「手筋・定跡・詰将棋・棋譜並べ」4つの道筋から学ぼう。初段を目指している居飛車党が読むべき棋書

「手筋・定跡・詰将棋・棋譜並べ」4つの道筋から学ぼう。初段を目指している居飛車党が読むべき棋書

ライター: 水留啓  更新: 2019年09月03日

居飛車党の皆さま、こんにちは。以前の記事「居飛車の攻め方を覚えるならこの5冊。駒組みの意味を知れば将棋はもっと面白くなる」でご紹介した本はお読みいただけましたでしょうか。

さて今回は、居飛車党の一員としてさらに上のレベル、有段者を目指す皆さんにぜひチェックしていただきたい棋書を紹介していきます。「手筋・定跡・詰将棋・棋譜並べ」という上達の4つの道筋に合わせて紹介しますので、お気に入りの1冊を見つけてご自身の上達サイクルの中にぜひ組み込んでみてください。

(1)北島忠雄「すぐに使える!端の絶対手筋」(マイナビ)

以前の記事「場面場面で使える手筋を学んで、加速度的なスピードで上達しよう!初段を目指している人が読むべき手筋・格言棋書」で、「ひと目の端攻め」という本を紹介しました。その際は、部分図による基本問題をたくさん解いて勉強しましょうということを意図しましたが、今回ご紹介する本はその応用編ということができそうです。本書では、「解明!相穴熊の最先端」(マイナビ)や「乱戦!相横歩取り」(同)など丹念な研究で知られる北島七段が、相居飛車や対抗形によく出てくる基本の端攻めを紹介してくれます。章立てとしては、第1章「端の絶対手筋 基本編」と第2章「囲いの崩し方」で基本を総ざらいしたあと、第3章「プロの実戦に学ぶ端攻め」にて実戦例をもとに勉強します。第4章「次の一手12問」と第5章「詰将棋20問」も端攻めが絡んだ問題となっています。

第3章「プロの実戦に学ぶ端攻め」には特に北島七段の丁寧な研究がうかがえます。例を挙げてみましょう。

「例題17 菊水矢倉を攻略」より。行方六段対福崎八段(肩書はいずれも当時)の将棋です。

【第1図は△1五歩まで】

図から、▲1三歩△同銀▲1五香△1四歩▲1二歩△同香▲1四香△同銀▲1三歩(第2図)で、先手は1筋を破ることに成功しました。基本手筋の積み重ねで優位を築けると、将棋が楽しくなりそうです。

【第2図は▲1三歩まで】

(2)佐藤慎一「極限早繰り銀」(マイナビ)

初段を目指す居飛車党の方には、定跡の勉強もおすすめしています。とくに先手番と後手番のそれぞれで自分が得意な形をひとつでも持っておくと、大会などにも自信を持って臨むことができるでしょう。本書の著者の佐藤五段は「将棋・基本戦法まるわかり事典 居飛車編」(マイナビ)でもその名を挙げさせていただきましたね。

この「極限早繰り銀」の特徴は、その名の通りとても速い攻めにあります。初手からの指し手を挙げてみます。
▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△2二銀
▲4八銀△3二金▲3六歩△6二銀▲3七銀△4一玉
▲4六銀△5二金▲3五歩(第3図)

【第3図は▲3五歩まで】

対局開始からわずか15手、自玉の守りに一切手をかけないまさに最速の仕掛けで局面の主導権を握ります。極限早繰り銀はこのように仕掛けたあと、一気に後手陣をつぶしてしまう変化も、持久戦に移行する変化も織り込み済みで、本書でも紹介されています。攻めの戦法を習得しておくと、さまざまな展開において自分の得意な形に持ち込みやすい点が大きな魅力といえます。

なお、佐藤五段はその後「もはや死角なし! 進化版 極限早繰り銀」(マイナビ)という応用編ともいえるバージョンを出されています。興味がある方はこちらもご確認ください。

(3)谷川浩司「光速の寄せ 矢倉編」(日本将棋連盟)

谷川九段は言わずと知れた寄せの名手で、本書のタイトルにもなっている「光速の寄せ」はその代名詞になっています。本書は1996年に刊行された同タイトルの書籍を2冊まとめ、文庫化したものです。内容としては寄せや囲い崩しに関する手筋問題、実戦譜に取材した次の一手問題、自戦記などが中心になっています。

個人的に強くおすすめしたいのが「光速の即詰み」という章で、実戦で出てきがちな詰みの局面が合計20問出題されています。百聞は一見にしかず、その問題の1つを見てみましょう。

【第4図】
(本書77ページ、第2問より)

