ライター藤田華子
【PR:ローソン×八代弥七段】地に根を張り、少年は大人に。海で語る今の気持ち--八代弥七段の素顔
ライター: 藤田華子 更新: 2022年04月07日
スイーツを口にする時間は、ホッと一息つき、素の自分に戻るとき。今回はローソンの「大きなエクレア」を食べながら、八代弥(わたる) 七段の素顔に迫ります。
「流れる水は腐らず」――いつも努力を絶やさずにいれば、進歩は止まらないという諺です。八代弥七段から「海や川のそばにいると落ち着く」と伺い、頭に浮かんだ言葉でした。
静岡で棋士を目指し、22歳の時には第10回朝日杯将棋オープン戦で一次予選から勝ち上がり棋戦初優勝。第35期竜王戦ランキング戦1組所属、2021年度の三部門ランキング(対局数、勝数、勝率)で各部門10位以内となる実力派。
同世代に多くの棋士がいるなかで決して前に出るタイプではないけれど、周囲に大切に育てられ、その感謝をまわりに返し、しっかりと哲学も技術も根を張り成長し続ける...八代七段のこれまでと素顔に迫り、そんな印象を抱きました。「『八代ってこういう人間だな』って、雰囲気で書いてもらって良いですよ(笑)」と笑いながらも、言葉を尽くし、今の気持ちを語ってくださったインタビューです。
思い出の江ノ電。顔を合わせてのコミュニケーションを重んじて
――本日は、八代七段が「落ち着く場所」として挙げてくださった海辺で撮影しました。
ありがとうございます。静岡に住んでいた頃は、自室の窓から海が見えました。今でも川や海など、水辺にいると落ち着きますね。関東では江ノ島エリアが好きで、江島神社で厄払いをしたり、鶴岡八幡宮でおみくじを引いたり。江ノ電1日乗車券「のりおりくん」は、区間内は乗り降り自由。江ノ島から鎌倉の間の駅はほとんど降りました。5年ぐらい前、友人と車で由比ヶ浜の海岸でビーチボールを膨らませて遊んだこともあります。
――かわいいクマのぬいぐるみ!
こう見えて、ぬいぐるみ好きなんです。家に、ゲームセンターで取ったぬいぐるみがたくさんいます。
――意外な一面です。よく「お酒が好き」とも話されていますね。
友人と取り止めのない会話をする時間が好きなんです。僕は強いお酒をストレートかロックで、少しずつ飲みます。ご一緒すると、「八代さんってけっこう喋る人なんですね」「もっと堅い人だと思ってました」って、いい意味でも、おそらく悪い意味でも言われます(笑)。
――同じ空間や時間を共有するコミュニケーションを大切にされているのは、八代七段がSNSをやられていないこととも通じるような...?
そうかもしれません。インターネットを通したつながりも魅力がありますが、なんというか、僕は顔を合わせて話すコミュニケーションを大切にしているんだと思います。将棋も、ネットで指すよりは、対面で指すほうが好きですね。
――一方、ここ数年はひとりで飲みに行くことも増えたとか。
新型コロナの感染状況が落ち着いている時は行きつけのバーにひとりで行きます。仲が良い高見泰地七段が叡王を獲得した日も、バーにいました。あの日は、本当、将棋をしてきたなかで一番悔しくて...僕の様子がいつもと違うから、マスターに心配をかけたほどでした。「今日は自分にとってすごい日で、仲の良い友だちがタイトル獲ったんですよ」と言った気がします。実は、その先をあんまり覚えてないですよ。気付いたら、近くの公園で寝ていました(笑)。それくらい、自分の中ではインパクトの大きな出来事だったんだと思います。
――同年代の棋士が大勢いらっしゃいます。たとえば、平成16年(2004年)奨励会入会組だと、東は永瀬拓矢王座、佐々木勇気七段、三枚堂達也七段、石井健太郎六段。西は斎藤慎太郎八段、菅井竜也八段。そんな中で、八代七段はどんな存在になりたいですか?
自分はふだん前に出る性格ではないと思ってますが、欲を言えば一番活躍して、皆に刺激を与えられる存在になりたいです。
「東京にいたら棋士を目指さなかったかも」――原動力は、地元と師匠への感謝
――将棋に向かう時の原動力は何でしょう?
一番は、地元の方と、師匠・青野照市九段の声に応えたいという気持ちです。今はお会いする頻度も減り、年賀状のやりとりをするくらいですが、師匠の期待に応えたいという気持ちは常に持っています。
――静岡は、イベントも、タイトル戦も多く将棋が盛んな場所ですよね。師匠の青野九段や、そのまた師匠の廣津久雄九段が普及に尽力してくださったからだと伺っています。
そうですね。静岡県の全域に将棋を広めた方なのかなと思います。僕は廣津先生にお会いしたことがなくて。浜松の支部長さんから、「お洒落な方だったよ」と伺っています。お会いしたかったな。
――一門への想いから、地元・静岡で棋士を目指すことができた感謝と、苦労が伝わってきます。
師匠がいなかったら僕は棋士になれていませんから、感謝しかないですね。苦労という点だと、距離的なハンデと、将棋大会の情報が入ってこない情報格差はありました。同じ静岡出身の桃ちゃん(加藤桃子清麗)は僕のこと、「伊豆のほうに強い子がいるんだけど、不思議なことに大会に出て来ない」と聞いていたみたいで。意識的に顔を出さないんじゃなくて、大会の情報を知らなかったから出られなかっただけなんですけど、謎の少年として認識されていたと聞きました(笑)。
――それから伊豆の道場に通うようになり、プロ棋士への道が開けていったのでしょうか?
