ライター相崎修司
森下卓九段にインタビュー(4)「序盤で 3 対 7 の不利なら互角 、 4 対 6 なら俺の勝ち」妖刀と呼ばれた師匠花村九段、驚きの終盤力とは?
ライター: 相崎修司 更新: 2017年01月11日
花村元司九段の将棋は、「妖刀」という言葉が示すように他の棋士とは少し違った感覚を持っていたようです。そのあたりについて、森下卓九段に聞いてみました。
――今回は、森下九段の考える花村将棋についてお伺いしたいと思います。花村九段には「妖刀」という異名があり、終盤力が怖れられていました。
「師匠と数多く指した対局を振り返ってみますと、やはり特異な感覚を持っておられたと思います。純粋なアマチュア時代が長かったのも大きいでしょうね」
――現在のアマチュア強豪ともまた違うのでしょうか。
「情報伝達の技術が発達した現在のアマチュア将棋は、プロ将棋の影響が大きいと思います。しかし花村先生は、プロ将棋をほとんど知ることがないアマ時代に、六段時代の升田先生(幸三実力制第四代名人)と指して、香落ちではほとんど負けなかった。その2年後にプロ入りし、A級には16年在籍という実績です。やはり大天才だったと思いますね」
――「妖刀」の異名に関してはいかがでしょうか。
「特異な感覚があると前述しましたが、序盤 、中盤は全般的にオーソドックスだと思います。後手番振り飛車で△3二飛を指した直後に△4二飛と振り直した、笑い話もありますが」
――では、特異な感覚というのはどの辺りに ?
「中終盤の戦い方ですね。情報の格差から序盤が苦しくなるのはやむを得ない部分がありますが、そこから考え抜いて力を出すのが師匠の将棋です。苦しい序盤から逆転する剛腕が『妖刀』の由来となったのでしょう」
――花村九段は「序盤で 3 対 7 の不利なら互角 、 4 対 6 なら俺の勝ち」とよく言っておられたという話を聞きました。
「米長先生(邦雄永世棋聖)も『悪いくらいでないと力が出ない』とよく おっしゃっていました。昔は『力がないから序盤を研究するんだ』という風潮でしたね。現代のプロ将棋は皆、終盤が強くなっています。終盤で逆転が難しいので、序盤で差をつけられない必要が出てきました」
――それが現代将棋における序盤研究の充実でしょうか。
「はい。プロ同士の力に差がないのが現代将棋です。ですから序盤で差をつけられた将棋は以前と比較しても、より勝ちにくくなっていますね」
――なるほど。
「あと、師匠は早指しで有名でしたが、早指し棋戦は得意ではなかったんです。『秒読み経験があまりないので、気持ちが焦ってしまう』という話を師匠から伺いました」
次回は、いよいよ最終回です。森下九段が花村九段から受けた最後の教えと最近の師弟関係について聞いてみました。