「将棋と自分の間にできた空間」心のゆとりを大切にする甲斐智美女流五段の思う将棋を楽しむ秘訣とは?

「将棋と自分の間にできた空間」心のゆとりを大切にする甲斐智美女流五段の思う将棋を楽しむ秘訣とは?

ライター:   更新: 2019年12月25日

ローソンのデザートを食べながら、和やかな雰囲気で女流棋士にお話を聞くこのシリーズ。ローソンの定番デザートとなったバスク風チーズケーキ「BASCHEE(バスチー)」を、甲斐智美女流五段に食べていただきながらのインタビューです。「私、ちょっと無理をしてるな」と気づいて将棋をお休みした数カ月間の話や、今将棋に対して抱いている気持ちなどをお話いただきました!

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「私、ちょっと無理してるな」心のゆとりを取り戻すための空白期間

――これまでに「BASCHEE(バスチー)」を召し上がったことは?

周りの友人から「ローソンのデザートはおいしい」と聞いていて、この前食べてみたんです。チーズが濃厚でおいしかった。寒い季節はなんだか甘いものが欲しくなるので、今日はバスチーを食べられて嬉しいです!

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――普段から甘いものはよく食べますか?

チョコレートやお菓子は時々。外出した時やちょっと疲れた時などに食べます。他には果物が大好きです。対局の時にも巨峰やキウイなど季節のものを持参しています。最近、3年程前に庭に植えたいちじくの木に実が1個だけなったんです。食べてみたら感動するほどおいしくて‥‥! 庭にはビワやゆずの木もあり、あまい実をいっぱいつけるんですよ。

――自分で育ててらっしゃるんですか!

花や植物は大好きで、少しずつ庭に植えていたら、いつの間にか増えちゃった感じです(笑)。外を歩いていて、シャクヤクや椿が美しく咲いているのを見つけると、5分くらいじっと見入ってしまうこともあります。以前は自分で育てたりはしませんでしたが、最近になって少しゆとりが出てきたのか結構育てるようになりました。

――「心のゆとりができた」というのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

そうですね。思えば中学生で女流棋士になり将棋の道に入ってからは、将棋が中心の生活になりました。長い間将棋にかなりの時間とエネルギーを費やす日々を過ごしてきたように思います。やはり厳しい世界でもあり、特殊な世界でもありますから。10代、20代の頃は一直線にがんばる一方で、他のことを二の次にしてきたのではないかという思いがありました。ていねいな生活を送る余裕や、花を育てるような心のゆとりはなかったんです。そんな目まぐるしい毎日の中で、30代のあるとき、急に「少し将棋から離れてみようかな」と思い、数カ月間離れてみたことがあるんです。

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――将棋から完全に離れて‥‥?

ええ。その期間は、ほとんど将棋に触れなかったですね。

――「将棋から離れてみよう」と思った理由は、何でしたか?

勝負の世界に身をおいて、ずっとどこか神経が緊張しているようなところがあったからでしょうか。離れてみたのは心がそういう状態にストップと言っていたのだと思います。いつの間にか自分のペースで頑張る、というよりは人と比較して、将棋を物差しにして物事をみている自分がいました。無理をして背伸びをしているというのかな。将棋を通して様々な体験をしてきて、そうした充実感もあったのですが、「私、ちょっと無理しているな」と感じまして。

空白期間を経て見つけた「将棋と自分との心地よい距離感」

――自分が無理をしていることに気づいた時、どういう気持ちだったのでしょうか。

頑張らねばならない、とか勝たねばならない、とか。そういう「~しなければならない」という気持ちでやってきてしまったのかもしれないと思いました。そう思ったと同時に「自分の気持ちに素直になった時に、私はどうしたいのだろう?」とじっくり考えたいと思いました。

