ーヒューリック杯第4期白玲戦七番勝負展望ー

ライター：渡辺弥生　　更新： 2024年08月29日

福間香奈女流五冠、女流順位戦A級を制す

ヒューリック杯第４期女流順位戦A級は福間香奈女流五冠と伊藤沙恵女流四段がともに７勝１敗で並んだ。伊藤は初戦で加藤圭女流二段に敗れ幸先の悪いスタートを切ったものの、そのあと全勝。逆に福間は初戦から連勝していたが、勝てば挑戦が決まる最終戦で伊藤に敗れた。内容は伊藤の完勝。感想戦では福間はもちろん、伊藤にも笑顔は見られなかった。ふたりはこの次の対局が「本番」なのだ。
そして７月１７日、関西将棋会館で福間と伊藤によるプレーオフが行われた。A級９回戦では中飛車から居飛車に振り直した福間が、今度は相振り飛車を採用。囲いもそこそこに中央から攻めかかり、瞬く間に伊藤陣を粉砕してしまった。ここ一番での勝負強さはさすがとしか言いようがない。ヒューリック杯第４期白玲戦七番勝負の挑戦者は、福間に決まった。

写真：虹

西山と福間、3年連続の七番勝負

福間香奈女流五冠は現在清麗・女流王座・女流名人・女流王位・倉敷藤花の五冠を保持。女流タイトルの獲得はなんと合計59期。クイーン清麗、クイーン王座、クイーン名人、クイーン王位、クイーン王将、クイーン倉敷藤花の資格を持つ。１度も獲ったことのないタイトルはない。
福間を迎え撃つのは西山朋佳白玲。白玲のほか、女王・女流王将の合わせて三冠を保持。女流タイトルの獲得は16期で、永世女王の資格を持つ。
ちょうど１年前の第３期白玲戦七番勝負で戦ったのもこのふたり。このときは福間がタイトルホルダー、西山が挑戦者だった。第１局は福間が勝ち、そこから西山が第２局、第３局、第４局と３連勝。カド番となった福間が第５局、第６局を返して星をタイに戻し、最終第７局へ。相振り飛車の大熱戦となった。

図は▲８四飛に△８三歩と受けたところ。先手が西山、後手が福間だ。パッと目に付くのは▲５四飛だが、もちろん西山は遊び銀には目もくれない。

【図は△8三歩まで】

＜図＞以下の指し手
▲８三同桂成△同桂▲９一銀△同玉▲９三歩△８二玉▲９二飛△７一玉▲８三飛成△６一玉▲８一龍△７一桂▲８二飛成△５一玉▲５三歩

途中、▲９一銀△同玉に▲８三飛成...かと思いきや、▲９三歩が厳しい手。最後の▲５三歩がとどめの一撃で、①△５三同金直は▲７一龍寄に△６一合でも△４二玉でも▲６二竜寄。②△５三同金右は▲７一竜上△４二玉▲３一竜まで。最後は後手玉を即詰みに討ち取り、西山が福間から白玲のタイトルを奪取した。その前の第２期白玲戦七番勝負では逆に福間が西山から４勝３敗で白玲を奪取しており、これは今回も大熱戦になるのは間違いない。

写真：八雲

女流棋界最高峰の戦い

西山朋佳白玲と福間香奈女流五冠はこれまでに15回もの番勝負を戦っており、西山７勝、福間８勝と、ほぼ五分五分の成績だ。この１年間に限ると、西山が福間から白玲を奪取したあと、11月の大山名人杯第31期倉敷藤花戦３番勝負は福間が２連勝で倉敷藤花を防衛し、１月から２月にかけて行われた岡田美術館杯第50期女流名人戦５番勝負は福間が３勝１敗で西山から女流名人のタイトルを奪って女流五冠に復帰した。
ふたりとも女流棋戦はもちろん、棋士の公式戦でもよく勝っているのはみなさまご存知の通り。福間はつい先だっての８月20日に大成建設杯第６期清麗戦五番勝負第４局で加藤桃子女流四段を破り清麗のタイトルを防衛、クイーン清麗となった。公式戦で６割５分以上（10勝以上）の成績を挙げた西山には９月から棋士編入試験が待っている。両対局者とも好調で、番勝負の行方がどうなるかはまったくわからない。
ふたりとも振り飛車党で、西山は強烈な攻め将棋、福間はバランス型。自分がふたりと指したときの印象を「風林火山」で例えると、福間は自分が攻めても攻めても崩れない、動じない、という意味で「そのしずかなること林の如く、動かざること山の如し」。西山は「そのはやきこと風の如く、侵掠（しんりゃく）すること火の如し」である（こちらは説明不要だろう）。そしてどちらも終盤が恐ろしく強い。戦型はこれまでのように相振り飛車が濃厚。西山の振り飛車に福間が居飛車で対抗する居飛車対振り飛車の対抗型も見らそうだ。女流棋界最高峰の戦いにご期待ください。

ヒューリック杯第４期白玲戦七番勝負は８月31日（土）、東京都港区「グランドニッコー東京　台場」で開幕する。