藤井聡太四段の効果はこんなところにも!?山口女流1級の関西棋士室便り

藤井聡太四段の効果はこんなところにも!?山口女流1級の関西棋士室便り

ライター: 山口絵美菜  更新: 2017年05月31日

「棋士室」へようこそ!」

関西将棋会館3階、廊下の突き当たり。扉を開くとそこは棋士が集う「将棋の部屋」。静けさの中に駒音が、かと思えば秒読みに追われたボヤキ声が、またある時は笑い声が聞こえてくる「棋士室」から、「関西棋士室便り」をお届けいたします。

季節は春。順位戦開幕前のこの時期は夜遅くまで残って検討する光景があまり見られないもの。順位戦が開幕すると夕食休憩後に棋士室を訪れる棋士や奨励会員が増え、その代表格である長沼洋七段のお姿が見えないと「今日は長沼先生いらっしゃるかな」「もうすぐかな」という声が聞こえます。

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朝から晩まで駒音が響き、変わらない日常が流れていく棋士室ですが、最近は少し様子が変わってきています。デビューから連戦連勝の藤井聡太四段の対局日は普段より早くから検討が始まり注目を集めるのはもちろんのこと、棋士室に多くの報道陣が詰めかけて廊下が埋まることもあるほど。なぜ棋士室に?と思われるかもしれませんが、実は「棋士室」の本来の名前は「記者室」。対局を取材する記者の控室で、かつては入り口付近に「記者室」と名札が掲げられていたとのこと。そこには記者だけでなく当然棋士や奨励会員も出入りするので、時を経て現在の「棋士室」になったそうです。今でも棋士室から棋譜中継を行っているのはその名残かもしれませんね。

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藤井四段の対局に限らず、注目局の対局日は継ぎ盤を囲んで読み筋の議論が巻き起こります。棋士や奨励会員が継ぎ盤やモニターを見つめて忌憚なく意見を交わす様子は真剣そのものですが、それでいてどこか和やかなもの。写真はある日の棋士室の様子で、「コラム用に写真をとってもいいですか?」とお声がけすると長沼洋先生は慌ててマスクを外してくださり、福崎文吾九段はにっこりピースサインをしてくださるというサービスぶり。棋士の先生方にいろいろなお話を伺えるのも棋士室のいいところで、先ほどの「棋士室」は「記者室」が正式名称、というお話も棋士室で浦野真彦八段に教えていただきました。

季節によって、日によって、少しずつ表情を変えていく「棋士室」。テーブルに登場するおやつもその影響を受けるもの。タイトル戦の現地に行った棋士や女流棋士がご当地の銘品を買って差し入れするのが慣例の一つで、テーブル上のお菓子包みを指して「これ誰の差し入れやろ?」「○○県のやから、○○さんからちゃう?」「えらいうまそうやな」と、どなたからのお土産か当てるという推理合戦もおなじみの光景です。

毎日棋士が集い、膨大な棋譜と水面下の研究が繰り広げられる「棋士室」。関西将棋界の縮図のような場所かもしれません。「棋士室」発の新手を、ぜひ盤上に探してみてはいかがでしょうか?まだまだ書き尽くせない「関西棋士室便り」、この続きはまたいつか。

山口絵美菜

ライター山口絵美菜

1994年5月生まれ、宮崎県出身の女流棋士。2017年に京都大学文学部を卒業し、在学中に研究した『将棋の「読み」と熟達度』を足掛かりに、将棋の上達法を模索している。
将棋を覚えるのが遅かったため「体で覚えた将棋」ではなく「頭で覚えた将棋」が強くなるには?が永遠のテーマ。好きな勉強法は棋譜並べ。

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