ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2024年09月07日
8月31日(土)に放映された準決勝第1試合のチーム藤井「パイナップル」(藤井聡太竜王・名人、羽生善治九段、青嶋未来六段)とチーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢九段、増田康宏八段、森内俊之九段)の試合を振り返る。チーム永瀬は前回優勝メンバーの二人に、ベテランながらこのルールで安定した強さを見せる森内。チーム藤井は絶対王者のリーダーに、レジェンド羽生、そしてオールラウンダーで早指しが得意な青嶋と、どちらも強力な布陣。準決勝で当たるのがもったいないくらいの、優勝候補の本命同士が激突だ。
この対戦で誰もが一度は見たかったであろう、ゴールデンカードが開幕から実現。平成のタイトル戦で幾度となく激突し、百番指しも達成した対戦だ。だが、フィッシャーでの対局は今回が初めて。相居飛車の戦いから羽生が押していたが、互いに10秒を切っての競り合いとなり、気付けば混戦模様になっていた。
【第1図は▲5三同馬まで】
ここで△7八銀成▲同金△3二金打が秒読みの中で負けにくい指し回し。▲4一竜に再度△6九銀と引っ掛け、▲4三馬に△7八銀不成▲同銀△4三金と手を戻した。▲同竜なら△3三金打が堅い。相手の金をはがし、その金を自陣に打ち付ける、終盤のお手本のような方針だ。以下も冷静な指し回しで森内がゴールデンカードを制す。
意外にも差が付き、藤井が1勝をあげたのみでチーム永瀬が4勝1敗と追い込む。あとのなくなったチーム藤井は当然エースを投入した。対するチーム永瀬は増田を出し、第3局の再戦となった。
【第2図は▲5五同歩まで】
後手は居玉で▲7二銀のキズを抱えており怖いようだが、藤井は読み筋で△6六銀と強気の指し回し。控室の羽生、青嶋、解説の佐々木慎七段もこれには困惑した様子を見せるが、AIは藤井良しを示す。▲6六同金△同歩▲7二銀に△5五角▲5八飛△4六角▲6八歩△6七銀から怒涛の勢いで寄り倒し、▲7二銀を相手にせず勝ち切ってしまった。これには控室の面々も言葉を失って笑うしかなく、藤井の強さが光るばかりとなった。
第7局は再度の羽生─森内のゴールデンカードを羽生が制し、チーム藤井が踏み止まる。
チーム永瀬があと1勝と追い込んでいるとは言え、チーム藤井はエースを残しており楽な状況ではない。第2局に続く同門対決となったが、作戦会議からはどちらも予想とは違う相手が出てきた様子だった。
【第3図は△7七とまで】
仕掛けでリードした永瀬が攻勢を取り続ける。第3図から▲7七同金△同成香▲4三金△同金▲同歩成△同玉▲7七角成が冷静な指し回し。これで手順に後手玉を詰めろに追い込み、先手の勝ち筋になった。青嶋の投了を見て、控室の増田は歓喜。もしフルセットになっていたら最終局は藤井が相手で、生きた心地がしなかっただろう。
大注目の対決はチーム永瀬が5勝3敗で制した。最大の難敵を破った勢いで連覇を達成できるか。
【総合成績】
第1局 森内九段○─●羽生九段
第2局 永瀬九段〇─●青嶋六段(持将棋指し直し)
第3局 増田七段●─〇藤井竜王・名人
第4局 永瀬九段〇─●羽生九段
第5局 森内九段〇─●青嶋七段
第6局 増田七段●─〇藤井竜王・名人
第7局 森内九段●─〇羽生九段
第8局 永瀬九段〇─●青嶋七段
【個人成績】
永瀬九段 3─0
増田八段 0─2
森内九段 2─1
藤井竜王・名人 2─0
羽生九段 1─2
青嶋六段 0─3
ライター渡部壮大