いよいよ決勝!チーム藤井VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~決勝振り返り~

いよいよ決勝!チーム藤井VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~決勝振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2021年09月29日

 お〜いお茶presents第4回ABEMA本戦トーナメントの優勝を懸けて、チーム藤井「最年少+1」(藤井聡太三冠、高見泰地七段、伊藤匠四段)とチーム木村「エンジェル」(木村一基九段、佐々木勇気七段、池永天志五段)が9月18日(土)にぶつかった。その模様をお送りする。

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チーム藤井の入場

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チーム木村の入場

まずは第4局までの結果を載せよう。

第1局 伊藤●-○木村
第2局 藤井○-●池永
第3局 高見●-○佐々木
第4局 伊藤○-●木村

 第1局は木村が幸先のよい逆転勝利を挙げるも、第2局で藤井がすぐにタイに戻す。第3局の同門対決は佐々木勝ち、第4局は伊藤がリベンジに成功した。

【第5局 藤井-佐々木】

 2勝2敗で迎えた第5局。チーム藤井は順番通りに藤井が出場、チーム木村は佐々木が藤井を予想して立候補した。佐々木は「10個ぐらいぶつけたいものがある」と気合十分ながらも迷っている様子で、木村は優しくエールを送った。
「盤の前にいくまでに決めればいい。好きなようにやるのがいい。我慢しないのがいいと思います」

 藤井の先手で対局が始まり、初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△8四歩▲2五歩△8五歩と進む。横歩取りの出だしに藤井は意表を突かれたのか、△8五歩に▲2四歩を突こうするも、すぐに定跡通りの▲7八金に手を変えた。伊藤はチーム木村が横歩取りを研究していることを知っていたようで、「(藤井に)いっておけばよかったな」とつぶやいていた。ちなみに永瀬拓矢王座によれば、伊藤は本大会に向けて佐々木と朝6時からフィッシャールールで練習したことがあるそうだ。

【第1図は△3六歩まで】

 序中盤は藤井が少しずつ時間を使い、佐々木が横歩取りの最新形から手を変えてハイスピードで進めたのが第1図。先手は▲8二馬で駒得できるものの、△3七歩成や△3四香から3筋を攻められたときにどうなっているかが難しい。

 しかし、藤井の組み立てがすごかった。まずは▲7五桂。▲6三馬を先受けして△4一玉と早逃げしても、▲6三馬△3二玉▲3六馬と歩を取られてしまう。実戦は△6二金と受けたが、▲8三歩! 落ちている銀を馬で取らず、歩で取りにいったのが絶妙だった。効率が悪いようでも、よく見れば▲8二歩成~▲7二とが速い。と金が金に当たるのは、▲7五桂で△6二金の受けを強いたからだ。

 苦しくなった佐々木は必死に食らいつこうとするも、藤井が手厚い指し回しで押し切った。局後に藤井は「▲8三歩が通ったから、よくなった」と振り返っている。

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第5局▲藤井−△佐々木戦

【第7局 藤井-木村】

 第6局は池永が高見を199手の長手数でくだし、またタイに戻す。改めて三番勝負になり、第7局はリーダー同士の対決となった。

【第2図は△7八角まで】

 戦型は相掛かり。2021年になってから、藤井は先手番で連採している。コツは十分につかんでいるようで、中盤でさっそくリードを奪った。第2図は△7八角と打ち込んだところ。駒損の上に角を犠牲にしかねないが、何とか食らいつこうとした勝負手だ。佐々木は「気持ちでいってるね」とモニター越しに見守った。

 △7八角をすぐ▲同歩とは取れないが、△8八竜と銀を取らせれば玉をにらまなくなるので、▲7八歩とできる。それを見越して▲3四角△3三金▲4五角がうまい揺さぶりだった。▲3四角は▲4四桂、▲4五角は▲6四桂の先手で、急に角が攻めに働いている。木村は▲4五角に△6二金とかわすも、そこで▲8七金がうまい。▲7七金の受け潰しを見せて△8七同角成を催促し、▲同銀と取り返せば後手が困っている。以下△同竜は▲7四桂が痛く、△6一金とかわすと▲6二銀や▲3四銀△同金▲同角が▲6五角と▲2三飛成を狙って厳しい。実戦は▲8七金△同角成▲同銀に△3八歩▲同飛△9九竜とするも、▲8八銀△8九竜▲9八角と竜を取りにいって優位が拡大した。

