ライター直江雨続
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。
ライター: 直江雨続 更新: 2016年11月10日
将棋のタイトル戦はほとんどの場合、全国のホテル・旅館で対局を行いますが、その際にほぼ毎回行われている恒例のイベントがあります。
それは『前夜祭』です。
対局日の前日の夜に、タイトル戦の開催地のホテル・旅館で行われる前夜祭は、タイトルホルダーと挑戦者、ゲストの棋士らが多数出演し、全国から集まった将棋ファンや来賓、地元の関係者や報道関係者など、多ければ数百人が参加する盛大なイベントです。さて、全国各地に将棋ファンは多数いると思いますが、その中で実際にタイトル戦の前夜祭に参加したことがない、という方が大多数ではないでしょうか。そもそも将棋のタイトル戦で前夜祭というイベントが行われていることをご存知ない方もいるかと思います。
今回は、先日行われた第6期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局の前夜祭を通して、タイトル戦で行われている前夜祭の内容と、将棋ファンが前夜祭に行くべき理由をご紹介したいと思います。
加藤桃子女流王座と立会人の森信雄七段
さて、一般的にタイトル戦の前夜祭ではどんなことをやっているのでしょうか?多くのタイトル戦は中継ブログで前夜祭の模様を伝えています。ご覧になったこともあるかと思いますが、前夜祭では以下のような内容が定番となっています。
などがあります。
井上慶太理事(九段)の挨拶
トークショーの様子
前夜祭は立食形式であることが多く、ご当地の名物料理などを中心に豪華メニューがふるまわれますので、参加者は食事を楽しむこともできます。また、歓談タイムも十分に取られることが多いので、そこで出演棋士たちと直接話をすることや一緒に写真を撮ってもらうこともできます。棋士との距離がぐっと近づく魅惑の空間。それが前夜祭なのです。
将棋のタイトル戦に出るのは大変です。なにしろタイトル戦の挑戦者になれるのは各棋戦で毎年1人だけ。七大タイトル戦なら毎年最大7人、女流の六大タイトル戦なら毎年最大6人だけの狭き門です。多くの棋士はタイトルを取ることも、タイトル戦に出ることもないまま、現役を終えているという厳しい事実もあります。タイトル戦に出ること、それにより前夜祭でスポットライトを浴びることは、棋士にとっては生涯の名誉と言えます。
さて、あなたが応援している棋士がもしタイトル戦に出たとしたら? 全力で応援しますよね。叶うことならより近くで、勝利を祈りたいですよね。もし、対局の前日に、直接その棋士に「頑張ってください」の一言が言えるとしたら? そうなんです。ファンにとって、タイトル戦の前夜祭というのは、憧れの棋士に直接会ってお話しをすることができるという貴重な機会なのです。もしあなたが応援している棋士がいて、その人がタイトル戦に出場したなら、ぜひとも前夜祭に行きましょう。この機会を逃した場合、いつ次のチャンスが巡ってくるかはわからないのですから。
さて、それでは前夜祭ではどんなふうに楽しめばよいのでしょうか。いろいろな楽しみ方があると思いますが、ここではそのいくつかをご紹介します。
前夜祭はタイトルホルダーと挑戦者、そして立会人や新聞解説担当棋士、大盤解説会の出演棋士など、多数の棋士が出席しています。多ければ10人を超える棋士が会場にいて、ファンや来賓の方との歓談をしているわけです。さぁ、どうぞ遠慮なく棋士に話しかけてください。話すきっかけが難しいという方は、例えばカメラを持って、「一緒に写真を撮ってください」とお願いしたり、ビジネスマンなら名刺交換から入るというのも手筋ですね。声をかけるのはちょっと勇気が必要ですが、きっかけさえつかめれば大丈夫です。
そもそも、前夜祭に出演している棋士は、ファンと交流するのがお仕事なのですから、遠慮なく話しかけるのが好手です。普段から応援している棋士には「ファンです」「頑張ってください」「応援しています」「あの時の対局素敵でした」「あの一手にしびれました」などなど日頃の思いを伝える良い機会ですよね。そして話し終えたら、最後に握手してもらうのも良いですね。ひとつだけ気を付けるべきことがあります。それは会話の時間です。その人と話したいと思っているファンは会場にたくさんいます。周りをよく見て、順番を守って棋士と交流しましょう。
写真を撮るときはできれば棋士に一声かけてからが好ましいです。そのほうがちゃんと目線やスマイルをいただけて良い写真が撮れます。また、前夜祭に参加している一般の方が写り込んだ写真をSNS等にアップするのは避けたほうが無難ですので、撮影の際は周りの人が写り込まないようにするのが好手ですね。
ファンとの記念撮影に応じる里見香奈女流四冠
山崎隆之八段
糸谷哲郎八段
澤田真吾六段。ファンからの求めに応じて気さくにサイン中
将棋と食事は切っても切れない関係です。前夜祭は立食のバイキング形式がほとんどです。棋士の先生方と同じものを食べられるチャンス。全メニュー制覇、目指しちゃってください。ただし、食べることに夢中になるとせっかくの棋士との交流の時間が減ってしまうので、そこは上手にバランスを取るのがよいと思います。
最後に、前夜祭は将棋ファン同士の交流の場でもあります。同じ棋士のファン同士、あるいは遠方から遠征してきたファンの方と仲良くなるチャンスです。ぜひ将棋ファンの輪を広げてください。
※写真はすべて2016/10/25第6期リコー杯女流王座戦五番勝負第1局の前夜祭で筆者撮影
ライター直江雨続