武市三郎七段のゲッツー。石田直裕四段のタイムリーヒット。将棋連盟野球部「キングス」を紹介

武市三郎七段のゲッツー。石田直裕四段のタイムリーヒット。将棋連盟野球部「キングス」を紹介

ライター: 直江雨続  更新: 2016年11月29日

先日プロ野球の日本シリーズが広島東洋カープと北海道日本ハムファイターズとで争われ、日ハムの優勝で幕を閉じましたが、野球好きの皆さんにはまだ記憶に新しいことと思います。さて、実は日本将棋連盟にも野球部が存在しています。そして「キングス」というチーム名で『Artist League Baseball』という草野球のリーグに参加して、毎シーズン戦っているんです。今回、将棋連盟の部活潜入レポートの第4回として「キングス」の試合を取材してきました。ユニフォーム姿で白球を追う棋士の姿をぜひご覧ください。

光が丘グラウンドに「キングス」見参

日本将棋連盟野球部のチーム「キングス」はプロ棋士と奨励会員、元奨励会員、そして将棋連盟の職員などで構成されています。この日参加したプロ棋士は4名。試合開始前の練習の時の写真でご紹介します。

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9番ピッチャー武市三郎七段。背番号11。

この日の第一試合の先発ピッチャーが武市七段。ちなみに御年62歳! 筋違い角の使い手として知られ、また必至問題の作者としても有名です。2014年に引退していますが、野球のほうはまだまだ現役です。

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田中寅彦九段。この日は二試合目からの出場。背番号3。

現在59歳の田中九段、竜王戦は6組(1組:9期在位)、順位戦はC級1組(A級:6期在位)、第52期の棋聖のタイトルを獲得。「序盤のエジソン」の異名を持ち、現代将棋の序盤戦術の発展に多大な貢献をした棋士のひとりです。

石田直裕四段。7番レフト。背番号41。

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北海道名寄市出身の27歳。愛称は「なおたん」、キャッチフレーズは「名寄から来たピーターパン」。第4期加古川青流戦で優勝、今年度の新人王戦で準優勝。竜王戦は5組、順位戦はC級2組に所属。2012年よりNHK杯の記録係を務めていたことでもよく知られています。将棋連盟のレディースセミナーで講師を務め、女性ファンも多い人気若手棋士のひとり。

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佐々木大地四段。この日は二試合目からの出場。背番号28。

2016年4月にプロ入り(三段リーグ次点2回でフリークラス編入)。長崎県対馬市出身の21歳、深浦康市九段門下。今期の第2期叡王戦では四段予選を勝ち抜いて本戦出場し、本戦1回戦で佐藤天彦名人と対局しました。惜しくも敗れましたが、その後公開された観戦記では「私は深浦門下なので、簡単には投げるわけにはいきません」という佐々木四段の一言が印象的でした。師匠譲りの根性と粘りで、まずはフリークラス脱出を目標に頑張っています。

今回の「キングス」に登場したプロ棋士は以上です。他にもキングスメンバーのプロ棋士には真田圭一八段、佐藤紳哉七段、上村亘四段がいますが、今日の試合は対局等のため残念ながら不参加でした。

では、さっそく第一試合をハイライトでレポートします。

5年ぶりのゲッツー? 62歳の武市七段完投!

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試合開始前のミーティング、石田四段と佐々木四段。

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両チーム整列して一礼。そしてプレーボール。対戦相手は「ジャイアンツ」です。

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1回表、ジャイアンツの攻撃。キングスの先発武市七段はコントロール重視のピッチングを見せ、要所を締めます。

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1回表のハイライトはジャイアンツの2塁への盗塁をキャッチャーのナイス送球でアウトにしたシーン。これにはキングスのメンバーも大いに沸きました。

「こんなの久しぶりに見た!」

そして2回裏、7番石田四段に打順が回ってきました。

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バッターボックスに立つ石田四段の雄姿。この回のキングスは2アウトから1点を先制します。

3回表の守備でのハイライトは、ランナーを1塁において、ショートゴロを2塁から1塁に返球してダブルプレーに打ち取ったシーン。チームの好守に力投が報われた武市七段、ベンチに戻ると「ゲッツーなんて5年ぶりに見たよ!」と大はしゃぎ。と、そこにふらりと現れたのはなんと有野芳人七段。1991年に引退していますが、キングス伝説のピッチャーとして、その全盛期を支えたエースです。

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御年68歳の有野七段と62歳の武市七段。「有野さん、聞いてよ。さっきゲッツー取ったんだよ。5年ぶりだよ!」

二人ともこの笑顔です。

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そこに田中九段も加わって、キングス全盛期を支えた名選手のスリーショット!さぁ、味方の好守でリズムに乗ったキングスの打線が3回裏に爆発します。

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ランナーを2塁に一人おいて、7番石田四段がタイムリーヒット!

