ライター直江雨続
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。
ライター: 直江雨続 更新: 2016年10月07日
大山康晴十五世名人、升田幸三実力制第四代名人、花村元司九段、芹沢博文九段、真部一男九段、河口俊彦八段、そして米長邦雄永世棋聖。今は亡き大棋士には共通する趣味がありました。
それが囲碁です。
将棋棋士の中にも囲碁の愛好家は多く、将棋連盟には「囲碁部」が存在しています。今回将棋連盟の囲碁部を訪ねて、その活動の様子を取材してきました。
<img alt="DSC04767.jpg" src="http://www.shogi.or.jp/column/entry_images/DSC04767.jpg" width="600" height="400" /><br />
囲碁部を訪れた瞬間、私は腰を抜かしそうになりました。将棋ファンにとってはレジェンドの中のレジェンド、タイトル獲得64期の大棋士、中原誠十六世名人の姿がそこにありました。2009年に引退した中原十六世名人は囲碁を趣味としていて、連盟囲碁部にもよく参加されるとのこと。中原十六世名人と囲碁を打っていたのはベテラン観戦記者の高橋呉郎さん。将棋ファンには将棋世界の連載「感想戦後の感想」でもおなじみですね。
こちら、対局を観戦しているのは囲碁部常連の佐藤義則八段。手前の後ろ姿が沼春雄七段、佐藤義則八段の隣に座って対局しているのは植野博指導棋士六段です。
対局中の沼春雄七段のお姿です。沼七段は佐瀬勇次名誉九段門下で、佐瀬九段が1994年に亡くなった後、当時奨励会員だった木村一基八段の師匠代わりを務めた棋士です。
木村八段の四段昇段の記、
「残念だったね、と慰めてくれている沼師匠の前で溢れ出てくる涙を抑えることができなかった。あの恥ずかしく悔しい思いは、今も忘れることができない」
を見ると、奨励会時代の木村八段を支えた存在だったようです。
畏れ多くも、対局中の中原十六世名人の写真を撮らせていただきました。数々の伝説的な名勝負を繰り広げた往年の大名人の迫力は健在でした。写真を撮った時に私は緊張で汗が止まりませんでした。
対局を終えた沼七段にお話を伺いました。
Q:囲碁の棋力はどれくらいですか?
A:日本棋院では三段で打ってます。
Q:日本棋院にはどれくらいの頻度で行っていますか?
A:二か月に一回くらい。
Q:連盟囲碁部で一番強いのはどなたですか?
A:一番は土佐浩司八段、二番は佐藤義則八段かな。
Q:連盟の囲碁部はいつごろから活動しているのでしょうか?
A:戦前からあったからね、100年くらいの歴史があるんじゃないかな。
Q:将棋の棋士が囲碁をするときの強みのようなものはありますか?
A:部分的に読むことには将棋の経験が生きるね。でも、すぐ石をぶつけるからあんまり強くならない(笑)
佐藤義則八段と植野博指導棋士六段で対局開始です。
対局中の中原十六世名人、相手の打った手に軽口も飛び出しとても楽しそうです。「ずいぶん乱暴ですね。驚いたね」
中原十六世名人の口癖である「驚いたね」を生で聞けて、とても感動でした。
対局を観戦している沼七段。
重厚な手付きの中原十六世名人。
少し遅れて登場したのは現在の囲碁部の部長、梶浦宏孝四段。鈴木大介八段門下の21歳。2015年4月に四段プロデビューしたバリバリの若手です。
梶浦宏孝四段の愛称は「カジー」。囲碁部の部長は今年2016年の1月から務めているそうです。ちなみにその前の部長は藤森哲也四段でした。梶浦四段の師匠の鈴木大介八段も以前囲碁部の部長を務めていたそうです。師弟での部長リレーですね。梶浦四段曰く、鈴木八段は最近「囲碁クエスト」というアプリにハマってもう2000局くらい対局している、とのこと。
さすがはプロ棋士、手つきは抜群に美しい。お話を聞いたところ、梶浦宏孝四段の囲碁の腕前は5級くらいとのこと。小学6年生の時に父親に教えてもらって囲碁を覚えたそうです。(将棋は5歳の時に教わったとのこと)
梶浦四段と対局したのは沼七段。6子のハンデを付けています。将棋で言えば4枚落ちか2枚落ちくらいの手合いでしょうか。
梶浦四段は以前囲碁棋士の大橋拓文六段のネットラジオ番組『大橋プロのスペースマンでGO!』にゲスト出演したことがあり、その縁で大橋拓文六段を応援しているそうです。ちなみにその回の番組はYoutubeでも見ることができます。
梶浦四段のファンは要チェックですよ!
梶浦四段の手のアップを撮らせていただきました。やはり棋士の手は美しいですね。
孫のような年齢の梶浦四段と囲碁を楽しむ沼七段。素敵な笑顔ですね。
沼七段と梶浦四段の対局は6子のハンデで梶浦四段が14目勝ちでした。
沼七段は続いて中原十六世名人と対局。中盤で中原十六世名人になにか見落としがあったらしく「ひどいミスしちゃったよ。驚いたね」としきりにぼやいていました。
梶浦四段は続いて観戦記者の高橋呉郎さんと対局開始。奥では佐藤義則八段と植野博指導棋士六段の勝負がまだまだ続いていました。
連盟囲碁部は、本職である将棋とは違い、純粋に趣味としての対局を楽しむプロ棋士の皆さんのリラックスした空気感がとても印象的でした。ちなみに囲碁部では二か月に一度日本棋院から囲碁のプロ棋士の先生を呼んで指導対局を受けているとのことでした。機会があれば、いつかその様子も取材に行きたいと思っています。
ライター直江雨続