佐藤天彦名人との対局がヤフオクに。300万円で落札された対局体験、この企画が意図することとは?

佐藤天彦名人との対局がヤフオクに。300万円で落札された対局体験、この企画が意図することとは?

ライター: 常盤秀樹  更新: 2017年03月29日

Yahoo!オークションのreU funding(リユー ファンディング)のプロジェクト「プロ棋士が子どもたちに将棋盤・駒をお届け!」にて、2016年11月から12月にかけて開催しましたオークションでは、プロ棋士の愛用品や2017年指し初め式参加などの品物や企画を出品しました。その中で目玉企画の「タイトル戦体験」は、佐藤天彦名人とタイトル戦さながらに対局する、といった企画でした。

今回、こちらの企画を青木優季さんが落札され、2017年1月24、25日に山梨県甲府市の「常磐ホテル」で対局を行いました。

1月24日(火)曇 対局前日

翌日の10時から対局を開始する為、前日から対局者共々現地入りします。新宿駅に午後2時20分に集合。特急かいじで甲府に向かいました。 甲府駅に到着後、今回の対局会場の常磐ホテル営業部長の小沢行広さんがホテルのバスでお出迎えしてくださいました。

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撮影:常盤秀樹

ホテルに到着後、一息ついて、さっそく検分を始めました。検分とは、対局日の前日に行うもので、対局場の雰囲気や照明の具合、室温や部屋のファシリティについての説明、そして対局当日の要望について、その時に調整をします。そして、使用する駒も両対局者が将棋盤に並べ、具合を見ていただきます。

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撮影:常盤秀樹

今回、青木さんが初体験ということもあり、秒読みや封じ手についての説明もしました。

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撮影:常盤秀樹

通常は、前夜祭などを行ったりしますが、今回は、両対局者と関係者にて懇親食事会を催し、明日の対局に備えました。

1月25日(水)晴れ 対局当日

前日の曇り空から一転、対局当日は晴天となり、青空が広がりました。

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撮影:常盤秀樹

常磐ホテルの庭園は、『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』という日本庭園・日本建築専門誌の日本庭園ランキングで3位に選ばれたこともあります。この庭園は、井伏鱒二氏や山口瞳氏など文豪たちが訪れたこともあり、歴史を感じさせます。また、将棋のタイトル戦でも名局がこのホテルで多く生まれました。対局開始前に庭園に出て、記念撮影をしました。

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撮影:常盤秀樹

さて、対局は立会人の青野照市九段の合図で午前10時に始まりました。手合割りは、佐藤名人の二枚落ちです。なお、本局の記録係は、小山泰希奨励会1級です。

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撮影:常盤秀樹

二日制のタイトル戦ですと、初日終了時に封じ手を行います。今回は、一日制なので、本来、封じ手はありませんが、タイトル戦体験ということで、封じ手を昼休時に行うことにしました。手を封じるのは、青木さんです。別室で封じ手用紙を記入しました。

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撮影:常盤秀樹

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撮影:常盤秀樹

昼休明けに封じ手を開封し、青木さんが手を指しました。

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撮影:常盤秀樹

熟慮する様子は、まさに真剣そのもの。佐藤名人も駒落ちとは言え、一切の妥協なしで"勝ち"にこだわります。

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撮影:常盤秀樹

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撮影:常盤秀樹

熱戦も終盤を迎え、いよいよ勝負も佳境にさしかかります。途中、優勢だった青木さんでしたが、佐藤名人の懸命の追い込みで肉薄します。最後は、形勢を逆転した佐藤名人が勝ちきり、名人の貫禄を示しました。感想戦も行い、対局を振り返りました。

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撮影:常盤秀樹

最後に佐藤名人から五段免状を、そして青野九段と飯野愛女流1級から色紙や駒などの記念品を青木さんに贈呈しました。

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撮影:常盤秀樹

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撮影:常盤秀樹

駆け足になりましたが、タイトル戦体験ということで、雰囲気を実際に味わっていただきました。おそらく、今回初となった企画に実際にスタッフとして同行しましたが、まさにタイトル戦さながらのスケジュールと緊張感がありました。一方で打ち解けた家庭的な雰囲気が相まって、とても素敵な2日間だったと思います。 本企画で対局会場を提供していただきました常磐ホテルの皆様にはこの場を借りて深く御礼申し上げます。

最後になりましたが、本企画にご参加いただいた青木さんご本人から感想とコメントをいただきましたので、掲載(抜粋)します。

なお、全文は、青木様の「将棋の未来を探す旅に出よう」に掲載しておりますので、そちらもあわせてご覧ください。

[青木様のコメント]

「現役の名人と対局できるってマジ!?」最初、今回のタイトル戦体験の企画を目にしたとき、出てきた感想はこの一言でした。 ただただ、名人と公式戦に近い形で対局できる、しかもタイトル戦と同じ形式なことに驚きました。 その後、チャリティーの企画であることを知りました。

僕は将棋に沢山のものをもらいました。 ならば、僕はこの恩をどう返せばいいのだろうか? そう考えたときに思い浮かんだ一つが、次世代への継承でした。 今回のチャリティー企画では、子供たちに盤駒を届けて、プロ棋士を派遣するためにお金が使われると聞いて応援したい!と思ったのです。

名人の考えているときの空気感、そういったもの全てを体験できるというのは確実に一つの魅力だと思いましたし、素晴らしい環境の中で真剣に盤に向かうだけで、数多くの学びがありました。

将棋だけに絞っても、かなり棋力が上がりましたし、本気で誰かと向かい合うという経験が出来るのは、現代の日本では珍しい体験です。 こういった将棋に付随する価値・魅力も含めて、どういったものを提供できるのかに今後の将棋界の未来がかかっていると思うのです。

単なる勝ち負けの世界から、更に広い世界へと羽ばたくときがきました。 願わくは今回のチャリティーで将棋を始めた子供たち、今回のチャリティーを通して将棋を知った人たちが将棋を通じて何かを学び、活躍されることを祈っています。 今回は本当に素晴らしい体験をさせていただきました。

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撮影:常盤秀樹

応援していただいた金沢文庫将棋サロンさま、企画していただいた日本将棋連盟さま、 対局場を用意していただいた常磐ホテルさま、 沢山の方の応援・準備のおかげで素晴らしい体験になりました。改めて御礼を申し上げたいと思います。 今回は本当にありがとうございました。

常盤秀樹

ライター常盤秀樹

日本将棋連盟の職員として将棋界を20年以上見てきた。タイトル戦中継に際してのITインフラの準備や設営に従事。その傍ら、対局写真や棋士、女流棋士の写真も数多く撮影。給料の多くがカメラやレンズ代に消える。

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