チーム藤井VSチーム豊島 ABEMAトーナメント2024~予選Cリーグ第一試合振り返り~

チーム藤井VSチーム豊島 ABEMAトーナメント2024~予選Cリーグ第一試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2024年05月28日

5月25日(土)に放送されたABEMAトーナメント2024予選Cリーグ第一試合を振り返る。チーム藤井「パイナップル」(藤井聡太竜王・名人、羽生善治九段、青嶋未来六段)とチーム豊島「関西三銃士」(豊島将之九段、糸谷哲郎八段、大石直嗣七段)の対戦だ。

振り駒の結果、チーム豊島の先手番に。開幕局は青嶋と大石の対戦に。大石はABEMAトーナメントに初出場。順位戦ではB級1組に昇級するなど実績を残す実力者だ。相雁木の将棋になると大石がペースをつかむ。しかし青嶋の粘り強い指し回しがうまく、時間に追われた大石が乱れて逆転。青嶋が底力を見せる。大石にとっては苦いデビュー戦になった。

第2局は羽生と豊島の対決に。羽生が早繰り銀で攻める展開になった。豊島の受けも見応え十分。上部に駒を集めて決定打を与えない。攻めあぐねた羽生に異筋の金打ちが出るなど、力のこもった戦いに。最後は豊島が抜け出した。時間配分も見事で、まさしく百戦錬磨の立ち回りだった。

第3局は藤井と糸谷の対決。羽生が敗れたら藤井が出る。チーム藤井の戦力層の厚さたるや。そちらがどうしても目立つものの、チーム豊島も糸谷を擁するのは強力である。将棋は相雁木模様から糸谷が右玉にシフト。意欲的に5筋の位を取ったが、すかさず反発され、藤井がわずかにポイントを稼いだ。先攻した藤井がいわゆる「藤井曲線」を描く指し回しを披露。冷静かつ的確な手順で糸谷に逆転の要素を与えなかった。

【第4局 羽生善治九段─豊島将之九段】

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第4局はまたも羽生と豊島の顔合わせ。相矢倉の出だしから豊島は矢倉中飛車を採用。中盤戦の局面を紹介する。

【第1図は△5五飛まで】

(56手目)△5五飛とズドンと飛び込んだのが強手。▲5五同銀は△同角の両取りが厳しく、5筋も薄くなるので△5七桂成も生じる。守りの要である6六銀を失ってはいけないと▲4六角で抵抗するが、さらに△5九飛成が華々しい。▲5九同玉に△6六角で豊島の攻めが決まった。スコアは2勝2敗。一進一退の攻防が続く。

第5局。勝負どころで青嶋と大石が登場。両者の力を信頼した采配だ。先ほどは相雁木だったが、本局は青嶋の向かい飛車で対抗形に。穴熊模様から青嶋が動いて飛車交換になり、繊細な指し回しが求められる神経戦となる。玉頭に戦いの舞台が移ると大石が力を発揮。素早く寄り形を築いて快勝を収めた。

【第6局 藤井聡太竜王・名人─糸谷哲郎八段】

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第6局。勢いに乗るチーム豊島は糸谷を投入。チーム藤井はリーダーが悪い流れを止めにかかる。将棋は糸谷が連採する3三金型の角換わりに。昨年11月の第44回将棋日本シリーズ決勝の将棋と同じ展開になった。藤井が5筋の位を取って変化し、糸谷が反発。第3局が頭をよぎる。

【第2図は△3五歩まで】

中盤戦。持ち時間の長い棋戦なら長考の応酬になってもおかしくない難解な進行だ。
(72手目)△3五歩と突いて角を閉じ込めにいったところで藤井が技を見せた。▲5二歩△同銀▲4五歩△3四金▲3五歩△2四金▲同飛がなるほどの組み立て。▲5二歩△同銀の交換によって飛車を走る手が銀取りの先手だ。以下△6三銀引に▲4四歩と伸ばして先手の景色がよくなってきた。▲4五桂や▲5三歩△同銀▲4三歩成などの攻め筋があり、後手がまとめにくい。以下も藤井が確実に攻めをつないで勝ちきった。

【第7局 羽生善治九段─豊島将之九段】

【第3図は▲7七同桂まで】

第7局はまたまた羽生-豊島戦。羽生にとっては意地を見せたい一番だ。その思いが生んだのか、素晴らしい寄せが現れた。
(77手目)▲7七同桂の局面。ここで△6八銀が鋭手。△6九銀だと▲8七玉と逃げられたときに4七角が使いづらいため、あえて6八に打つのがいい。▲6八同玉は△5九銀▲7八玉△6九角成▲8九玉△8七歩で寄り筋だ。本譜は▲4七飛と指したが、△同と▲4三歩成△7九飛▲8七玉△9七金まで羽生の勝ち。最後の金捨ても美しい。▲9七同玉は△7七飛成から、▲9七同香も△8九飛成から△9八銀の筋で詰みだ。羽生が大きな勝利で4勝目を挙げる。

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第8局。チームの勝利まであとひとつの場面で藤井が決めにいった。対するは大石。最終局で待つ兄弟子糸谷にバトンをつなげたい。横歩取りの将棋になり、戦いが始まってから藤井が曲線的な手順で局面を収めにかかる。指し手が難しくなった大石は時間切迫に泣かされた。終盤で差をつけた藤井がそのまま勝ちきり、チーム藤井が好発進を切った。今大会の優勝候補筆頭ともいえるドリームチームだが、決して楽な戦いではなかっただろう。今後の各チームの戦いぶりに注目だ。

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【総合成績】
第1局 青嶋○-●大石(第1局はチーム豊島が先手番。以下は交互)
第2局 羽生●-○豊島
第3局 藤井○-●糸谷
第4局 羽生●-○豊島
第5局 青嶋●-○大石
第6局 藤井○-●糸谷
第7局 羽生○-●豊島
第8局 藤井○-●大石
総合5勝-3勝

【個人成績】
藤井竜王・名人 3-0
羽生九段 1-2
青嶋六段 1-1
豊島九段 2-1
糸谷八段 0-2
大石七段 1-2

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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