新タイトル戦開幕、初代「清麗」を勝ちとるのは?里見香奈女流五冠VS甲斐智美女流五段、ヒューリック杯清麗戦五番勝負の展望は?

新タイトル戦開幕、初代「清麗」を勝ちとるのは?里見香奈女流五冠VS甲斐智美女流五段、ヒューリック杯清麗戦五番勝負の展望は?

ライター: 渡辺弥生  更新: 2019年08月03日

2018年12月、女流棋界に「ヒューリック杯清麗戦」が誕生した。総勢63名の女流棋士による予選リーグを突破し、本戦トーナメントに駒を進めたのは、里見香奈女流五冠、甲斐智美女流五段、中村真梨花女流三段、そして頼本奈菜女流初段の四人だった。

本戦1回戦は、中村対甲斐、頼本対里見という組み合わせになった。甲斐-中村戦は中村得意の四間飛車に甲斐が居飛車穴熊に囲い、激しい攻め合いに。最後は甲斐が的確に中村玉を寄せて、危なげなく勝利した。

頼本-里見戦は頼本の早石田に里見が居飛車急戦を採用。頼本の飛車角を抑え込んだ里見の中押し勝ちとなった。敗れたものの、女流棋士となってまだ3年目の頼本は今期の清麗戦で大活躍だった。

第1期清麗戦では、決勝まで勝ち上がった里見と甲斐で五番勝負を行い、勝者が初代「清麗」となる。決勝五番勝負の展望を予想する。

4年ぶり、13度目のタイトル戦

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甲斐女流五段はこれまでに女王1期、女流王位4期、倉敷藤花2期、合計7期のタイトルを獲得した、トップ女流棋士の一人。現在36歳で、4年ぶり13度目のタイトル戦に臨む。

甲斐の将棋で印象に残っているのは、2013年10月の深浦康市九段との王位戦予選だ。当時A級棋士だった深浦九段との終盤のねじり合いを制した甲斐の戦いぶりは、見事だった。ご記憶の方も多いのではなかろうか。

今期の甲斐の成績は9勝6敗。対局数15局はランキング2位だ。清麗戦の予選では村田智穂女流二段、加藤結李愛女流1級、伊藤沙恵女流三段、里見香奈女流五冠、香川愛生女流三段、脇田菜々子女流1級に勝ち、中澤沙耶女流初段に敗れた。中でも番勝負で対戦する里見に勝っているのは大きい。調子はまずまずと見ていいだろう。

里見との予選の将棋をご紹介しよう。先手が里見、後手が甲斐だ。図は△5七歩に里見が5八の金を▲5九金と逃げたところ。角1枚ではあと一押しがないようだが、ここでお手本のような寄せが決まった。

【図1は▲5九金まで】

図1以下の指し手
△5九同馬▲同龍△4八金▲4三歩成△5九金▲3三と△同金▲4三桂△4八香成

すでに1分将棋の甲斐はズバッと△5九同馬。▲同龍の一手に△4八金が厳しい。△4八金に▲8九龍と逃げるのは△3九角▲同龍△同金▲同玉に△5八歩成。角を渡しても後手の穴熊はびくともしない。

本譜、△4八香成となって後手優勢。以下も着実に寄せの網を絞り、甲斐の快勝となった。

女流五冠に復帰、「クイーン王位」に

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里見香奈女流五冠は女流王座、女流名人、女流王位、女流王将、倉敷藤花を保持する女流棋界の第一人者。27歳にして、これまでに獲得したタイトルは36期、タイトル戦登場回数は42回にのぼる。

今年の4月から5月にかけて行われた第12期マイナビ女子オープン五番勝負と、4月から6月にかけて行われた第30期女流王位戦五番勝負では挑戦者として登場。マイナビ女子オープンでは現役の奨励会三段の西山朋佳女王に敗れたものの、女流王位戦では渡部愛女流王位(当時)を破って見事タイトル奪取に成功し、女流王位に復位。「クイーン王位」の称号を獲得した。今期の成績は8勝5敗だが、このうちの4敗はタイトル戦でついたものだ。清麗戦の予選では堀彩乃女流2級、渡辺弥生女流初段、宮宗紫野女流二段、渡部愛女流三段、伊藤沙恵女流三段に勝ち、甲斐智美女流五段に敗れた。

男性の公式戦での活躍が素晴らしい。今期に入ってからの成績は6勝3敗。昨年の10月から数えると、なんと9勝5敗の成績を残している(※2019年7月25日現在)。棋士の間に入ってこれだけ勝つのは並大抵のことではない。調子も上々ではないだろうか。

図2は都成竜馬五段との第91期ヒューリック杯棋聖戦一次予選の中盤戦。先手が都成、後手が里見。△4二飛に先手の都成が▲2三角と打ち込んだところだ。△4五金と逃げるのは▲2六飛△8四桂▲3四角成△5五角に▲9四歩の桂取りが痛い。本譜、里見の切り返しが見事だった。

【図2は▲2三角まで】

図2以下の指し手
△7七角成▲同桂△3三金▲9四桂△8一玉▲4五角打△7一金▲4六飛△5四桂

△7七角成と角を切り飛ばしてから△3三金がぴったり。進んで、▲4六飛は次に▲7二角成△同金▲4二飛成と飛車を素抜く狙いだが、△5四桂と打った手が角筋を止めつつ、飛車取り。流れをつかんだ里見がそのまま押し切った。

6度目のタイトル戦

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里見と甲斐はこれまでに30局の対戦があり、里見21勝、甲斐8勝。うち、タイトル戦の番勝負で5回ぶつかっている。番勝負の勝敗は里見の3勝、甲斐の2勝だ。全体では里見が押しているものの、番勝負となると甲斐も互角に戦っているのは大きい。両者が力を出し切れば、勝負はどちらに転ぶかわからない。

二人とも振り飛車党だが、相手が振り飛車のときは居飛車を採用することも多く、相居飛車、居飛車対振り飛車の対抗型、相振り飛車、どの戦型になってもおかしくない。また、二人とも攻めと受けのバランスが取れていて、特に終盤が強い。最後まで目の離せないねじり合いに、ぜひご注目ください。

第1期ヒューリック杯清麗戦五番勝負は、8月3日、東京都港区「グランドニッコー東京 台場」にて開幕する。

※撮影:常盤秀樹(第23期大山名人杯倉敷藤花戦終局後に撮影)


渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

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