ライター生姜
チーム豊島VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント第三試合振り返り~
ライター: 生姜 更新: 2024年08月22日
8月17日(土)に放送されたABEMAトーナメント2024本戦トーナメント第三試合。チーム豊島「関西三銃士」(豊島将之九段、糸谷哲郎八段、大石直嗣七段)とチーム斎藤「1993」(斎藤慎太郎八段、高見泰地七段、三枚堂達也七段)の戦いを振り返る。振り駒の結果、チーム高見の先手に決まった。
第1局は大石と三枚堂の対戦になった。戦型は一手損角換わり。棋風通り三枚堂の攻め、大石の受けの構図になり、三枚堂がややよしで終盤戦の入り口を迎えたが、判断ミスがあり大石が挽回。粘る三枚堂を振り切って大石が勝ちきった。大石の絶対に負けない手堅い指し回しと、劣勢時の三枚堂のなりふり構わない手順が印象的だった。
2局目 糸谷哲郎八段─高見泰地七段
第2局は糸谷と高見の対戦。糸谷が「公私にわたってお世話になっている」と話すように親しい間柄のふたり。第4回のABEMAトーナメントでは同チームで戦ったこともある。両者の共通点は「混沌流」(糸谷)。ぐにゃりと歪んだ盤上をお届けしたい。
【第1図は△3八角成まで】
高見が機敏な桂頭攻めを見せて、形勢は後手はっきりよし。▲3六飛は△2七馬なので3七桂はもう助からない。高見はだいぶ楽観していたという。ここで▲5五歩と打ったのが面白い歩打ち。△3七馬▲2九飛に△4六角を消したものと思われるが、この早指し戦で指せるのは糸谷くらいではないか。チーム高見の控室からも「独特の粘り」と笑顔が。実戦は△3六歩▲8五桂△3七歩成▲2四歩△同銀▲7一飛△4七と▲5六金△3五銀▲2五飛△3四銀▲3五飛△同銀▲8一飛成△3三歩▲7三桂成で混戦模様に。手順中、▲2四飛△同銀▲2三歩や、▲3五飛△同銀▲3四桂といった、後手にとってちょっと気になる嫌みを残し続けているのがうまい。それが逆転につながった。最後は糸谷が入玉を果たし、相入玉を目指した高見玉を、バシバシ駒を打ちつけて捕まえた。
3局目 豊島将之九段─斎藤慎太郎八段
第3局は豊島と斎藤のリーダー対決。斎藤はここまでの予選でリーダー対決を制しておらず、強い思いを持って臨んでいたようだ。チームの連敗を食い止められるかの大勝負。
【第2図は△5五角まで】
豊島も強い。工夫の序盤戦からリードを奪い、上図は両取りの決まった後手よしだ。ABEMAの評価値は80%ほど豊島に振れていた。ここで▲4六歩と突いたのがなかなかの粘り。後の△2五桂が見えるので▲4六銀と指したくなるが、5六角の利きを通しながら4七に逃げるスペースを作るほうがいいと判断した。△9九角成に▲8四桂も参考になる攻め。後手玉は▲7二桂成が回れば見えてくるし、△7一香も▲7二歩が利く。まだ先手が悪いが、決め手を与えず指し進めて激戦の様相に。
【第3図は▲5九桂まで】
なんと千日手模様の局面になった。▲5九桂に△4七桂成▲同桂△3五桂の要領である。ABEMAのAIの見解も千日手やむなし。解説の石田直裕六段も「仕方ないですかね」と話していた。▲5九桂以下△4七桂成▲同桂△3五桂を1回繰り返してから▲8二竜と王手。△7二香と打たせて▲5九桂△4七桂成▲同桂△3五桂。豊島は素早く指し続けて持ち時間を1分近くまで回復させていく。斎藤は残り10秒を切った状態。いよいよ千日手かと思いきや、そこで▲3八銀と打開した。チーム高見の控室は驚愕。「勇者ですね」と石田六段。筆者だったら「元々ダメだったし時間もないし千日手ならいいや」と思ってしまうだけに、善悪は別として勝負に対しての姿勢が素晴らしいのである。斎藤の人格や育ち、家庭環境まで讃えたいほどであった。局面そのものは豊島が勝ち筋だったが、逃したことで逆転。斎藤が意地の勝利を挙げた。
第4局は大石と高見の戦いに。先ほどの逆転勝ちで活気が戻ったチーム高見。チーム豊島としては嫌な雰囲気が漂う。この勝負どころで大石を出場させたのはチームメイトによる信頼の証だろう。戦型は相掛かり。大石に序盤で一失あったため高見がよくなったが、中盤で大石の鋭い手抜きが2発決まり、銀損ながら竜を作って勝負形に持ち込んだ。切れ味抜群の指し回しで高見に粘りを与えず逆転勝ちに成功した。
第5局は糸谷と三枚堂がぶつかる。後手の糸谷は雁木を選択。作戦会議では三枚堂が右四間飛車をやってくると予想し、「△3三桂跳ねて△5三銀△6三金やる待機戦術」と具体的な符号まで述べていて、まさしくその通りになった。自信があったのだろう。事実、三枚堂の攻めがそこまでヒットせず、気づけば糸谷が剛腕でねじ伏せる展開となっていた。2局目の高見戦に続いてワールド全開。チーム豊島が4勝目を挙げて王手を掛けた。
第6局は再び豊島と斎藤のリーダー対決に。先ほどは序盤でリードを奪われた斎藤だが、「今は作戦の細かいことよりは、とにかくチームでもっと長く指したい」と話していたのには胸が熱くなるばかりであった。後手の斎藤が3三金型の角換わりを志向し、金と玉が離れる右玉の形に。これは糸谷がよく指す形で、控室の糸谷も心なしか嬉しそうな様子。豊島は果敢に動いていったが、あまり戦果は挙げられなかった。しかし最終盤で豊島にチャンスボールがくる。複雑な局面を前に読みふけったものの、仕留めきれずに斎藤が勝利をものにした。仲間にバトンをつなぐ。
7局目 大石直嗣七段─高見泰地七段
第7局は大石と高見が対戦。チーム豊島はルーティン形式で自然体そのもの。チーム斎藤は引き続きあとがなくなっている。戦型は一手損角換わり。高見の早繰り銀に、大石は第1局と同じく、△4四歩~△4二飛と迎え撃つややクラシカルな指し方を選んだ。
【第4図は▲5五歩まで】
先手は飛車取りがかかっているのだが、逃げずに▲5五歩と突いたのが高見の狙っていた手だろう。「感触よし」と筆者も思ったものである。△3七桂不成なら▲5四歩と取り返して、▲5三歩成△同玉▲3一角の筋が残る。以下△5四同銀左なら▲3七桂でまずまずだ。しかしそれを上回る好手があった。△7六馬と歩をはがすのが強烈な踏み込み。▲7六同金に△3七桂不成で、▲同桂なら△3八飛~△6七銀の攻めが速いのだ。2枚の金の連係を断つのが急所ということである。高見も△3七桂不成に▲3四桂とひねり出したが、△同銀▲同歩△2九桂成▲5四歩△同銀▲7三歩△同金▲8二角△2八飛▲7七金引△7五桂で後手が攻め合い勝ち濃厚となった。そのまま大石の勝利。安定感ある受けと切れ味よい攻めの二面性は視聴者にインパクトを与えたのではないか。
チーム豊島は予選で苦戦していた大石が3連勝でチームを救うという熱い展開。勢いに乗って準決勝に臨む。余談だが盤外で妙に印象に残ったのは、対局前の意気込みで3人がそれぞれ決めポーズをしていたことである。あったまっているのは間違いない。次戦は「パーフェクトゲーム」が見られるか。
【総合成績】
第1局 大石○-●三枚堂
第2局 糸谷○-●高見
第3局 豊島●-○斎藤
第4局 大石○-●高見
第5局 糸谷○-●三枚堂
第6局 豊島●-○斎藤
第7局 大石○-●高見
総合5勝-2勝
【個人成績】
豊島九段 0-2
糸谷八段 2-0
大石七段 3-0
斎藤八段 2-0
高見七段 0-3
三枚堂七段 0-2