ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2020年01月22日
前のコラム:棋王挑戦への道のり【予選編】はこちら
史上初となる、参加1期目でタイトル挑戦を決めた本田奎五段。今回は決勝トーナメントに入ったからの戦いぶりを振り返っていこう。
5連勝で予選を抜けた本田五段。決勝トーナメントの初戦は行方尚史八段。先手の行方が矢倉を目指し、後手の本田は急戦に出る。うまく仕掛けて本田が優勢となった。
【第6図は▲1五角まで】
行方も猛追し一手争いの終盤戦となっている。ここで△3一玉が手筋の早逃げ。▲5一角左成△同金▲同飛成△4一銀▲5二銀と迫られたものの、角を手にしたので△7八飛成▲同玉△5六角から先手玉は詰みだ。際どく逃げ切って本田が初戦突破。
続く2回戦では佐藤天彦九段と対戦。本田が先手で相掛かりから飛車を振り回す空中戦となった。1筋を押し込んで本田がペースをつかむ。
【第7図は△5三同銀まで】
図から▲5二銀△4二飛▲4一金と飛車を取りに行った。二枚換えの駒損だが、後手玉を危険地帯に引きずり出せるのが大きい。以下△4一同飛▲同銀成△同玉▲4六歩と受けに回り、後手が暴れるのに対応して差を広げていった。佐藤の粘りを振り切って制勝し、ベスト8に進出。
4強入りを懸けた一戦は村山慈明七段と。またも本田が先手の相掛かりとなったが、本局は苦戦を強いられる。ここまで持ち時間に余裕を持たせていた本田だが、本局は一分将棋に追い込まれる。
【第8図は△6九飛まで】
双方一分将棋の難解な終盤が続いている。ここまでも二転三転だったがさらにドラマが待っていた。図の△6九飛では△9七飛と上から打っておけば後手の勝ち筋だった。実戦は図から▲7九香△9七飛▲8九玉△8七飛成▲同金△6七馬▲9八玉△6八飛成▲8八歩から不詰めで先手の勝ち。7九に合駒した香がよく利いている。▲7九香には△同飛成▲同金△9七飛ならやはり後手の勝ち筋だったようだ。本田が二転三転の大熱戦を制した。
ベスト4からは2敗失格制のシステムに切り替わる。まずは丸山忠久九段と対戦。角換わりから先手の丸山が早繰り銀に出た。
【第9図は▲4六同銀まで】
図から△8八角成がさわやかな踏み込み。ここまでの消費時間はわずか4分、この手もノータイムで研究のほどがうかがえる。以下▲8八同玉△8六歩▲同歩△同飛▲9八玉△7七歩成▲同金△4六飛で十字飛車を実現させた。それでも形勢は難しかったが、この後の寄せ合いで丸山にミスが出て本田の快勝。勝者組決勝進出を決めた。
勝者組決勝は広瀬章人竜王(当時)と。相掛かりからうまく動いて本田がリードを奪う。
【第10図は△4四香まで】
確実に差を広げ、第10図は決めどころだ。図から▲6三馬△同金▲5二角△7二玉▲6三角成とさわやかに寄せに出た。以下△同玉▲7五桂から後手玉は寄りだ。タイトルホルダーとの初対戦で快勝し本田が挑戦者決定戦へ。
挑戦者決定戦は敗者組を勝ち上がってきた佐々木大地五段と。第1局は佐々木が快勝し、勝者組のアドバンテージがなくなる。第2局を勝った方が挑戦者となることに。第2局は佐々木が先手で相掛かりに。本田がうまく作戦勝ちに持ち込んだ。
【第11図は▲7二角まで】
堅陣のまま竜を作って後手好調だ。あとはどう決めにいくか。実戦は△5四歩▲4四角△3三銀▲7一角成△6五歩と、6筋の駒に活を入れて攻めの厚みを増した。こうなると攻めが切れる心配はなく、以下十数手で先手の投了となった。
こうして本田は初の棋王戦参加で挑戦権を獲得、同時に五段に昇段した。デビュー戦からわずか1年の快挙である。五番勝負の相手はトップ中のトップである渡辺明棋王。最強の相手にどのような戦いを見せるか楽しみだ。
ライター渡部壮大