こちらは矢倉の実戦に出てきそうな形ですが、ここから即詰みがあります。この問題は「アマ初段クラス」とのレベル設定がされていますので、興味のある方はぜひ解いてみてください。解答はどうぞ書籍で確認してみてください。ちなみに、このような実戦型の詰将棋においては駒余りは許容されるのが慣例です。

この「光速の寄せ」シリーズは出版当初よりプロアマ問わず将棋プレイヤーのバイブルの役割を担ってきました。この「矢倉編」のほかにも「振り飛車編」「総集編」の2冊が刊行されていますので、詰将棋が好きな方はぜひ手に取ってみてください。

(4)「藤井聡太全局集 平成28・29年度版」(日本将棋連盟)

言わずと知れた人気棋士・藤井聡太七段の全局集です。四段に昇段したばかりの棋士の全局集が出るのは極めて異例のことでしたが、デビューから今日にいたるまでの大活躍ぶりを見ていれば、それも何ら不思議のないこととわかります。藤井七段の全局集は今後の活躍に応じて平成30年度以降も毎年出版されることが予想されるので、この本を手にした将棋ファンは1年以内に本書に収録された棋譜約60局を鑑賞していく必要がありそうですね。初段を目指す皆さんであれば、1週間に約1局のペースですから、それほど無理なペースでもなさそうですね。

さて、この「藤井聡太全局集」の読み方ですが、まずは藤井七段が負けた将棋から並べるのがおすすめです。藤井七段が負けた将棋はそもそも数が少ないので(この年度では5局程度)、「この棋譜集の棋譜すべてを並べるのか...」という精神的な負担を解消することができるかもしれません。また、トップクラスの実力を持つ棋士とはいえ、その厳しい戦いの中では一度ならず負けることもあるということを知ることで、藤井七段の将棋をわずかなりとも身近に感じ、またほかの棋士の強さも感じることができるでしょう。

個人的には、「30連勝阻止」の一局となった佐々木勇気五段(当時)戦が、現在の定跡を先取りしており、とても勉強になりました。

【第5図は▲2四同飛まで】

いずれにしても、初段を目指す居飛車党の皆さんにとっては必携の棋譜集といえるでしょう。

(5)升田幸三「升田幸三全局集」(マイナビ)

升田幸三実力制第四代名人はその鋭敏な序盤感覚を武器に、ファンを魅了する棋譜を生み出し続けました。「新手一生」を掲げた升田先生による、古い常識にとらわれない新鮮な指し方と思想は、現代の将棋界に脈々と受け継がれています。エピソードを語りだすと枚挙にいとまがありません。初段を目指す皆さんにこの棋譜集をおすすめする理由は、相居飛車戦や対抗形における仕掛けに対する鋭敏さを養うことができると思うからです。

【第6図は▲4七銀まで】

私の気に入っている棋譜を紹介しましょう。1949年10月、坂口允彦八段(当時)との将棋(夕刊毎日棋戦)。本書では第108局として収録されています。後手番の升田先生はここからなんと、△3五歩と積極的に攻めていきます。以下▲4五歩△同銀▲3五歩に△3六歩と進んで第7図。

【第7図は△3六歩まで】

ここで▲4六歩と打っても△3七歩成▲同桂△3六歩▲4五桂△3七角(第8図)で攻めが続くとみているのが升田先生の読みと大局観。普通の人であれば相手の守り駒がいる場所を攻めるのは考えもしませんが、この形では十分に攻めが通用しているようです。

【第8図は△3七角まで】

コンピューター将棋が普及して、人がびっくりするような攻め方が開発されている今日ではありますが、その中でも升田先生の棋譜は鑑賞に十分値する輝きを放っています。本書には180局以上の将棋が収録されていますので、ぜひお手元に置いて上達の道しるべとしてみてください。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は初段を目指している居飛車党の方におすすめの棋書を5冊紹介しました。中には、高段者の人が読んでも勉強になるような教材もいくつか含まれています。冒頭でも触れましたが、手筋・定跡・詰将棋・棋譜並べの4つは上達の王道ともいえる勉強方法ですので、ぜひ今回紹介した本をテキストに、有段者へとつづく門をたたいてみてください!

棋書紹介

水留啓

ライター水留啓

ねこまど将棋教室講師。こども教室担当として積んだ指導経験を生かし、大人向け講座「平手初心者のための棒銀/四間飛車/中飛車入門講座」を開講。初心者・初級者を中心に、幅広い層に将棋の楽しさを伝えている。趣味は棋書収集で、最近は自宅の本棚が足りなくなってきているのが悩み。

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