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ヒットのあと2塁への盗塁を成功させた石田四段。隙あらば3塁への盗塁も狙います。そんな石田四段の活躍もあり、この回のキングスは3点を追加。4対0とリードを広げました。

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4回表の守備。レフトに向かう石田四段の後ろ姿。ちなみに石田四段に聞いたところ、この背番号41番は日ハムの稲葉篤紀選手の番号にちなんで選んだそうです。

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守備位置につく石田四段。

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この回、レフトフライが飛んできたものの、石田四段は見事にキャッチ。相手の攻撃を0点に抑えます。

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5回の表、1点を失いなお1アウトランナー3塁のピンチを迎えますが、ライトフライ→タッチアップの走者を見事な送球でタッチアウト!という好プレーにより試合終了となりました。

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4対1でキングスの勝利。ちなみにキングスが勝ったのは6月8日以来で、連敗を7で止める貴重な1勝となりました。

第二試合ハイライト

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第一試合の勝利ににっこり笑顔の石田四段。第二試合はダブルヘッダー、同日に再度ジャイアンツとの試合となります。

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第二試合にはスタメン出場の佐々木四段。チームメートからの激励に笑顔。

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二人の活躍にご期待ください!

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こちらもスタメン出場の田中九段。ネクストバッターズサークルで気合の素振り中。

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第二試合の佐々木四段はショートの守備位置。

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守備練習での力のこもった送球。

ちなみにジャイアンツは温存していたエースピッチャーを投入。第1試合とは違う迫力の速球にキングス打線が沈黙してしまいます。そこに、ついに佐々木四段の打順が回ってきました。

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心なしか不安げな表情で、相手ピッチャーの速球を見つめている佐々木四段。そして、本日初打席に立った佐々木四段に予想外の事件が起きました。

事件勃発! 佐々木四段の身に何が!?

あぶないっ!

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痛っ!

そう、初球デッドボール。ボールが当たった腰のあたりをさすりながら1塁に走っていく佐々木四段の背中に少々の哀愁が漂っておりました。とはいえ、これも立派な出塁です。

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その後も連続デッドボールなどがあり、佐々木四段は3塁まで進塁します。そんな佐々木四段の活躍もあり、2回の表のキングスは2得点を挙げました。(1回裏に12点取られたことは忘れましょう)

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こちらはファーストの守備位置につく田中九段。2回裏は相手の攻撃を1点に抑えます。

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そして4回表、再び佐々木四段に打順が回ってきました。結果は見事センター前ヒット、そして2塁へも盗塁を決めた佐々木四段。さらにチャンスを広げるべくなんと果敢に3塁への盗塁を狙います!

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キャッチャーからの返球! スライディングする佐々木四段! 審判の判定は!?

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タッチアウト!

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5回もキングスは無得点。そして第二試合終了。

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結果は2対13でキングスは無念の敗北。

キングスメンバーに聞きました!

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武市七段「1試合目は守備が素晴らしくて、ピッチャーで投げていて気持ち良かったですね。野球は一番の楽しみになってます。」

田中九段「キングスの試合結果と予定はこちらでぜひチェックしてください。来期の試合には将棋ファンのみなさんに応援に来てもらえたら嬉しいですね!」

佐々木四段「今日の試合は三ヶ月ぶりでした。初打席デッドボールでしたが、塁に出られたので良かったです。2打席目はセンター前ヒット、いつもは空振りでしたが、たまたま当たりました。走らないとあとでいろいろ言われるのでとりあえず2塁までは...。3塁までも基本とりあえず走るスタイルです。期待の新人も二人いるので楽しみです。あと、今日は来られませんでしたが、佐藤紳哉先生の独創的な素振りを見ていただきたいです」

最後に石田四段に野球の醍醐味を聞きました。

野球は将棋に通ずる。考えながらプレーするのは将棋と似ています。良いプレーは良い将棋につながると思います

将棋連盟野球部キングスの試合に密着しました。盤上で駒を動かす時と同じように、最善手を求めて考えながらプレーする野球もまた、棋士が夢中になれるゲームなのでしょうね。今シーズンの試合はすべて終了していますが、来シーズンのキングスの活躍にぜひご注目ください! 試合は見学可能なので応援に行きたい方はぜひ!

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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