ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2019年06月19日
豊島将之棋聖(名人・王位)と渡辺明二冠による棋聖戦五番勝負は両者絶好調かつ複数冠で、まさに頂上決戦と言って良いでしょう。また、里見香奈女流四冠が女流王位を奪取し、女流五冠に復帰しました。6月上旬の注目局を格言とともに振り返っていきます。
【第1図は△3二同金まで】
第1図は第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局(▲渡辺明二冠△豊島将之棋聖)。相居飛車の力戦形から、双方一分将棋の大熱戦になりました。ここで▲3二同飛成は△7五桂で詰まされてしまうので、先手は飛車を動かさない攻めが必要です。実戦は▲1五歩が「端玉には端歩」の急所の攻め。1筋の突き捨てにより後手玉に王手が掛かりやすくなります。以下△1五同歩に▲3三銀不成が先手としては有力だったようです。実戦は△1五同歩に▲1四歩△同玉▲1六歩△同歩▲1五歩△同玉▲3五銀と攻めましたが、△1七歩成とと金を作られて「中段玉寄せにくし」となってしまいました。最後は反撃の余裕を得た後手が制し、豊島棋聖が初防衛に好発進となりました。
ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局 ヒューリック杯棋聖戦中継ブログより
初戦を白星とした豊島将之棋聖 ヒューリック杯棋聖戦中継ブログより
敗れた渡辺明二冠 ヒューリック杯棋聖戦中継ブログより
【第2図は▲4八銀打まで】
第2図は第30期女流王位戦五番勝負第4局(▲渡部愛女流王位△里見女流四冠)。中飛車からさばきが決まって、後手優勢の局面です。ここから△1五角ののぞきが軽手。この手があるため▲1六歩は「端歩は居飛車の税金」と呼ばれています。本局はその端歩を突いていないことを的確にとがめました。以下▲8五桂の攻め合い狙いに△3三角▲7七桂打△8四歩と手堅い指し回しを見せて快勝。3勝1敗で制し、女流五冠に復位しました。
渡部愛女流王位の初防衛とはならず 女流王位戦中継ブログより
2016年以来の女流五冠復帰となった里見香奈女流 女流王位戦中継ブログより
【第3図は▲8一馬まで】
第3図は第60期王位戦挑戦者決定戦(▲羽生善治九段△木村一基九段)。横歩取りの激しい戦いですが、図の▲8一馬は危険で後手から厳しい反撃がありました。それが△6一飛▲7一歩成△6六飛▲同歩△6七銀打▲4八玉△7七銀成と攻めて後手優勢。9四の角を生かした「角筋は受けにくし」の攻めです。以下も激戦が続きましたが最後は木村九段が制し、4期ぶりの王位挑戦。通算7度目のタイトル戦登場で、悲願の初タイトルを目指します。
豊島将之王位への挑戦を決めた木村一基九段 王位戦中継ブログより
【第4図は△5五歩まで】
第4図は第1期ヒューリック杯清麗戦本戦(▲甲斐智美女流五段△中村真梨花女流三段)。勝てば五番勝負進出の一番です。後手が中央から動いてきたところですが、先手は穴熊も完成していますし、戦いは歓迎です。▲2四歩が「開戦は歩の突き捨てから」の反撃。△2四同歩と取らせて▲3七桂で戦いになります。飛車先を突き捨てたことによって飛車をさばきやすくするだけでなく、後の△1五角も消してあります。この突き捨てが損になることは少なく、反射的に突いてみたいところでしょう。以下は熱戦となりましたが、穴熊の遠さを生かした甲斐女流五段が快勝。4年ぶりのタイトル戦登場を決めました。
【第5図は△5八馬まで】
第5図は第67期王座戦本戦(▲佐々木大地五段△藤井聡太七段)。相掛かりから大激戦の終盤戦ですが、ここで▲7七馬が「馬は自陣に引け」の好手。先手陣は見違えるように堅くなり、迫る手段が難しくなりました。最後は際どくなったものの佐々木五段が逃げ切り2回戦進出。次は羽生九段との対戦になります。
【第6図は△1九竜まで】
第6図は第60期王位戦白組プレーオフ(▲羽生善治九段△永瀬拓矢叡王)。横歩取りから手厚く駒得を拡大した先手が優位に立ちました。後手も何とか迫ろうとしていますが、狙いは△4五香くらいしかありません。そこで▲4五歩が「敵の打ちたいところに打て」の手堅い受け。△4四歩▲同角△4二香の食いつきにも、▲6六桂の反撃が厳しく先手の勝ち筋に入りました。羽生九段はこれで1434勝目となり、大山康晴十五世名人の持っていた歴代最多勝数記録を更新しました。
ライター渡部壮大