ライター水留啓
ルールの次は玉の囲い方を覚えよう!初心者におすすめの囲いを勉強できる棋書5選
ライター: 水留啓 更新: 2019年03月18日
今回は囲い、すなわち玉を守る形について学ぶ本を紹介していきましょう。
将棋を始めたばかりの子どもたちを見ていると、自陣にある玉や金銀には目もくれずに飛車と角をぶんぶん振り回している様子と出くわします。ある程度強くなってくると、そうした大技ばかりでは勝てないことがわかりはじめ、玉を囲いに収めようと考える子どもが多くなるようです。また、子どもたちの将棋を見ていて面白いのは、初心者の子ほど飛車・角・桂をたくさん使い、強い子ほど序盤のうちに金・銀にたくさん触れるという傾向があるということです。皆さんは、「玉の守りは金銀3枚」という格言が教える通り、金銀3枚(金、金、銀あるいは金、銀、銀)を使ってしっかり玉を囲えるようになりましょう!
本間博『初手から分かる!将棋・序盤のセオリー』(マイナビ)
囲いの勉強については、大きく4つの段階があると考えられます。まずは(1)自分の好みの囲いに組める。これは囲いの完成形とそこに至る手順を知っているという意味で、もっとも大事な段階とも言えます。ここでは、例えば実際に将棋盤の上で自陣の駒だけを配置して一人で並べてみるというのがいい練習になるでしょう。
次に(2)相手の駒組み、陣形を見て自分の囲いを決めることができる段階があります。たとえば、相手が四間飛車にしてきたら自分は矢倉囲いでなく舟囲いにするというふうに、戦いに合った囲いを選ぶのも上達の上で欠かせない材料です。
そしてそれができるようになると、(3)相手の囲いを崩すというレベルが待ちうけています。囲いというお城を崩すことができなければ玉という本丸に到達することはできませんね。
最後は(4)自分の囲いを守るという段階です。もちろんこれは(3)相手の囲いを崩すとも表裏一体なのですが、攻めるだけでは将棋は勝てませんからこちらは一応1つ上のレベルとしておきましょう。
まずは、ここで紹介した『初手から分かる!将棋・序盤のセオリー』をしっかり読んで(1)自分の好みの囲いに組める段階をしっかり卒業し、次のステップの足掛かりとしましょう。ちなみに、最初に覚える囲いは「矢倉囲い」「舟囲い」「美濃囲い」の3つで十分だと思います。
羽生善治『羽生の法則3 玉の囲い方、仕掛け』(日本将棋連盟)
羽生善治『羽生の法則3 玉の囲い方、仕掛け』(日本将棋連盟)
玉の囲いは数えきれぬほどありますが、すべての囲いは大きく2つに分類することができます。(1)振り飛車戦法(飛車を左に動かして使う)を採ったときに使う囲いと、(2)居飛車戦法(飛車をもとの位置で使う)を採ったときに使う囲いです。「玉飛接近すべからず」という格言がありますよね。攻撃の要になる飛車は、防御の中心となる玉と反対の位置に配備するのがいいですよという意味です。この格言からわかる通り、玉の囲いは飛車の位置、すなわち攻撃の戦略と密接に関わっています。
【図は▲5七銀まで】
本書p49、「四間飛車対居飛車」より。互いに飛と反対側に玉を囲っていることがわかる
『羽生の法則』シリーズの「(5)玉の囲い方」と「(6)仕掛け」が併せて文庫化された本書では、四間飛車対居飛車の戦いと矢倉の戦いを中心として、玉の囲い方(序盤)から仕掛け(中盤戦の始まり)までの手順が丁寧に解説してあります。本書は囲いのカタログ、そしてミニ戦法事典という両方の側面から活用できるのではないでしょうか。
ちなみに羽生先生は前書きで、定跡などの型は多すぎてプロでもすべては覚えきれないとしたうえで、「おおまかな手順だけ覚えていれば、仮に知っている型から離れたときにでも対応することができます。」と述べています。本書に限らず定跡書を読む際のヒントとしてください。
及川拓馬『全戦型対応!囲いの破り方』(マイナビ)
