ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2025年11月18日
藤井聡太竜王に佐々木勇気八段が挑戦した第38期竜王戦七番勝負。佐々木は前期が初のタイトル戦で、2年連続の同一カードとなった。
第1局は東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」にて。横歩取りからじっくりした戦いとなるが、藤井がポイントをあげてリードを奪う。
【第1図は△8五同銀まで】
香得に成功しており先手良しは明らかだ。あとはどうリードを拡大していくか。実戦は▲3六歩△3四飛▲5五飛と飛車を活用。8五の銀が浮いているため、受け方は限られている。以下△7四銀▲3五香△6四飛▲5六桂△5四飛▲同飛△同歩と飛車交換に持ち込み、先手がはっきり優勢になった。先手陣はスキが少ないが、後手陣は飛車打ちに弱い。藤井が快勝で白星スタート。
写真:八雲
第2局は福井県あわら市「あわら温泉 美松」にて。佐々木が角換わりから早繰り銀に出て、藤井も強く反撃に応じる。佐々木に誤算があったようで、早い段階で藤井に形勢が傾いた。
【第2図は▲8二飛まで】
ここで△7二銀と合駒をするのは▲8三銀と絡まれて、千日手模様になっては優勢の後手は面白くない。怖いようでも△6三玉とかわした。▲7二銀から迫るのも届かないので▲8一飛成と詰めろを掛けたが、△4六角がピッタリの攻防手。5五の地点を受けて詰めろを消しながら、条件によっては△6八角成から詰ます筋を見ている。以下は数手で佐々木の投了となり、藤井が前期苦戦した後手番をいきなりブレークした。

写真:文
第3局は京都府京都市「総本山仁和寺」にて。序盤に端の駆け引きがあり、9筋の位を取った佐々木が意表の四間飛車を採用した。藤井は居飛車穴熊に組み。互いに態勢十分なところから戦いが始まった。
【第3図は△4四角打まで】
先手好調ではあるが、後手も二枚角を並べての反撃に出た。ここで▲6三成桂が軽手。もったいないようでも、△同銀なら▲5五銀と進出する味が良く、後手陣はバラバラなので駒損はいずれ取り返せる。実戦は△3八竜▲5五銀△6三銀▲6八飛と進行。難解な応酬だが、後手陣は角やバラバラの金銀が負担になっており、まとめきれない。穴熊の深さが頼もしく、先手良しだ。以下は後手の勝負手も届かず、藤井が押し切って3連勝とした。

写真:武蔵
第4局は京都府京都市「京都競馬場」にて。角換わりから後手の藤井が右玉に構えて、じっくりとした戦いになる。先手は打開を目指し、少しずつポイントを稼ごうとする展開になった。
【第4図は▲8七同金まで】
いま△8七歩と叩いて▲同金としたところ。先手からは▲4四桂が分かりやすい攻めなので、後手は勝負手が必要だ。△7五桂が鋭い攻め。▲同歩と取らせて△8三桂で次の△7五桂を狙う。先に△8三桂では次の△7五桂打を取ってもらえず、飛車先が重くなる懸念があるため、先に捨てるのがスピードアップの手筋だ。厳密にはまだ先手が指せているようだが▲8五歩△7五桂と進んだ局面は先手が桂を渡しにくいため、局面を複雑にすることに成功した。以下はチャンスをとらえて後手が競り合いを制した。
写真:琵琶
藤井は4連勝で防衛。5連覇を果たし、史上最年少で永世竜王の資格を得た。また、タイトル獲得数も通算32期とし、渡辺明九段を抜いて単独4位となった。

ライター渡部壮大