居飛車の攻め方を覚えるならこの5冊。駒組みの意味を知れば将棋はもっと面白くなる

居飛車の攻め方を覚えるならこの5冊。駒組みの意味を知れば将棋はもっと面白くなる

ライター: 水留啓  更新: 2019年05月14日

今回は居飛車の将棋での基本的な攻め方について解説した本を5冊紹介していきます。居飛車とは、大まかには飛車を初期位置のままで使う戦い方の総称ですね。先手と後手がお互いに居飛車を選択すれば相居飛車と呼ばれる形になります。相居飛車の戦いは、振り飛車対居飛車の対抗形と比べると将棋盤の全体が戦いの主戦場となり、大きな戦いになりやすいのが特徴です(第1図参照)。

【第1図は△7五歩まで】

相居飛車の中の、矢倉の戦いの例。お互いの攻め駒(主に飛車)が相手の玉をにらんだ全体的な戦いになっている。

【第2図は△7五歩まで】

居飛車対振り飛車の戦いの例。お互いの飛車の周辺で局所的な小競り合いが続きそうだ。

もちろん、相居飛車の戦いは先手・後手ともにある程度の定跡の知識が求められます。そこに難しさがあるのですが、ひとたび駒組みの意味を覚えてしまえばダイナミックな戦いのとりこになること間違いなしです。これをきっかけに居飛車の攻め方を覚えてみませんか?

上野裕和『将棋・序盤完全ガイド 相居飛車編』(マイナビ)

まずはこちら、上野六段による定跡入門書です。以前、「基本的な振り飛車を知る本」の回では本書の振り飛車編を紹介しましたね。本書も、相居飛車という戦型の大まかな歴史を理解しようという趣旨の本です。

第1部では横歩取り、角換わり、矢倉、相掛かり、一手損角換わり、雁木という6大戦法の駒組みと狙いが簡単に紹介されています。これら6つのうち、最初の4つ(横歩取り、角換わり、矢倉、相掛かり)は特によく出てくるので覚えておくとよいでしょう。第1部・第3章の「戦型決定の仕組みと手順」では、初手からの数手でどの戦型になるのかという仕組みが解説してあります。

続いて第2部では、どの時代にどのような理由でそれぞれの戦法が流行したのかという全体的な変遷が語られ、最後の第3部で戦型個別の具体的な攻め筋、作戦が紹介されています。

【第3図は△8五歩まで】

初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩と進めば相掛かり戦法になる可能性が高い。

ともすればブラックボックスになりがちな序盤の理論を、盤面の矢印や平易な言葉遣いでわかりやすく解説してくれる本書は、初心者・級位者にとってだけでなく観る将棋ファンにとっても必携書となるのではないでしょうか。

佐藤慎一『将棋・基本戦法まるわかり事典』(マイナビ)

先に紹介した『将棋・序盤完全ガイド』を全体的な概説書とするならば、こちらはより具体的な手順の焦点を当てた定跡書といえます。(1)相掛かり、(2)横歩取り、(3)角換わり、(4)矢倉、(5)その他の戦型(雁木など)という章構成で、それぞれの定跡の醍醐味といえる部分を抜き出して紹介します。著者はまえがきで「本来1つ1つの戦型で1冊の本が書けるほど定跡は多く存在し、解説してもしきれないことがほとんどですが、奉書では、居飛車を指すにあたってこれだけは知っておくと良い、という要点を各戦型でまとめました。」と語っています。

本格的な定跡を広く紹介している点で、得意戦法をみつけるためのカタログのように使えるのが本書の魅力です。また、先手・後手どちらかに肩入れした手順はほとんどなく、定跡が一段落した局面での形勢判断が冷静なところも本書をおすすめする理由のひとつといえます。この点で、本書を読んで勉強すれば、先手・後手どちらをもってもしっかり戦える、いわば「相居飛車の基礎力」がつくのではないでしょうか。

井上慶太『井上慶太の居飛車は棒銀で戦え』(NHK出版)

これまでの2冊で、相居飛車の定跡を俯瞰することができました。ここからは、具体的な戦法についての本を紹介していきましょう。

飛車の前に出た銀をグングン進めて敵陣突破を狙う戦法は、棒銀と呼ばれ古くから親しまれてきました。加藤一二三九段の得意戦法としても知られていますね。この棒銀は以前のコラム「基本的な振り飛車を知る本」で紹介した四間飛車と並び、将棋入門者の2大戦法の一角としていまでもよく指されています。

【第4図は▲2五銀まで】

相掛かり棒銀の戦い。飛車と銀と歩が協力して相手の角頭を狙う。

初級者向けテレビ講座を書籍化した本書では、上図のような(1)相掛かり棒銀を基本として、相手が居飛車で来たときの(2)矢倉棒銀・角換わり棒銀、そして振り飛車で来たときの(3)対四間飛車棒銀を扱います。それぞれの戦型で破壊力抜群の棒銀の攻めが気持ちよく決まる変化が数多く収録されており、攻めて勝つ気持ちよさを味わうのにはうってつけの一冊となっています。

第3章では下図のような端棒銀(本書での呼び名は「▲8六銀戦法」)も収録されており、これを読めば四間飛車党のライバルを驚かせることができるかもしれません。

【第5図は▲8六銀まで】

佐藤慎一『矢倉で勝つための7つの鉄則と16の心得』(マイナビ)

