ー大山名人杯第32期倉敷藤花戦三番勝負展望ー

ー大山名人杯第32期倉敷藤花戦三番勝負展望ー

ライター: 渡辺弥生  更新: 2025年02月18日

伊藤沙恵女流四段、西山朋佳女流三冠を破り挑戦者に

 9月4日、東京・将棋会館で大山名人杯第32期倉敷藤花戦準決勝、西山朋佳女流三冠対伊藤沙恵女流四段が行われた。西山の角交換四間飛車に居飛車の左美濃に組んだ伊藤が機敏な仕掛けで優位に立ち、最後は持ち前の手厚い差し回しで西山の猛追を振り切った。反対の山を挑戦者決定戦まで勝ち上がった室谷由紀女流三段が出産のために8月から休場したため、伊藤が第32期倉敷藤花戦三番勝負の挑戦者に決まった。
 福間香奈倉敷藤花と伊藤はこれが9度目のタイトル戦。倉敷藤花戦三番勝負では第25期、第27期に続いて3度目の対戦になる。三番勝負の展望を考える。

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写真:康太

第48期女流名人

 挑戦者となった伊藤沙恵女流四段は2022年の1月から2月にかけて行われた第48期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負で当時の里見(福間)香奈女流名人を破り、初タイトルを獲得。タイトル戦登場は今回が12回目となる。薄い玉型を苦にしない独特の受け将棋で、矢倉や雁木、相振り飛車を得意とするオールラウンドプレーヤーだ。
 今期の伊藤も相変わらず強い。第35期女流王位戦とヒューリック杯第4期女流順位戦A級、霧島酒造杯第46期女流王将戦では挑戦者決定戦まで勝ち上がった。女流順位戦と女流王将戦は最後に福間に敗れたが、女流順位戦A級の福間との最終局は完勝した。
 2019年11月23日に行われた第27期倉敷藤花戦三番勝負第2局、里見(福間)倉敷藤花対伊藤女流三段(現女流四段)をご紹介しよう。図は先手の福間が5八の飛車を6八へ寄ったところ。次は▲6三歩成が厳しいので普通は△6二歩だが。

【図は▲6八飛まで】

<図>以下の指し手
△6六歩▲同飛△5二銀▲7七桂△7五金!▲6九飛△4六歩▲同金△1六歩▲2五桂△6六香

 途中の△7五金が驚きの一手。先手は▲6三歩成△同金▲同飛成△同金▲7五角なら二枚換えだがそこで△1六歩が厳しく後手の攻めの方が速い。最後の△6六香に▲6三歩成△同銀▲6七歩なら△7六歩▲6六歩△7七歩成が伊藤らしい不敗の態勢。実戦は攻め合いになり、きっちり相手の攻めを一手余した伊藤が押し切った。タイトル戦の対戦成績は福間7勝、伊藤1勝と福間が押しているが、伊藤がペースを掴めば福間ですら手も足も出ない。勝機は十分だろう。

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写真:翔

「いつにも増して強い第一人者」だが...

 伊藤を迎えうつ福間香奈倉敷藤花は、現在倉敷藤花のほか清麗・女流王座・女流名人・女流王位を保持する女流棋界の第一人者だ。タイトル獲得数は59期。毎年信じられないような数字を更新し続けている。今年度に入ってから第35期女流王位戦五番勝負、大成建設杯第6期清麗戦五番勝負で防衛を決めた。清麗は通算5期獲得で初のクイーン清麗資格保持者に。タイトルを防衛したあと、今度はヒューリック杯第4期白玲戦七番勝負と霧島酒造杯第46期女流王将戦三番勝負の挑戦者になった。「さすがは福間」という勝ちっぷり。将棋は相手が居飛車だろうが飛車を振ろうが「里見(福間)流」とも言うべき中飛車で戦う。とにかく終盤が強く、詰む詰まないの判断が正確だ。
 しかし体調不良で不戦敗が続いていたのはみなさまもご存じの通り。彼女の体調を考慮して今期の番勝負は対局日程を再調整し11月から2~3月に変更となった。日程や場所の調整をしてくださった関係者のみなさま、対局相手の伊藤さん、いち女流棋士として感謝申し上げます。福間にはとにかく自分の身体を第一に、頑張らずに頑張ってほしい。また伊藤には相手のことをいったん忘れて盤上に集中してほしい。展望記事になっていなくて申し訳ないが、今は無事番勝負が行われるようふたりにエールを送るばかりである。
 福間が先手なら福間の中飛車に伊藤も飛車を振ることが多い。相振り飛車か、福間が左に玉を囲う将棋になる。伊藤が先手のときは相振り飛車が多いが、伊藤が居飛車で戦う可能性も高そうだ。まずは両者用意の作戦、そのあとの中終盤のねじり合いにご注目ください。

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写真:飛龍

 大山名人杯第32期倉敷藤花戦三番勝負は2月19日(水)、大阪府高槻市「関西将棋会館」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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