チーム稲葉VSチーム佐々木 ABEMAトーナメント2024~予選Dリーグ第一試合振り返り~

チーム稲葉VSチーム佐々木 ABEMAトーナメント2024~予選Dリーグ第一試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2024年06月06日

 ABEMAトーナメント2024、6月1日(土)に放映されたのは予選Dリーグ第一試合、チーム稲葉「井上一門」(稲葉陽八段、藤本渚五段、上野裕寿四段)対チーム佐々木「リーダー頑張ります!」(佐々木勇気八段、伊藤匠七段、久保利明九段)戦の模様をお伝えする。

 第1局は▲伊藤―△上野戦。初タイトル獲得へ間近に迫る伊藤と昨年の新人王である上野の対戦は角換わりとなる。右玉から馬を作った上野が、その馬の威力を生かす形で押し切り、初戦を制した。
 続く第2局はチーム佐々木がリーダー自らの登場に対し、チーム稲葉は上野が連闘。稲葉八段はリーダーとして一昨年は優勝、昨年は準優勝と2年続けて好成績を残しているが、勝者を連闘させるケースが多かった。勢いを重視することが短期決戦を制することにつながるか。▲上野―△佐々木戦は後手番一手損角換わりとなる。

【第2局 佐々木勇気八段―上野裕寿四段】

abema2024_0601_01.jpg

【第1図は▲5三同桂成まで】

 第1図はその中盤、先手が金を取った局面である。後手は当然△5三同玉と取り返すが、この瞬間、4枚の桂馬が全て後手の駒台に乗った。解説の村中秀史七段も「桂4枚はなかなかないんじゃないんですか」と注目し、聞き手の千葉涼子女流四段は「集めるのも大変かもしれない」と応じる。
 実際、同一の駒4枚が全ていずれかの駒台に乗ったケースはどれほどあるのか。14万局以上の実戦例が収録されているデータベースを当たると、桂4枚が後手の駒台に乗った前例は241局あった。確率に直すと0.1%ほどである。なお先手の駒台の場合は261局だ。
 同様に他の駒を調べると、金4枚が先手の駒台は258局、後手の駒台は235局。銀は先手が390局、後手は433局。香車は先手が39局、後手が38局となっている。
 なお、さすがに歩が18枚全ていずれかの駒台に乗ったケースはないが、先手の駒台に歩が13枚乗った前例が4局、後手の駒台に歩が14枚乗った前例が1局ある。
 閑話休題。実戦は△5三同玉から▲5四歩△4二玉▲5三角△3三玉▲3四歩△同玉▲3五歩△同玉▲6四角成△5八と、と進み、最後は佐々木が勝ってチーム成績をタイに戻した。

【第5局 稲葉陽八段─伊藤匠七段】

abema2024_0601_02.jpg

【第2図は△7七歩まで】

 しかしチーム稲葉はここからが強かった。第3局では藤本が久保に勝つと、続く第4局も連投の藤本が今度は佐々木を破る。佐々木として「ボコボコにされました」と苦笑するしかないほどの快勝譜だった。そして第5局にしてようやくリーダー稲葉が登場すると、振り飛車で伊藤の居飛車穴熊を打ち砕いた。第2図は最終盤の局面で、この△7七歩が用意周到。実戦は▲9四歩△同香▲8五銀△4七歩成▲6八竜△5七と▲同竜△6九飛と進むが、この時に▲7八玉とできないのが垂らしの効果である。以下数手で伊藤が投了。

 これでチーム稲葉は4勝1敗、続く第6局は一気に決めるべく、リーダーが自ら連闘する。久保との対戦でも必勝形を築いたが、最後の最後で着地に失敗し、まさかの大トン死負け。控室の一同も呆然とするしかなかった。そして第7局の▲伊藤―△藤本戦は相矢倉の将棋を伊藤が攻め勝ち、チーム佐々木の対戦成績を3勝4敗とする。
 これで次戦もチーム佐々木が制し、1勝4敗からフルセットに持ち込めば流れも完全に変わるとしたものだが、第8局では若手の上野がベテランの久保相手に踏ん張った。久保得意の石田流に対し、銀冠で対抗する。

【第8局 久保利明九段─上野裕寿四段】

【第3図は△9四同金まで】

 第3図から▲9四同香は△同桂が8六の角に当たりまずい。ここで上野が指した▲2四歩がいかにも筋という順である。△同歩は▲4六桂で飛車が捕まるし、△同飛▲同歩△同歩は▲7一飛が痛過ぎる。久保は△2五香と切り返したが、▲5六飛△2四飛に▲5四歩△同歩▲6五歩でやはり先手が好調だ。△6五同歩は▲6四歩で銀の行き場所がない。

abema2024_0601_03.jpg

 予選Dリーグ第一試合はチーム稲葉が5勝3敗で勝利。「2人が大活躍してくれた」と稲葉リーダーは弟弟子たちを称えた。続いて6月8日に放映される予選Aリーグ第二試合、チーム渡辺対チーム中村の対戦もどうぞお楽しみに。

abema2024_0601_04.jpg

【総合成績】
第1局 上野○-●伊藤(第1局はチーム佐々木が先手番。以下は交互)
第2局 上野●-○佐々木
第3局 藤本○-●久保
第4局 藤本○-●佐々木
第5局 稲葉○-●伊藤
第6局 稲葉●-○久保
第7局 藤本●-○伊藤
第8局 上野○―●久保
総合5勝 ― 3勝

【個人成績】
稲葉八段 1-1
藤本五段 2-1
上野四段 2-1
佐々木八段 1-1
伊藤七段 1-2
久保九段 1-2

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています