チーム永瀬VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~準決勝 第一試合振り返り~

チーム永瀬VSチーム木村 第4回ABEMAトーナメント~準決勝 第一試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2021年09月09日

 決勝進出をかけた一番、お〜いお茶presents第4回ABEMA本戦トーナメント準決勝第一試合、チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座、増田康宏六段、屋敷伸之九段)とチーム木村「エンジェル」(木村一基九段、佐々木勇気七段、池永天志五段)の戦い は、9月4日(土)にABEMAで放映された。

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チーム永瀬の入場

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チーム木村の入場

 盤外で先にジャブを放ったのは永瀬。朝6時から佐々木がフィッシャールールで練習しているという情報を披露し、あとで佐々木は「な、なんで知っているんですかね」と慌てていた。このことは、リーダーの木村も初耳だったらしい。

 まずは第4局までの結果を記そう。

第1局 永瀬●-〇池永
第2局 増田◯-●木村
第3局 屋敷●-◯佐々木
第4局 永瀬〇-●池永

 初戦はリーダーの永瀬を池永が破った。チーム木村のツイッターによれば、3人で直前に検討した形から佐々木の推奨手を池永が拝借してペースを握ったのが大きかった。

 ここから一進一退の攻防が続く。第4局は永瀬がリベンジに成功し、タイに戻す。第5局は増田-佐々木の組み合わせになった。

【第5局 増田-佐々木】

【第1図は△3八とまで】

 第5局は角換わり。第1図は△3八とで飛車をいじめたところ。▲2七飛と逃げても△7九角▲7七玉△6七成桂▲8六玉(▲8六玉に代えて▲6七同玉は△6六銀から詰み)で詰まないが、佐々木は▲3二金と踏み込んだ。以下△同玉▲5三馬△2九と▲8二飛△4二歩▲4三金△2二玉▲3三金△同金▲4二馬(第2図)と進む。

【第2図は▲4二馬まで】

 ▲4二馬は詰めろ(▲2三歩△同玉▲3五桂△同歩▲3三馬の筋)かつ逆王手で自玉の詰みを逃れる攻防手になっている。第2図で先手の飛車がいなければ、△7八飛▲9七玉△9六銀▲同玉△7六飛成▲8六馬△8五角から詰み。ところが、第2図で同じように△7八飛から詰ましにいくと、最後の△7六飛成に▲8六馬が飛車筋を通す開き王手になる。つまり、第1図の金捨てから馬引き、さらに▲8二飛を組み合わせた手順は、途中で△2九とと飛車を取られても自玉が詰まないようにした意味なのだ。

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第5局▲佐々木-△増田戦

 第2図で増田が△5二歩と中合いで切り返したのもプロの技で、▲同飛成は飛車の守りが8筋から外れて嫌みが出てくる。佐々木は▲2三歩△同金に▲3二銀と詰めろ(次は▲3一馬)をかけ、増田は△7八飛▲9七玉△8八角▲8六玉△7六飛成 ▲同玉△7五金と非常手段に出るも、▲同馬△同歩 ▲8六玉 に△3二玉と自陣に手が戻るようでははっきり逆転している。以下は佐々木が押し切った。

 第1図のあたりは双方の残り時間が50秒前後だった。持ち時間が少ないなか、ここまで勝負手と技の掛け合いが飛び交う将棋はそうはないだろう。才気あふれる20代棋士ならではの一局だった。

【第8局 増田-木村】

 第6局の永瀬-木村は永瀬が勝ち、3勝3敗のタイに戻す。第7局は佐々木が屋敷に逆転勝ちを収めて、チーム勝利にあと1勝に迫る。

 第8局の組み合わせは増田-木村で、先後も含めて第2局と同じ組み合わせである。チーム木村のオーダー会議で木村が自分自身を出そうとすると、佐々木は驚いた顔で「えっ」と池永を推した。木村の「もう決めたから」にも何かいいたそうで、それを見た木村は動揺しつつも「いきます、頑張ります」と譲らなかった。

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第8局▲増田-△木村戦

 戦型はまたも角換わりになり、第2局と同じく木村が右玉に組み替える。増田が先制するも、木村がうまく反撃した。

【第3図は▲9四成香まで】

 第3図は▲9四成香と飛車をいじめたところ。△8一飛は▲7四歩△同銀▲9一歩成△同飛に▲8四成香と9九の香を使われると嫌みが出てくる。実戦の△9四同馬▲同香△同飛とあっさり清算したのが好判断で、以下▲2二角△3二金▲1一角成に△7六桂▲5七玉△8八桂成(第4図)とすれば、成桂とと金攻め、飛車成りの組み合わせで確実に攻めがつながる。

【第4図は△8八桂成まで】

 増田が投了を告げると、控室の佐々木は「かっこいい、いやぁ、かっこいいねぇ先生」「勢いのある若手に自分からいくってすごいな」と脱帽していた。番組収録から5時間が経過し、疲労はたまっている。そこでベテラン対若手の構図で決めにいくのは危ないと判断したのだろう。しかし、連敗だった木村は最後に貫禄を見せた。

 最後のエンディングで、永瀬は「今日、実は佐々木勇気さんという方と指すつもりだったんですけど、なぜか当たらなくて逃げられたんじゃないかなと(笑)」と話していたが、あとでそれを聞いた

 佐々木は「永瀬さんとは1局ぐらいやりたかった。逃げているわけじゃないですよ」と苦笑していた。実は1局目に佐々木が出るつもりだったものの、木村が池永を選んだらしい。理由は「まだ1局目に出たことがなかったから」(木村ツイッター)らしいが、池永がリーダーを破り、池永自身の言葉を借りれば「その1勝が大きな1勝になったのは、そのあとお二人が勝ってくださったから」だ。佐々木が「木村先生の采配が上手で、振り返ってみると勝ちになっている」と話したところを見ると、盤外も含めて木村が信頼されているのがよくわかる。まさに抜群のチームワークだ。

 ちなみに第8局▲増田-△木村戦は、前述した△8八桂成以下▲7四歩△同銀▲4五歩△同歩▲2六角△5三香▲6九銀と進行した。そこで控え室の佐々木は「刺さるよ、刺さる刺さる、おでん」と声を上げた。△2四香で飛車角の田楽刺しがかかるという意味だが、田楽刺しを「おでん」と表現するのは聞いたことがない。だが、木村は△2四香を指さない。違う手が指されるたびに「え、おでんしないの。△2四香って」「おでんしたくないの?」「(増田着手後、祈るように)おでん! (木村が別の手を指し)いやぁ、おでんしたいよ俺は。何でおでんしないの」と止まらない。池永は笑いをこらえきれなくなっていた。ぜひプレミアム会員になって、各チームの実況もチェックしてもらいたい。

【総合成績】

第1局 永瀬●-〇池永
第2局 増田◯-●木村
第3局 屋敷●-◯佐々木
第4局 永瀬〇-●池永
第5局 増田●-◯佐々木
第6局 永瀬◯-●木村
第7局 屋敷●-◯佐々木
第8局 増田●-◯木村

総合「川崎家」3勝 ― 5勝「エンジェル」

【個人成績】

永瀬王座 2-1
増田六段 1-2
屋敷九段 0-2

木村九段 1-2
佐々木七段 3-0
池永五段 1-1

次週は本戦トーナメント準決勝第二試合。チーム藤井「最年少+1」と、チーム菅井「一刀流」の対戦だ。9月11日(土)17:00~の放映をどうぞお楽しみに。

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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