そうですね。伊豆の将棋支部は小さいクラブで、休日に将棋を楽しむ感じです。今はお子さんも増えているようで嬉しいですが、私が初めて顔を出した17、18年前、子どもは僕ひとり。休日だけでも将棋を指せる環境は自分のなかですごく大切な時間で、まわりの方にかわいがってもらって...それで単純に将棋が楽しくて、好きだからプロになりたいという気持ちが芽生えたと思います。
――八代七段の原点のような場所ですね。
本当にそうです。地元にいたハンデも感じますが、逆に、もし自分が東京にいたら棋士を目指さなかったのかなと思うこともあります。たとえば、仮に将棋を覚えたとしても東京には他にも遊ぶものがたくさんありますよね。その中から将棋を選んだのかは、正直わかりません。そういう意味で、自分は静岡という環境が、棋士を目指すうえで大きく影響したのかなと思います。
――今後、もしお弟子さんを取る際は、地元の方を?
今のところはまだ考えてないですが、もし取ることになれば、地元の方だと思います。同じ県内の方を応援したいですから。
蒲田将棋クラブでの仲間との日々
――奨励会時代は、月に何回くらい東京に?
月に2回は奨励会、もう2回は蒲田将棋クラブに、片道2.5 時間かけて行っていました。蒲田将棋クラブは棋士を育て、歴史を紡いできた場所ですね。小学6年生の頃から通いましたが、同年代の高見くん、三枚堂くんたちと練習将棋を指したり、みんなで少ないお小遣いで帰りにたこ焼きを食べたりしました。子どもながらに交通費をかけて通うぶん何かを得て帰りたいと思いながらも、すごく楽しかったですね。
――当時の仲間との思い出を教えてください。
僕の終電が、21時ごろと早いんです。奨励会の例会が終わった後はみんなでトランプで遊んだりするんですけど、盛り上がっている時に抜けるのはいつもちょっと寂しくて。何回か「八代が帰るから解散しようか」っていってくれたことがあって、それはうれしくて覚えてますね。
あと、伊東から電車で奨励会に向かう時、電車が遅延して対局に間に合わなくなってしまいそうになったんです。同じく奨励会員だった三枚堂くんに連絡したら、なんとか早く着けるように乗り換えを調べて、すごく心配してくれて。僕たちは奨励会で、ライバルだったにもかかわらずです。ありがたいと思いましたね。
22歳、一次予選からの朝日杯優勝。将棋で勝てない時は、人に頼る
――朝日杯での優勝についても伺いたいです。朝日杯は有楽町朝日ホールでの公開対局が有名ですが、いかがでしたか?
公開対局は、ふだんの対局とはまったく違います。観られているという意識があるんです。当時、大したキャリアがないなかで優勝できたということは、自分はそういう場所が向いているのかなとは思いましたね。
――注目されるほど燃える?
結果的にそうなのかもしれません。注目される環境で戦う自信や、誇りみたいなものを持てたのは財産です。覚悟を決めるというと仰々しいですが。
――何かを覚悟する時、八代七段の頭には何が浮かびますか?
やっぱり、これまで応援してくださった方の顔が浮かびますね。実はあの日、母や友人、高校の頃の恩師などが来てくれました。
――ご家族にかけてもらった言葉や、忘れられない思い出はありますか?
奨励会時代、四段に昇段する時になかなか勝てなくて落ち込んでいたら、外食に連れ出してくれて、親身になって相談に乗ってくれてすごく嬉しかったのを覚えています。その後、勝てばプロになれるという対局の前日、神社でお参りがしたいと母に相談したら連れて行ってくれて。あの時ほど勝ちたいという気持ちでお祈りしたことはなかったので、これもよく覚えています。
――「将棋のこと、特に不調の時はまわりには相談しない」という先生も多いですが、八代七段はオープンですね。
ああ、そうですね。僕は将棋で勝てない時は人に頼ります。勝っていても、負けていても、応援してくれる人がいるなと感じているから、外に向けられるんだと思います。本当にありがたいですし、僕はそういう方に感謝を返すというか、そういう方を大切にしていきたいなって思います。
辛党でもペロリと2つ!「大きなエクレア」の贅沢なクリーム感
――では、お話も進んだところでおやつタイムに入ります。今日はローソンの「大きなエクレア」をお召し上がりいただきました。
お酒が好きなこともあり、実はふだん、甘いものはあまり食べないんです。でも、カスタードクリームは好きなんですよ。ローソンさんのスイーツだと、シュークリームを食べることが多いかな。なかなかエクレアをいただく機会がなかったんですが、せっかくの機会なので今回選びました。
――お味はいかがでしょう?
