ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2016年09月12日
駒の手筋を紹介していくシリーズです。第1回は『垂れ歩』を解説します。
歩は敵陣に入ると、金と同じ動きをする"と金"に成れることは皆さんご存知ですね。持駒の歩をその敵陣の少し手前に打って"と金"作りや駒の打ち込みを狙う手を垂れ歩と言います。
第1図では後手の穴熊は非常に堅いのですが、こんな時に有効なのが垂れ歩によると金攻めです。▲5二歩が正解で、仮に△9四歩▲5一歩成△6二金寄のように受けるなら▲5三歩と攻めます。以下は△5三同金▲6一と△7二金▲5一飛成のようにと金を使っていきます。
【第1図】
また、実戦においては第1図のような形から▲5三歩と垂らす手の方が良い場合もあるので、局面全体を見て判断しましょう。
続いて第2図です。相掛かりの序盤ですが、▲2四歩と垂らす手が厳しく、先手大優勢。次に▲2三歩成を受ける術がなく、先手の駒得が確定します。
【第2図】
基本的なことですが、この攻め筋があるので、後手は1手前に△2三歩と打って受ける必要があるのです。ただし、先手が▲7六歩と角道を開けている場合は△8八角成▲同銀△2二銀のように角をさばいて受ける手が生じます。と金で金駒を取ることができれば序中盤なら必勝になりますし、終盤でも大きな手です。
第3図は筆者のネットでの対局から。こういった飛車が向かい合った場合の手筋が▲3二歩の垂らしです。△3二同飛と取れば▲2四飛と飛車をさばいて優勢です。
後手は△2五歩と伸ばすくらいですが、▲3一歩成として次に▲2一との桂得や▲3二との活用を見て、悪いながらも勝負形です。
【第3図は2二飛まで】
対抗形ではよく出る手筋なので覚えておきたいところ。飛車のさばきを狙った垂れ歩です。
第4図は角換わり棒銀と呼ばれる戦型です。▲9七歩と受ける手も自然で有力なのですが、積極的な手があります。それが▲9四歩と垂らす手で、定跡化されている反撃です。
△9八香成とくれば▲9三歩成△同桂▲9一角から▲7三角成を狙います。後手は居玉なので▲7三角成が王手になるのが痛いところ。
【第4図は△9五同香まで】
▲9三歩成に対して△8四飛なら▲6六角が厳しいです。と金を作る、というよりは成り捨てが狙いの垂れ歩でした。
なお▲9四歩には△9二歩と受けるのが自然で、後手の飛車を多少狭くする効果があります。
第5図は第1図と似ています。▲5二歩と垂らすのもありますが、この場合は▲8四歩が厳しい攻め。次に▲8三桂と打ち込む手を狙っており、拠点の歩とも言えます。
もちろん実戦で単純にこの手が実現することはそうそうないので、別の手筋との組み合わせで最終的にこの筋を狙っていきます。
【第5図】
駒落ちでももちろん垂れ歩は有力です。特に香のいない端を攻める四枚落ちでは、空いたスペースに歩を垂らす攻めが定跡にもなっています。
第6図は1筋を突き捨てたところ。単に▲1四銀では△1三歩と打たれ、▲2五銀と引く一手になってしまいます。ここでは▲1二歩が手筋。上手は△5二金くらいでしょうが、▲1四銀△1三歩▲1一歩成(第7図)がうまい組み合わせ。
【第6図は△1四同歩まで】
以下△1四歩なら▲同香と取り、次に▲1二香成です。
【第7図は▲1一歩成まで】
また、第7図で△1一同銀は▲1三銀成△同桂▲同香成△1二歩▲1四成香で、手駒を増やしながら成香を作って下手十分です。
と金攻め、成り捨て、拠点など様々な攻め筋を生む垂れ歩。最も多い駒である歩は使う機会も多く、歩の手筋を覚えるのは上達に非常に役立ちます。
ただし敵陣深くに打つ歩なので、自陣に底歩などがないかなどは気を付けましょう(笑)。
二歩を打ってしまっては即負けになってしまいますからね。
ライター渡部壮大