取材協力石本さくら女流初段

「奨励会に挑戦し続けた経験が自信に」石本さくら女流初段の芯の強さをつくったもの
ライター: マツオカミキ 更新: 2019年11月14日
ローソンのデザートを食べながら、和やかな雰囲気で女流棋士にお話を聞くこのシリーズ。ローソンの定番デザートとなったバスク風チーズケーキ「BASCHEE(バスチー)」を、石本さくら女流初段に食べていただきながらのインタビューです。奨励会試験に挑戦していた頃の気持ちや、本気で将棋をやめようと思った時の話などをお話いただきました!
対局時のルーティンは「朝コンビニでチョコを買うこと」から
――ローソンの「BASCHEE(バスチー)」、食べたことはありますか?
大学の友達におすすめされて食べました。実は、それまで自分はチーズケーキが苦手だと思い込んでいたのですが、バスチーを食べてみたら「めっちゃおいしい!」と気づきました(笑)。
――普段、どんな時に甘いものを食べますか?
チョコレートが好きなので、対局中によく食べます。対局の時はあまり食事をとらないのですが、それでも糖分補給はした方が良いかなと思って。
――お腹が空いて集中力が落ちたりしないのでしょうか。
私の場合はむしろ集中力を保ちたくて、ご飯を食べる気になれないんですよね。というのも、女流棋戦の場合、対局の持ち時間が少ないことが多く、お昼休憩のタイミングでは局面が佳境をむかえていることも多いのです。休憩の間も盤の前に座って考えていたいので、サッと食べられるチョコレートがちょうど良いですね
――なるほど。どんなチョコレートが好きですか?
スタンダードなチョコがいっぱい入った箱入りのやつが好きなので、朝コンビニで買って、対局に臨みます。ただ、1箱は食べきれないので、残したものが家にどんどん溜まっていくんですよ‥‥。
――えっ、1箱食べきらずに、新しいのを買っちゃうんですか。
そうなんですよ、朝チョコレートを買うこと自体が研修会の頃からのルーティンなので、家にあっても新しく買っちゃうんです。だから、チョコレートが残っている箱が部屋の片隅に積み重なっていて、先日母に見つかって「こんなに溜めてどうするの!?」って言われちゃいました(笑)。
メンタルを保つための秘訣は「感情の根っこ」に気づくこと
――オフの時間は、どんなことをして過ごしていますか?
友達と遊びに行ったり、音楽を聴いたりしていることが多いです。音楽はとても好きで、移動時間や将棋の勉強中などにも聴いています。ロックとか、ブラックミュージックとか、R&Bとか。洋楽も邦楽も好きです。
――対局の前にも聴いたりしますか?
はい。アップテンポで、熱い気持ちになれる曲を聴くことが多いです。特に、中学高校の頃にONE OK ROCKにとてもハマっていて、奨励会を目指していた頃もずっと聴いて励まされていたので、今もワンオクの曲を聴くと自分の原点を思い出せます。対局前に聴けば、当時の自分の気持ちも蘇って、背中を押してもらえる感覚もあります。
――音楽に支えられているんですね。
本当に。好きなバンドのライブにも頻繁に行っていて、そのたびに力をもらっています。高校生の頃が最も頻繁にライブへ行っていたのですが、いつも最前列で暴れまくって楽しんでいました(笑)。
――ライブで暴れている姿、想像できないです‥‥!
ライブ中の自分は友達にもあまり見られたくないぐらい、暴れていますよ(笑)。ただ、最近はあまり行けてないんです。大学にも通っているので、なかなか。
――大学生活と将棋を両立されていますもんね。心理学を勉強されていると聞きましたが、選んだ理由はありますか?
将棋はかなりメンタル勝負なところがあるので、心の動きについて学びたくて心理学部を選びました。
――大学で学んでいることは、将棋にも活かされているんですね。
そうですね。もちろん、相手の心や次の手が読めるようになるわけではありませんが(笑)。でも、負けた時やメンタルが下がっている時に、ただ感情的に落ち込むだけでなく「どうして自分はこんなに落ち込むのだろう?」と、感情の根っこにある本質的な部分について考えるようになった気がします。
――感情の根っこ?
「悲しい」という表面的な感情に振り回されるのではなく、その本当の原因を考えるような感じです。例えば、その「悲しい」や「落ち込む」の裏には、自分がどうしても認めたくないことが隠れていたり。そうやって自分を少し客観的に見られるようになったので、気持ちを切り替えやすくなったと思います。