2冊目で紹介した佐藤慎一五段による、矢倉戦法について書かれた本を紹介します。本書はマイナビの「鉄則と心得」シリーズの中の矢倉編という位置づけです。矢倉のほかに、それぞれ別の著者が書いた横歩取りや角交換四間飛車、ゴキゲン中飛車などについての本も刊行されています。このシリーズは、一つの戦法を指しこなすうえでのコツを1項目あたり5~10ページ程度でわかりやすく示しています。決して定跡手順の暗記に走らず、指し手の方針の立て方を簡潔なキャッチフレーズとともに提示するのがセールスポイントといえます。

矢倉について書かれた本書では、(1)序盤の鉄則7、(2)中盤の心得9、終盤の心得7、そして最後に実戦編として2つの棋譜が紹介されています。

平手初心者にとってとりわけ重要な考え方として、本書から「序盤の鉄則1 原始棒銀はさばかせない」と「中盤の心得1 棒銀には中央志向」の局面を紹介しましょう。

【第6図は△8四銀まで】

「序盤の鉄則1 原始棒銀はさばかせない」より

矢倉を指したことがある方ならば、上図のような単純な棒銀をされて苦労した経験が誰しもあるでしょう。トッププロの実戦でも現れたことのあるこのような局面から、先手がどのような手順で優位を築くかを知れれば、序盤をいまより楽しめるようになるでしょう。ここでは▲7九角から▲6八角というのが受けの形で、ここさえ受け止めてしまえばあとは楽に駒組みをすすめることができます。

【第7図は△3一角まで】

「中盤の鉄則1 棒銀には中央志向」より

前図からすこし駒組みを進めて、上図のような形から後手が攻めてくることも考えられます。このようなときに、先手が攻めるべきか受けるべきかという判断は難しいものです。本書で「棒銀には中央志向」という考え方を身につけておけば、右銀をすすめて▲4六銀とし、▲5五歩から中央の戦いに持ち込めばいいのだな、と指し手の方針に困ることはないはずです。もう少し余裕が出てくれば、後手が△9五銀と出たときに▲8八銀と受ける手も思い出せるでしょう。

本書(あるいは本シリーズ)で、手順の暗記だけでない定跡の勉強法を手に入れれば、将棋の序盤・中盤・終盤それぞれの仕組みがわかって将棋を指したり勉強したりするのが楽しくなることうけ合いです!

塚田泰明『角換わり初段の常識』(マイナビ)

最後に少し背伸びして、1つの戦法についての本格的な定跡書も読み始めてみましょうか。角換わりの将棋を指すうえで必要な知識をぎゅっと1冊にまとめた本です。表紙コメントにあるとおり、本書の知識がないと「角換わりは指せない!」といっても過言ではないかもしれません。ちなみに角換わりというのは序盤の早い段階で角交換をして、かつお互いに飛車先の歩を交換しない形を指します(第8図参照)。

【第8図は▲7七同銀まで】

角換わりの戦型は最近のプロの将棋でも毎日のように出現しており、やや高級な指し方といえるかもしれません。それだけに、この角換わりを勉強して指しこなせるようになれば一人前の居飛車党を自称してもいいでしょう。上の図からは、戦いのバリエーションが4つあります。

まずは先ほど紹介したような、棒銀の形です。飛車と銀の協力で敵陣突破を狙います。

【第9図は▲2七銀まで】

本書第1章基本図・棒銀

それから、3筋の歩を突きそこから銀を出る早繰り銀の戦い。▲3七銀から▲4六銀と出て棒銀に似た要領で攻めていきます。

【第10図は▲3六歩まで】

本書第2章基本図・早繰り銀

そして、5筋の歩の上に銀を出る腰掛け銀の戦い。この場合、お互いに腰掛け銀の形なので相腰掛け銀と呼びます。右の桂を使った攻めを狙う展開が多いです。

【第11図は△4五同歩まで】

本書第3章基本図・相腰掛け銀

最後に紹介されるのが右玉の戦い。これは先手の右辺からの攻めを軽くいなしてしまおうという後手の作戦です。図から後手の玉は△6二玉と、後手から見て右に移動するのが面白いところです。

【第12図は△8一飛まで】

本書第4章基本図

本書は先手と後手どちらにも肩入れせず、それぞれが最善を尽くしたときにどういった結論(先手有利・後手有利・難解)になるかを詳しく検討しています。タイトルが示す通り、初段以上の人が定跡の復習の意味で使うのも有用ですが、初級者の方が戦型のおおまかな流れを学ぶのにも役に立つ1冊といえます。

おわりに

今回は居飛車の基本的な指し方や考え方を学ぶ本を紹介しました。相居飛車は覚えることが多くて少し大変かもしれませんが、これらの本を読む中で自分の得意戦法をみつけて、居飛車本格派への第一歩を踏み出しましょう!

棋書紹介

水留啓

ライター水留啓

ねこまど将棋教室講師。こども教室担当として積んだ指導経験を生かし、大人向け講座「平手初心者のための棒銀/四間飛車/中飛車入門講座」を開講。初心者・初級者を中心に、幅広い層に将棋の楽しさを伝えている。趣味は棋書収集で、最近は自宅の本棚が足りなくなってきているのが悩み。

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