チーム藤井VSチーム菅井 第4回ABEMAトーナメント~準決勝 第二試合振り返り~

チーム藤井VSチーム菅井 第4回ABEMAトーナメント~準決勝 第二試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2021年09月16日

 お~いお茶presents第4回ABEMA本戦トーナメント準決勝第二試合、チーム藤井「最年少+1」(藤井聡太王位・棋聖、高見泰地七段、伊藤匠四段)とチーム菅井「一刀流」(菅井竜也八段、郷田真隆九段、深浦康市九段)の戦いは、9月11日(土)に放映された。

 チーム藤井は恒例?のじゃんけんで先発を決めたようで、第1局に登場した藤井は対局直前のインタビューに「じゃんけん弱いので最初は出なくていいのかなと思っていたんですが、たまたま勝ってしまって」と答えていた。一方のチーム菅井は、リーダーが深浦を指名している。深浦は「昨日の夜、家内からパワーストーンなるものを渡されて、抱いて寝なさいと。抱いて寝てきたので、ばっちりだと思います」と笑いを誘った。

【第1局 藤井-深浦】

 予選から連敗が続いていた深浦、本局ではやってくれた。

【第1図は△5五歩まで】

 得意の雁木系からねじり合いに持ち込み、第1図で▲4四歩△同金▲6五銀打!が強烈な一撃。歩の叩きで角を浮き駒にしたため、△6五同歩は▲5三角成で困ってしまう。▲6五銀打を見た瞬間、チーム菅井の控室も「パーンチッ」「おおっ」「パワーストーンきたか」と沸いた。藤井は△7一飛と逃げたが、▲6四銀△4二角▲5三銀不成で攻めがつながっている。深浦の勢いある指し回しに、郷田は「勝ったら連投」と気分がよさそうだ。終盤は藤井がかなり粘ったものの、深浦が振り切って153手の長手数で勝利を収めた。

 深浦は菅井と郷田に拍手で迎えられ、照れた表情を浮かべながら「すいません、ずいぶんと遅れまして」と詫びた。チームに貢献出来ておらず、心苦しかっただろう。最強の相手に幸先の良いスタートを切った。

1局目▲深浦-△藤井聡戦
1局目▲深浦-△藤井聡戦

【第2局 伊藤-菅井】

第2局のオーダー会議。「さて......次なんですけれども」と菅井と郷田が深浦を見つめるも、「私は1回落ち着きます」といわれては連投できず、菅井が出場した。チーム藤井からは伊藤。第4回ABEMAトーナメントは菅井が9勝1敗、伊藤が5勝1敗と高勝率同士の対戦である。公式戦で指したことがなく、所属は東西で離れているものの、フィッシャールールで練習将棋を指したことがあるという。

第2局▲伊藤-△菅井戦
第2局▲伊藤-△菅井戦

 伊藤の居飛車穴熊に菅井が三間飛車から銀冠に組み、激しい玉頭戦に。二転三転の戦いから最終盤を菅井よしで迎えた。

【第2図は▲9七同玉まで】

 第2図で△6四銀▲同歩△9九飛とすれば▲9八銀と打つしかないため、後手勝ちがはっきりしていた。しかし、フィッシャールールの極限状態が二人を狂わせる。

 実戦は第2図から△7五角▲8六歩△同歩▲6三飛成△同銀▲7二銀と進む。伊藤は▲6三飛成で手にした銀を畳に落とすも、素早い手つきで▲7二銀を着手し残り2秒でチェスクロックを押した。さすがの反射神経といったところだろう。実は▲7二銀で後手玉は詰み筋に入り、逆転している。チーム藤井の控室では高見が「打て!打て!」と叫ぶなか▲7二銀が指されると、藤井は「うふっ」と喜びの声を抑えきれぬままに膝をパシッと打ち、高見とハイタッチ。ふたりでにこやかに拍手を続けて伊藤の指し手を見守っていたが......

藤井と高見のハイタッチ
藤井と高見のハイタッチ

 ▲7二銀以下△同銀▲同歩成△同金▲同角成△同玉▲7三銀△6三玉(第3図)。

【第3図は▲6三玉まで】

 ここで▲6二金と打てば1手詰みだが、実戦はなんと▲6四銀成。指された瞬間に「えっ!」という声がチーム藤井の控室に響いた。拍手していた藤井の両手は固まり、そのまま落ちて膝を叩いてがっくりと首を落とす。しかし、実戦は△6二玉▲5三桂成△7一玉▲7二歩まで伊藤の勝ち。△6二玉に代えて△6四同角ならトン死しなかったものの、角を渡すと▲9六角の攻防手もあるので先手が押し切りやすかった。

伊藤の▲6四銀成に固まる藤井
伊藤の▲6四銀成に固まる藤井

 菅井が投了を告げると、藤井は安堵の表情を浮かべて「これがギャクれるんですねー、これが」と伊藤の勝利を讃えた(「ギャクれる」は、「逆れる」→「逆転できる」の意味と思われる。検討で「逆転した」→「ギャクった」はたまに聞く)。スポーツ観戦のように盛り上がって一喜一憂している藤井の姿は貴重で、気心の知れた仲間と楽しんでいるのが伝わってきた。プレミアム会員になり、24分ぐらいから見てほしい。

 2分にも満たない最終盤に色んなドラマが詰まっていた。第2図の△6四銀▲同飛△9九飛、そして第3図の▲6二金を指せないほど、菅井と伊藤は追い詰められていたのだ。時間に急き立てられながら、目まぐるしく入れ替われる盤上を乗り切らないといけない。それは棋士であっても容易ではない。

【第7局 藤井-郷田】

 チーム藤井は怒涛の連勝でチーム勝利にあと1勝に迫る。第6局は連投の菅井がしのいだ。第7局は藤井と郷田が当たる。開始前のインタビューで、郷田は自然体で抱負を語った。

 「自分もキャリアをずいぶん重ねましたけど、王道の将棋指してきたつもりなんで、最高の相手に最高の戦いをしたい。その一心です」

 深浦には「藤井さんやっつけて、もうひとりの若手を小突くから、残ったのをお願いします」と語っていたそうだ。

【第4図は▲2一飛成まで】

 戦型は角換わりになり、途中は第4局の▲郷田-△高見戦と同一局面だった。第4図に△同飛の飛車交換は、▲8四桂の筋がちらつく。実戦は△8五桂と強気に跳ねた。郷田は少し手を止めて▲8六銀と逃げたが、△6一銀と引かれては玉頭をにらんでいる飛車を消せなくなってしまう。以降は藤井はペースを握ったまま攻め続け、最後は駒を渡す寄せに踏み込み、郷田の猛追を得意の見切りで逃げきった。

 両チームの控室では、第4図からの△8五桂に▲8六銀ではなく、▲8一竜△同玉▲9三歩△同香▲8三飛が指摘されていた。以下△9二玉なら桂を取る▲8五飛成がさらに銀取りになる。これなら玉頭の嫌みを払えるので、後手が容易ではなかった。

第7局▲郷田-△藤井聡戦
第7局▲郷田-△藤井聡戦

 藤井は個人、団体あわせて4連覇がかかる。

 チーム菅井はベスト4で敗退。菅井が初参加のベテラン二人を引っ張っている姿、また郷田が「さあ行こう」と声をかけていたのが印象に残った。郷田は扇子や色紙に「涼風」と揮毫する。迷いのない字体からは勢いを感じるが、実際の筆の動きを見ると流れるようにサラサラと書く。気負わず力まず、いつも通りの自分で一生懸命に指す。ABEMAの華やかな舞台を3人全員で楽しんでいたように見えた。

【総合成績】

第1局 藤井●-◯深浦
第2局 伊藤◯-●菅井
第3局 高見◯-●郷田
第4局 藤井◯-●深浦
第5局 高見◯-●菅井
第6局 伊藤●-◯菅井
第7局 藤井◯-●郷田

総合「最年少+1」5勝 ― 2勝「一刀流」

【個人成績】

藤井王位・棋聖 2-1
伊藤四段 1-1
高見七段 2-0

菅井八段 1-2
郷田九段 0-2
深浦九段 1-1

次回はチーム藤井「最年少+1」とチーム木村「エンジェル」による決勝戦。9月18日(土)17時から始まる生放送をどうぞお楽しみに。

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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