――「自分はどうしたいか」を考えるためにも、少し将棋から距離を置いた。

はい。そうは言っても本当に思いのままに生きるというのは、なかなか勇気がいることでもありますよね。物の見方や感じ方が、人とはまったく異なると感じる場合も多いですし。そのときは時間をかけて料理をしたり、1杯のお茶でも丁寧にいれたり。小さなことでも心を満たすことを大切に過ごすようにしました。そうしているうちに将棋と自分とのあいだに空間ができたんです。それまでは、人生と将棋はぴったりくっついているように感じていましたが、そうではなくなった。

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――将棋と自分の人生がくっついている時は、どんな感じだったんでしょうか。

例えば、失敗したりうまくいかなかったりするときに自分を責めることもありました。願いや想いが将棋に乗っかってしまっていて、余計な雑念が入ってしまうんですね。純粋に将棋を楽しむことはできていなかったと思います。でも、私は私の歩幅でゆっくり歩いていこう、と。心の底からそんな気持ちになったとき、そこには空間ができていました。当たり前なのですが「将棋はただ将棋としてあるだけなんだ」って気づいたんです。

――将棋を離れたところから見られるようになったら、楽しめるようになりましたか?

楽しめるようになったというか、本当はただ楽しいものだったのだなと。自分が勝手に「~しなければならない」と思い込んでいただけで、昔も今も、将棋はただ楽しいものだった。変な緊張とか、自分を縛っていたものが解けて、将棋本来のおもしろさに気づけたんです。

――それで「30代になって心のゆとりができた」とおっしゃっていたんですね。

そうそう。それと、将棋と自分の距離感が変わってからは、例えば対局で負けてもあまり落ち込まなくなりました。ただ将棋を眺められるようになったので、対局のどこが悪かったかわかるんですよ。そしたら、むやみに落ち込む必要もないかなって思えるようになったんです。

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その時々を楽しむ秘訣は「思い通りにしようと思わないこと」

――今は、目標を設定したりはしないんですか?

もともと私は、あまり目標を立てないタイプですね。何かを達成したいという思いが希薄というか(笑)。局面に対する興味を追いかけたり、イメージを浮かべるのが好きで、そういう勉強をすることが多いです。準備してきた展開になるように指そう、ともそんなに思わないです。

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実際に自分の考え通りに行くことはまずないですからね。相手だって相手の構想で臨んできますから、こういう局面になるのか、まさかこうなるとは思わなかったって。予想外になることがほとんどです。そういう新しい局面を考えるのが好きですね。ああ、今目の前にある局面は常に新しいんだなと感じるんです。

――これから何かやってみたいことや興味のあることはありますか?

やってみたいことですか‥‥。

――何か、気になっていることとか。

そうですね、あまり人にお話したことは無くて言葉にするのは難しいんですけど‥‥。私、自分とは何者かを知りたいと思っているんです。

――哲学ですね‥‥!

実は物心ついたころから、ここにいることが非常に不思議でした。まったく見知らぬ世界に突然連れてこられたように感じていたのです。「ああ、もとのところにかえりたいな‥‥」と、小さい頃は切望していました。本当に、どこかからやってきて、旅をしている感覚です。そうすると疑問が出てくるわけですね。今は人生という旅をしている。しかしいつかは帰るのなら、一体全体自分とは何なのだろうって。いろいろな出来事はこれからも起きるでしょうし、チャレンジとか、やってみたいことも出てくるかもしれません。でも私が本当に知りたいのは、この問いだけのような気がするのです。

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まとめ

こちらがドキッとしてしまうような言葉を、やさしく、しかし真っすぐにお話してくださった甲斐女流五段。将棋はもちろん、日々の生活もすべて「思い通りにならないおもしろさ」を楽しんでいることを、やわらかい笑顔でお話してくださったのが印象的でした。そして、「BASCHEE(バスチー)」を差し入れてくれたローソンクルーのあきこちゃんには、素敵なメッセージをいただきましたよ。

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取材協力甲斐智美女流五段

1983年5月30日生まれ。石川県七尾市出身。中原 誠十六世名人門下。 1997年4月1日、女流2級。2014年11月23日、女流五段に昇段。

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ローソン×日本将棋連盟 コラム

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