 藤井の冷静な対処を見た池永が「藤井君、やっぱり駒持ってるな」とつぶやくと、佐々木は「そうなんだよな。受け将棋だからというか、丁寧に指すからね」と返す。深い研究と柔軟な対応力で優位を奪い、駒得を生かした自然な応手を積み重ねて、暴れる相手を押さえてしまう。藤井将棋の持ち味が存分に出た一局だった。

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第7局で藤井三冠はリーダー対決を制する

【第8局 高見-佐々木】

 チーム藤井が残り1勝に迫った第8局は、高見と佐々木の同門対決に。第3局は佐々木が勝っていた。

 「勝って、池永くんにバトンを回せるように」と佐々木。しかし誤算があったか、中盤で急に模様が悪くなってしまう。高見は優位に立つも、佐々木の勝負手に時間が削られていく。チーム藤井に控室では「落ち着いて」とモニターを見ていたが、伊藤は「でもこういう展開は高見さんが得意だから」と信頼を寄せていた。

【第3図は▲3四飛まで】

 第3図で、解説の森内俊之九段は▲3二金や▲3一金を防ぐ受けを考えていた。しかし、実戦の△7八成香が鋭い踏み込み。△6八金や△1六角から一気に寄せようとしている。実戦は△7八成香に▲2五桂と佐々木らしい派手な手が飛び出した。香の利きを遮りながら△1六角が王手飛車にならないようにする攻防手。しかし、▲2五桂以下△6八金▲4九玉△1六角▲2七歩△同角成▲3八金打に、飛車を捕まえる△4二桂が好手でもう後手の勝ちは揺るがない。木村はモニターを見ながら「(高見の時間が)切れるんだ。切れろ、切れろ」となりふり構わず応援していたが、その声援は届かなかった。

 高見は連敗でプレッシャーがかかっていたと思うが、秒読みのブザーに追われながらも佐々木の勝負手を乗り切り、チーム勝利を決めてほっとした表情だった。

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第8局で勝利投手となった高見七段

【チームで戦う意味】

 棋士はひとりで戦う存在であり、チーム戦は珍しい。木村は本大会の感想を問われると、次のように答えた。 「充実したトーナメントでした。最後は悔しいですけど、次回以降も続くと思いますので、それぞれ指名されるような活躍をトーナメントでして、また帰ってきたいと思います」

 ABEMA対局の前の日に、チーム3人で必ず集まっていたそうだ。フィッシャールールで練習し、お互いに最新の研究や作戦を教えてあったらしい。公式戦では木村が王座挑戦、佐々木が順位戦B級1組で5連勝スタート、池永は順位戦C級2組で3勝1敗と順調な滑り出しを見せている。一緒に過ごしてきた時間は3人の力になっているだろう。

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チーム木村「エンジェル」のツイッターより、最後の集合写真

 チーム藤井は優勝で1000万円、伊藤園賞の「お~いお茶1年分」、ローソン賞の「ウチカフェスイーツ1年分」と「鬼滅の刃将棋」を獲得した。さて、優勝賞金の使い道は?

藤井「どうしよう。昨年の優勝賞金でPCを組むことができたので、そのパーツをもう少し買い足していきたいと思います」

高見「ABEMAの将棋チャンネルの解説をさせてもらうと、自分の地力がないとトークだけでは(ファンの方が)将棋がわからないので、パソコンを新しく買いたい。優勝したら打ち上げをするという約束があるので、(藤井と伊藤を交互に見ながら)お寿司でも焼肉でも三人で一緒にいきましょう」

伊藤「自分自身も先輩方は多くいらっしゃるので、少しでも恩返しができるように(先輩にはごちそうになっていいと思うけどね、払いますよと高見が笑っていた)」

 今大会を振り返ってみると、チーム藤井は5勝1敗(対チーム三浦)、5勝2敗(対チーム稲葉、チーム広瀬、チーム菅井)、5勝3敗(対チーム木村)と、決勝以外は2敗以下と安定した戦いぶりを見せた。リーダーの藤井(個人・団体あわせて4連覇!)はもちろんのこと、高見と伊藤が高勝率だったからこそつかみ取った栄光である。

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表彰式

【総合成績】

第1局 伊藤●-○木村
第2局 藤井○-●池永
第3局 高見●-○佐々木
第4局 伊藤○-●木村
第5局 藤井○-●佐々木
第6局 高見●-○池永
第7局 藤井○-●木村
第8局 高見○-●佐々木

総合 5勝 ― 3勝

【個人成績】

藤井三冠  3-0
伊藤四段  1-1
高見七段  1-2

木村九段  1-2
佐々木七段 1-2
池永五段  1-1

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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