藤が序盤でリードを得るが、穴熊を粉砕される

続く第2局は立ち上がりこそPonanzaが△3二金という珍しい手を選択したが、その後は角換わり戦に落ち着いている。プロ棋士側としては、定跡や形の知識が十分に生かせる戦型だ。

実戦も佐藤がうまく指し回し、序盤で指しやすい展開に持ち込んだと評判だった。だが、よりリードを広げようと佐藤が穴熊を目指した途端に、Ponanzaの評価値が変わったという。コンピュータ的には穴熊を目指したことが悪手と判断したのだ。以降は徐々にPonanzaがリードを広げて勝ち切った。穴熊の存在価値が問われる戦いになったといえるだろう。

コンピュータ将棋の進化がもたらした将棋の多様性

ここ数年、プロ棋士の将棋が変貌してきていると感じる。数年前によく見られた、終盤まで定跡化されているような戦いが鳴りを潜め、序盤からさまざまな可能性を追求する作戦が増えてきたのだ。

一言でいえば、将棋の作戦が多様化しているということだろう。

生物の進化や、人間社会の変革には多様性が大きな影響を与えているといわれる。プロの将棋も、これまでいくつものターニングポイントを経て変革を遂げ、その変革を代表するようなスター棋士も生まれてきた。

いま、コンピュータ将棋ソフトの進化によって、プロの将棋や将棋界に新たな多様性が生まれていることは間違いないだろう。変革のエネルギーに満ちた将棋界とプロ棋士の戦いに今後も注目していきたい。

撮影:宮本橘

宮本橘

ライター宮本橘

1990年から印刷プロダクションでライター兼デザイナーに従事。2009年に独立してフリーライターとなる。2010年、日本将棋連盟のネット中継記者(ペンネームは八雲)を担当。2016年より棋王戦の新聞観戦記を執筆。ほか、マイナビニュースで電王戦関連の記事を執筆

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