将棋コラム

森下卓九段にインタビュー(5)「どんな相手でもちゃんとやらなければならんぞ」。師匠の花村九段が最後の対局で伝えた教え

森下卓九段にインタビュー(5)「どんな相手でもちゃんとやらなければならんぞ」。師匠の花村九段が最後の対局で伝えた教え

更新: 2017年01月20日

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森下卓九段インタビュー

森下卓九段にお話しいただいた師匠・花村元司九段の思い出も、今回が最終回です。現在、森下九段は昨年の第47期新人王戦で優勝した増田康宏四段を弟子に持っています。森下九段が師匠から受け継いだ教えをどのように活かしているかなどを聞きました。

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 ――最終回は、花村九段の教えを受けた、森下九段が考える棋界の師弟関係についてお話しいただきたいと考えます。

「時代の違いと言ってしまえばそれまでですが、昔と比べると将棋界の師弟関係は薄れましたよね。ただ、若い棋士が弟子を取っているのはすごいです」

 ――20代の棋士で奨励会員の弟子を持つのは広瀬章人八段、菅井竜也七段、髙崎一生六段、及川拓馬六段、門倉啓太四段です。

「しかも皆さん熱心です。若いのにすごいと、本当に感心します」

 ――森下九段のお弟子さんと言えば、増田康宏四段ですね。今日(インタビュー日は2016年10月11日)は第47期新人王戦の第2局を対局中です。

「私が師匠から伝えられ、また将棋界で見聞きしたことは全て増田に伝えたつもりです。増田は四段になるのが3年は遅れたので、これから大いに活躍してもらいたいものです」

 ――増田四段、さらには藤井聡太新四段といった若い世代がこれからの棋界をどのように歩んでいくか楽しみです。

「藤井君は、井山さん(裕太六冠)が碁に打ち込まれたように、将棋に打ち込めば20歳で七冠も夢ではないと思っています。3月に彼と話す機会があったのですが、その時に『君はすでに四段になっていなければならなかった。だから来期の三段リーグは一期で抜けなければいけない』と伝えました。それは実現してくれましたが、これからが本当の勝負です。藤井君も増田も、井山さんのように、あるいは中国、韓国の碁打ちが碁に懸けるように、持てるエネルギーと時間の全てを、将棋に集中できるかどうか、だと思います」

 ――なるほど。

「あらためて振り返ると、私は実に恵まれた師弟関係でしたが、こちらが子ども過ぎて花村先生からじっくりと、お話を伺えなかったのが心残りです。最後のエピソードとして、師匠の絶局の日の話をさせてください」

 ――鬼手△1七銀で知られる高橋道雄九段(当時・六段)戦(図1)ですね。1985年3月19日の第11期棋王戦予選で、236手の大激戦を花村九段が制しました。亡くなる2ヵ月ほど前の対局です。

「はい。その日は隣で私も対局していたんですよ」

【図は△1七銀まで】
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 ――坂口允彦九段との一戦ですね。当時76歳の坂口九段は引退が決まっており、森下戦が最後の公式戦対局となりました。

「ええ。坂口先生はお年だったこともあり、早指しで昼食前に終わりました」

 ――57手で11時26分終局、消費時間は▲森下35分、△坂口37分と記録にあります。

「それを見ていた師匠が『どんな相手でもちゃんとやらなければならんぞ』と。これが最後の教えでした」

偶然であるにせよ、師匠である花村九段の絶局に弟子の森下九段が隣で対局をしていたことは、師弟の絆のようなものが感じられるエピソードでした。次回の「師匠との思い出」は小林宏七段に真部一男九段について語っていただきます。お楽しみに。

森下卓九段インタビュー

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2016年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、叡王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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