名誉王座か、八冠独占か。―第71期王座戦五番勝負展望―

名誉王座か、八冠独占か。―第71期王座戦五番勝負展望―

ライター: 相崎修司  更新: 2023年08月29日

 永瀬拓矢王座に藤井聡太竜王・名人が挑戦する第71期王座戦五番勝負は8月31日(木)に「元湯陣屋」で開幕する。八大タイトルのうち、七冠を占める藤井竜王・名人が残る一冠を目指して、ついに勝ち上がってきた。史上初となる全八冠独占なるかに注目が集まる五番勝負を展望する。

 まずは永瀬王座。今期の王座戦には5連覇がかかる。5連覇を達成すると、同時に永世称号である「名誉王座」の資格を得る。名誉王座は王座を連続5期あるいは通算10期獲得することで得られるため、現在通算4期の永瀬は、このチャンスを逃すとしばらく永世称号獲得のチャンスは回ってこない。これまでの永瀬は第67期で斎藤慎太郎王座(当時)を破り、初の王座獲得、以降は久保利明九段、木村一基九段、豊島将之九段をそれぞれ下している。

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写真:睡蓮

【第1図は▲3二角まで】

 第1図は前期の第4局。この角打ちに対して、実戦は△2三銀上▲8四香△3一飛と進んだ。先手陣は穴熊で堅く、以下の▲2一角成△同飛▲1三香成はなかなかうるさそうな順だが、対して△2四銀▲1二成香△3一飛▲8三香成△2五銀右まで進むと、先手は後手の飛車の成り込みを防げない。また同時に後手玉の入玉ルートも開けている。後手は入玉してしまえば3枚の大駒が生きる展開になるし、穴熊の先手が相入玉を目指すのは極めて困難だ。実戦も後手の入玉がほぼ確定となった局面で終局し、永瀬が4連覇を達成した。

 対する藤井竜王・名人。最後に残った一冠ということで鬼門とも言われる王座戦だが、実は八大タイトル戦の中でベスト4入りを最も早く実現したのが王座戦である。初参加となる第66期で、一次予選から8連勝し、準決勝まで勝ち進んだ。本戦シードの今期は1回戦から中川大輔八段、村田顕弘六段、羽生善治九段、豊島将之九段を破り、挑戦権を獲得している。

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写真:常盤秀樹

【第2図は△5二玉まで】

 第2図は挑戦者決定戦の豊島戦。先手玉は左右挟撃態勢の詰めろが掛かっているが、藤井はここから▲6七桂△6五玉▲6六歩△7六玉▲9八角△8六玉▲7七銀という順で詰めろを解除し、逆転に成功する。手順中の△6五玉では△5四玉ならば後手に分があったようだが、▲3四竜と取られる形が一目は厳しそうなので、秒読みの最終盤では指しにくいのも致し方ないだろう。

 改めて、今期の五番勝負である。冒頭で触れたようにこの王座戦には藤井の全冠独占が掛かっている。これまで、全冠制覇に挑んだ事例は以下の通りである。

1957年度 升田幸三 第16期名人戦 三冠達成
1959年度 大山康晴 第18期名人戦 三冠達成
1960年度 大山康晴 第1期王位戦 四冠達成
1962年度 大山康晴 第1期棋聖戦 五冠達成
1963年度 大山康晴 第13期王将戦 五冠復帰
1966年度 大山康晴 第9期棋聖戦 五冠復帰
1970年度 大山康晴 第16期棋聖戦 五冠復帰
1977年度 中原誠  第3期棋王戦 六冠ならず
1994年度 羽生善治 第44期王将戦 七冠ならず
1995年度 羽生善治 第45期王将戦 七冠達成

 全冠挑戦の10例のうち、8回が全冠達成だ。残る2例のうち、まず中原十六世名人は全冠独占こそならなかったが、棋王は第5期で獲得し、いわゆるグランドスラム(全てのタイトルを1期以上獲る)を達成している。そして羽生九段の場合は2年越しの七冠挑戦で達成。挑戦失敗後、六冠全てを防衛してから再度王将戦で挑戦権を獲得したことが全冠独占に勝るとも劣らぬ偉業と言われた。

また大山十五世名人は史上2例目となる三冠達成後、相次いで創設された王位戦、棋聖戦をも制して四冠、五冠とタイトルを増やした。その後も単発的にはタイトルを失うことはあったが、取られた翌年に取り返し、幾度となく全冠制覇を達成。この間には全タイトル戦連続出場50期(1957年度第16期名人戦~1967年度第26期名人戦)という不滅の記録を作っている。

 さて、今期の藤井竜王・名人である。永瀬王座との対戦成績を考えると(藤井の11勝5敗)、王座奪取は十分にあり得ると言える。果たして永瀬が意地を見せて、自身初の永世称号を獲得するか。それとも藤井が夢の全八冠制覇を達成するか。大注目の五番勝負から目が離せない。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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