とにかく、クリームが贅沢!たくさん入っているから、撮影中なのに溢れちゃって食べるのに苦戦したぐらいです(笑)。ふたつ、ペロリといただきました。上にかかっているチョコレートはあまり甘すぎず、食べやすかったです。コーヒーとよくマッチする美味しさです。またいただきたいです。
10問アンケート
インタビューで聞ききれなかった10の質問を、八代弥七段に伺いました。
- Q1
- お名前の由来は?
- 八代
- 親が"ワタル"とつけたくて、漢字を探したと聞きました。「弥」という漢字を使うのは珍しいですよね。
- Q2
- 好きなお店の好きな一品を教えてください。
- 八代
- 江ノ電沿いのエリアで一番のオススメ・腰越駅にある『中華そば トランポリン』をご紹介します。入り口に、「中華そば」「チャーシュー麺」などメニューが書かれた木の札が置いてあって、その札を渡すシステム。自分は行列に並ぶのが苦手なのですが、これは食べたくて並びました。個人的には、中華そばが美味しいと思います。
- Q3
- お気に入りのお酒の銘柄は?
- 八代
- 日本酒とウイスキーをよく飲むんですが、日本酒は秋田の『刈穂』、福島の『寫樂(しゃらく)』が好きです。ウイスキーは飲みやすいものは『ザ・マッカラン』、癖が強いものだと『ラフロイグ』。僕にとって『ラフロイグ』は負けた時に飲みたくなるお酒なので、勝利の美酒ではないかな(笑)。
- Q4
- ご本を読まれるそうですね。お好きな作品を教えてください。
- 八代
- 湊かなえさんの短編集『望郷』はお気に入りの一冊。繰り返し読んでいます。あとはメンタルトレーニングの本。自分のプレースタイルは決して鋭くなく、鈍くさいタイプだと思っています。「勝てる」と思うまでにも時間がかかる。慎重派で、それがいいこともあれば、裏目にでることもあるから、ここ1、2年はメンタルについて意識的に考えるようになりました。
- Q5
- 棋士になっていなかったら、何になっていたと思いますか?
- 八代
- 難しいですね、全然イメージがつかないです。子どもの頃の夢は、おもちゃ屋さんでした。
- Q6
- これまで気づかなかった、意外なスキルは?
- 八代
- 僕、タクシーの運転手さんとよく仲良くなるんですよ。栃木県が好きで、友人と奥日光に行った時に案内してくださった運転手さんと色んなお話をして、最後に名刺をいただいて、後日お礼の連絡を差し上げました。先日は、別の運転手さんの息子さんについての悩み相談を聞きました(笑)。
- Q7
- いつか会ってみたい人はいますか?もしくは尊敬している人は誰ですか?
- 八代
- 有吉弘行さん。トークが面白いので。最近よく見る番組は『有吉の壁』です。
- Q8
- 行きたい場所は?
- 八代
- 国内だと北海道に行きたいです。2度ほど行き、すごく楽しかったので。海外はヨーロッパ。フランスのルーブル美術館でのんびりしたり、いろんな価値観に触れてみたりしたいです。旅行といえば、渡辺(明名人)先生と戸辺(誠七段)先生の旅行にご一緒させていただいたこともあって。那須や福島にも、茨城、軽井沢でカーリングをしたりもしました。渡辺先生がカーリングお上手でびっくりました。
- Q9
- 10年後はどんな棋士になっていたいですか?
- 八代
- 棋士になって10年目なんですけど、その間に、対局、棋士として求められるものを自問自答するようになりました。これからの10年後も、今自分が思っているより、はるかに想像を超えた姿があるんじゃないのかなと何となく思っています。 そしてずっと、将棋が好きな棋士でいたいです。特に調子が悪い時って、うまく自分を受け入れられないことがあるんですよね。この先もそういった葛藤に向き合うと思うんですけど、頑張る気持ちや、将棋が好きな気持ちを持ち続けていたいです。
- Q10
- ファンの方へメッセージをお願いします。
- 八代
- 自分は静岡で棋士を目指して、プロになった時には「将棋の普及にも尽力したい」と話しました。今も将棋で活躍し、普及もする、両軸で頑張っていきたいと思っています。今回の取材もですが、少しでも将棋界の裾野を広げられるように頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
写真:阿部吉泰
八代 弥七段
1994年3月3日生まれ。静岡県賀茂郡出身。青野照市九段門下。
2012年4月四段。2016年度、22歳の時に第10回朝日杯将棋オープン戦で、一次予選から勝ち上がり棋戦初優勝。第44回将棋大賞で新人賞受賞。第34期、35期竜王ランキング戦1組所属。2022年3月時点で勝数ランキング4位の実力派。駒音をほとんど立てずにゆったり指すことから、将棋ファンのあいだでは「優雅」と称される。趣味はお酒、ダーツ。