取材協力稲葉陽八段
「いま一番意識しているのは佐藤天彦名人」同世代の棋士がいるから頑張れる。【注目の若手・稲葉八段インタビュー vol.4】
ライター: 池田将之 更新: 2017年01月27日
稲葉陽八段のインタビューも今回が最終回です。最後は、同世代の棋士との関係や趣味やオフの過ごし方などについて答えていただきました。
ーー同世代の関西棋士についてお聞かせください。糸谷哲郎八段とは毎局、大熱戦になっていますね。
「糸谷君を意識するようになったのはいつからなんですかね。向こうがいつも火花を散らしてきて、いつの間にか自分も(そういう意識をもった)というところです。盤上以外でも熱くさせる言葉で煽ってくるんです。1期目の三段リーグで初めて勝ったときなんかは『初勝利の味はいかがですか?』と。あんたは記者か!と思いました(笑)」
ーー糸谷八段が竜王になったときは、どういった心境でしたか?
「そうなるとライバルというのも変ですが、実はそうだったのかもしれないと。なんとも言えないんですけど、順位戦では同じクラスで昇級を争っていましたので」
ーー豊島将之七段についてはいかがでしょうか?
「豊島君をライバルというのはちょっと違和感があって。ずっと目標という存在でした。奨励会では1年先輩で、ぼくが5級のときに彼は1級でした。将棋はよく指していましたが、彼を追いかけることで自分も引き上げられるという意識が強かったです」
ーー現在はいかがでしょうか?
「ライバルという言葉は非常に難しいのですが、いまですと佐藤さん(天彦名人)のことをいちばん意識します。順位戦のC1昇級は一緒でしたが、B2昇級からは、ひとクラスごとに一年先をいかれて名人にまでなられました。ずっとあった豊島君への目線がフラットになったのは、糸谷竜王の誕生や佐藤さんの活躍が大きかったように思います」
ーーライバルという言葉を抜きにして、同世代棋士の存在とは?
「同じ関西の豊島君と糸谷君を見て思うのは、自分が結果を残したとしても、すぐに彼らがそれ以上の活躍をする。満足してはいけないという気持ちを持たせてくれますよね」
ーースポーツや漫画などでよいなと思うライバル関係は?
「漫画『ワンピース』のルフィとコビーみたいな関係はカッコいいなと思います(笑)」
ーー趣味や気分転換は?
「スポーツ観戦が好きで、テレビで海外のサッカーをよく見ています。試合数が多いのでダイジェストで振り返ることが多く、ビッグマッチがあればじっくり見るようにしています」
ーー注目しているチームは?
「日本人選手が在籍しているチームの試合をよく見ています。そこから相手チームのことも調べて幅を広げています」
ーー稲葉さんが好きなサッカーのポジションはどこでしょうか?
「センターフォワードはもちろん好きなんですけど、ゲームを組み立てるボランチのようなポジションも好きです。レスター・シティに昨年までいた、エンゴロ・カンテ選手(現チェルシー)なんかは好きですね」
ーーどのような1週間を送られていますか?
「対局は週に1局、多いときで2局です。研究会は最近、週1日から2日くらい。あとの日は家で研究や、イベントや普及の仕事、それと運動ですかね。対局は日付が変わることもあるので、規則正しい生活はなかなか難しいですね」
ーー研究はどのようにされていますか?
「基本的には研究会、棋譜並べ、詰将棋ですね。研究会はプロ棋士や奨励会員と練習将棋を指します。最新の戦術を研究しているようですが、関西は力戦派の棋士がまだまだ多く、公式戦には出ないような将棋になることが多いです(笑)。なので、棋譜並べでは序盤の局面で手を止めて考える時間が多いですね」
ーー棋士になってからタイトル戦の記録係を務められ、『勉強になった』とおっしゃっていましたね。
「あれはよい経験になりました。自分も一緒に考えていて、この一手だろうと思っていた局面がありました。羽生(善治三冠)先生はそこで数分使い、自分が予想した手の前に細かい利かしを入れて快勝されたんです。こういうことが大事なんだなと実感しました。自分でも小刻みに時間を使うようになり、成績が上がりました」
稲葉八段と同世代の関西所属の棋士の関係は、東京とはまた少し異なる関西独特のノリみたいなものもあるようですね。いろいろと多岐にわたる質問に快く答えていただきました。次回の関西若手棋士インタビューは、斎藤慎太郎六段の登場です。お楽しみに
稲葉八段インタビュー
ライター池田将之