これまでの2冊を読まれた方には、実際に将棋ウォーズや将棋倶楽部24、あるいは実際の道場で対局をしてみることをおすすめします。頭で仕入れた知識は実際に手を使って試してみることでもっとも定着するでしょう。ただし、知っている知識を実践したからといって勝てるとは限りません。なぜなら実戦では相手も、あなたと同じように玉を囲ってくるからです(囲ってこない場合はチャンスと思いましょう!)。
そこで紹介するのが本書。その名の通り囲い崩し(囲いを破ることを囲い崩しと呼びます)の問題集です。実戦では、どうやったら相手の囲いを崩せるかを常に考えなくてはいけません。言い換えれば、いかに早く相手の囲いを崩して玉を追い詰めるかという知識が終盤戦の強さ、ひいては将棋の強さにつながるということになるでしょう。
本書p65、22問より、矢倉囲いを弱体化させる。
正解は▲5二銀。放っておけば▲4三銀成、△5三金なら▲4一銀成で囲いの弱体化に成功。
本書ではこうした囲いを弱体化させる、あるいは相手玉を追い詰めていく(寄せる)手筋を180問も紹介しており、まさに初心者必携の教科書といえます。主な題材は矢倉、美濃囲いそして穴熊囲いという3つになっています。文庫サイズで、また電子書籍でも出版されていますので、カバンにしのばせて何度も読み返すことで攻めの技術が上達すること間違いなしです。
金子タカシ『美濃崩し200』(浅川書房)
こちらも同じく囲い崩しの本ですが、なんと一冊丸ごと美濃囲いを崩す手筋に特化しています。著者の金子 タカシさんはアマチュアながら、その実力と分類能力の高さを生かして他にも『寄せの手筋200』『凌ぎの手筋200』(浅川書房)などの名著を残されています。
【第18問】
本書p29, 第18問より
たとえばこの問題。何も知らずにこの図を前にすると、ちょっと攻め方がわからずに途方に暮れてしまいそうな感じもします。しかし本書で美濃崩しの手筋を学べば、▲6二香!△同金に▲7一角(図)とすばやく後手玉に迫ることができました。
【図は▲7一角まで】
本書p29, 第18問より
▲6二香に対する後手のその他の応手、またそのほかの問題はぜひ本書を手に取って確認してみてください。美濃崩しのバイブルともいえる本書は、すべてのレベルの指す将ファンにおすすめできます。
藤倉勇樹『美濃囲いを極める77の手筋』(マイナビ)
今回の最後として紹介するのは将棋界では珍しく、受け(守り)、なかでも美濃囲いの受け方に特化して書かれた本です。先述したレベル分類では、最後の(4)自分の囲いを守るに当たりますね。受けの基本は相手の攻めを見抜くことなので、もちろん攻めの技術が身につけるだけで受けもある程度は上手になるという面はあります。しかし本書では「相手と自分の持ち駒に注目する」「相手の攻めと自分の攻めのどちらが早いかを判断する」といった実戦的な要素をふんだんに取り入れており、これまでの手筋本とは一線を画す仕上がりになっています。
【図は△5九龍まで】
本書p84、第29問より ▲3九銀が正しい受け方。▲4九金や▲3九金ではそれぞれ△4八金、△4八銀で崩される
章の構成は第1章「美濃囲いについての基本」、第2章「横からの攻めへの対応」、第3章「端攻めへの対応」、第4章「縦や斜めなどその他の受け方」、第5章「プロの実戦から見る受け方」となっています。とりわけ圧巻なのは第3章「端攻めへの対応」に出てくる「後手の歩の枚数による端攻めの成否」でしょう。全体的に見ても、『美濃崩し200』と合わせて、この2冊を仕上げれば美濃囲いの達人になれること請け合いです。
なお本書は、ほかに矢倉囲い編(大平武洋)と穴熊囲い編(石田直裕)が出版されています(いずれもマイナビ)。
おわりに
今回は囲いに関する本を5冊取り上げてみました。囲いの本と一言に言っても、基本的な組み方から状況に応じた囲いの守り方まで、さまざまな棋書が出版されていることが分かったと思います。ぜひご自身の棋力、そして興味関心に合った本を実際に手に取って読んでみてください!