奨励会試験に5回も挑戦した経験が、今の自分の強みになった
――石本女流初段が将棋を始めたきっかけは、何でしたか?
小学4年生の時に、クラスの男の子達が休み時間に将棋をしていて、おもしろそうだなと思ったのがきっかけです。ただ、「私も入れて」と言えなくて。それでもやってみたいと思い、担任の先生に相談したら近くの将棋教室を教えてくれました。はじめのうちは週に1回だけでしたが、楽しくてどんどんハマってしまい、最も多い時期には週3回通っていました。
――プロを目指し始めたのはいつ頃からでしたか?
小学6年生の頃です。将棋が楽しすぎて、「これで食べていきたいな」と思うようになりました。小学校の卒業文集の「将来の夢」には、もう女流棋士と書いていました。
――卒業文集に書いた夢を実現しているって、すごいですよね。
ただ、そんなに順風満帆だったわけではないんです。一度、本気で将棋をやめようと思ったこともありました。
――将棋をやめよう、と?
はい。中学・高校は奨励会を目指していて、高校2年生の奨励会試験は「今年ダメだったらやめよう」という決意で挑みました。奨励会試験には一次試験と二次試験があって、一次試験は中学3年の時から毎回突破できていたにもかかわらず、ずっと二次試験で落ちていて。二次試験は奨励会員との対局があるのですが、高校2年生の時、秒読みに追われ慌てて指そうとして駒を落とし時間切れ負けしたんです。最後の最後、入会がかかった将棋でそんな負け方をして‥‥。
これはもう、あきらめろってことかなって。そして、奨励会をあきらめて逃げるように女流棋士になるのも、違うかなと思いました。だったら将棋をやめよう、と。その対局の後、両親に「将棋をやめる」と伝えました。
――ご両親の反応は‥‥?
母は「頑張ったと思う」と言ってくれたのですが、父は「いや、俺はまだやれると思う」と。「もう1年頑張れ」と言ってくれました。もちろんすぐにそんな風には考えられなかったのですが、とはいえ、いざ将棋をやめようと決断すると、なんかもう何をしたら良いかわからなくなってしまったんです。それまで生活の大半が将棋だったので、なんだか空っぽになってしまって。
結局、将棋がなかったら自分はダメなんだって気づきました。それと、師匠も「次どうやって戦うか」を考えてくださっていたので、師匠や父親が前向きに励ましてくれたおかげで私も前を向けました。‥‥ちなみに、奨励会試験に落ちて、ここまで立ち直るまでの日数は、たったの2日です(笑)。
――もっと長い期間の話かと思っていました‥‥!
自分にとっては、濃い2日間でした。奨励会試験に落ちた2日後に研修会があって、行きたくなかったけれども母に「行ってみな」と言われて。でも、行って、将棋を指したら、気持ちが晴れたんですよ。やっぱり、自分には結局将棋が必要なんだなと思いました。それで、もう1年挑戦することに決めたんです。
高校3年で試験を受ける時は、事前に師匠と「これを最後にして、もし奨励会に入れなかったら女流棋士になる」と決めました。私には将棋が必要で、将棋なしの人生なんてあり得なかったので。最終的に奨励会試験には通れず、女流棋士になりましたが、限界までチャレンジした経験は自信になりました。たぶん、奨励会を5回も落ちた人なんて、自分以外になかなかいないと思うんです。でも、そういう経験があって、今の自分がある。
――女流棋士になってから、何か変化はありましたか?
女流棋士になってからは、むしろのびのびと将棋を指せるようになりました。奨励会を目指していた頃よりも今の方が、自分の将棋を楽しんで、気持ち良く指せています。
――最後に、これからの目標を教えてください。
一番の目標はタイトル獲得です。ただ、まだそんな大口を叩けるような結果も出せていないですし、全然力が足りていないので、もっと強くならなければいけません。そのためにも、まずはリーグに入ること、そこで勝つことを目標にしています。そうやって、ひとつひとつ目の前の目標をクリアして進んでいきたいと思います。
まとめ
奨励会を目指していた時のことを振り返り「あれ以上きついことはなかなかないと思うので、自分にとって大きな経験でした」と笑顔で話してくれた石本女流初段。乗り越えた経験からくる自信が、芯の強さにつながっているのだと感じました。そして、「BASCHEE(バスチー)」を差し入れてくれたローソンクルーのあきこちゃんには、素敵なメッセージをいただきましたよ。

ローソン×日本将棋連盟 コラム

ライターマツオカミキ