名人戦第1局こぼれ話。タイトル戦の舞台裏「控室」の様子を山口絵美菜女流1級がご紹介

名人戦第1局こぼれ話。タイトル戦の舞台裏「控室」の様子を山口絵美菜女流1級がご紹介

ライター: 山口絵美菜  更新: 2017年05月16日

タイトル戦を見に行ったことはありますか?将棋のタイトル戦は対局前日の検分や前夜祭に始まり、対局当日には大盤解説やイベントが行われることがほとんどですね。数々の名勝負が繰り広げられてきた「鶴巻温泉元湯陣屋」や棋聖戦でおなじみ「ホテルニューアワジ」など全国各地のホテルや旅館での番勝負は普段とはまた一味違った風情があるものです。

タイトル戦で一番気になるのはもちろん勝負の行方。棋譜中継で流れてくる形勢判断や読みについてのコメントをチェックされている方も多いのでは?棋士による見解や読みは「控室」で生まれています。今回は知られざるタイトル戦「控室」の世界にご案内しましょう!

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ホテル椿山荘東京の庭。第1局が行われた時は、ちょうど桜が見ごろだった。撮影:常盤秀樹

佐藤天彦名人に稲葉陽八段が挑戦する第75期名人戦七番勝負、開幕戦である第1局が行われたのは「ホテル椿山荘東京」。満開の桜や池に自然豊かな庭園、木々に囲まれた対局室にはピンとした空気が張り詰め、盤上では読みがぶつかり合い、火花を散らします。椿山荘は第66期から10期連続で開幕局の舞台となっており、東京都内ということもあって控室には例年次々と棋士や女流棋士が訪れます。私も東京に行く予定を前倒しして駆け付けました。

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継ぎ盤を囲んで検討している様子。撮影:山口絵美菜

控室には対局中の盤面、両対局者の様子や放送中のニコニコ生放送・AbemaTVを映すモニターがあり、傍らの継ぎ盤を棋士がぐるっと囲んでいます。第1局の2日目である4月7日は立会人の塚田泰明九段をはじめ、副立会の鈴木大介九段・中村太地六段が挟む継ぎ盤を前に深浦康市九段や勝又清和六段も検討を行っていました。そこへ広瀬章人八段や先崎学九段、佐藤紳哉七段も加わり、次から次に棋士が控室を訪れます。

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佐藤紳哉七段と。写真提供:山口絵美菜

控室に伺う時は手土産を持参するのが習わしで、この日も部屋の片隅には桜餅やチョコレート、高見泰地五段のワッフルや私が持参した大阪土産も含めて、ずらっと並んでいました。 棋士だけでなく中継記者や新聞記者が作業する部屋を兼ねている場合も多い控室。時にはニコニコ生放送やAbemaTVの収録や中継が始まることもあり、この日中継で中原誠十六世名人とニコ生で解説中の加藤一二三九段との"ティロフォン"が実現した時には控室が一瞬で静まり、お二人の対談に一同が聞き入るという場面も

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右側の端に写っているのが、山口女流からの差し入れ。撮影:山口絵美菜

もちろん控室のメインは検討です。中盤に差し掛かった局面を前に「この手はどう?」「いや~その手はブルジョワ流だね!」「王子の一手!」といった軽快なトークが交わされる中、盤上では鋭い検討の応酬が続きました。勝負に寄り添う緊張感と会話から生まれる和やかさが独特な雰囲気を醸します。

控室はまさにタイトル戦の「舞台裏」。タイトル戦を戦う対局者の水面下の読みを汲み取り、真剣に検討を行う縁の下の力持ちです。勝負の進行に注目しつつ、控室の様子にも思いをはせてみてはいかがでしょう?また新しい楽しみ方ができるかもしれませんね!

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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