第2回達人戦立川立飛杯が開幕! 勝又清和七段による第1回達人戦の振り返り!(後編)

第2回達人戦立川立飛杯が開幕! 勝又清和七段による第1回達人戦の振り返り!(後編)

ライター: 勝又清和  更新: 2024年11月20日

 2024年12月3日、12月4日と今年も達人戦立川立飛杯が開催される。そこで、振り返りの意味を込めて、昨年度現地を訪れ、その熱量を知る勝又清和七段に記事の執筆を依頼した。
前編はこちら

第1回達人戦立川立飛杯について

 第1回達人戦立川立飛杯の本戦(ベスト8による準々決勝~決勝)が、2023年11月24・25日に東京立川市で行われた。本棋戦の参加資格は50歳以上の現役棋士とされていて、該当の参加人数は54人に及んだ。谷川浩司十七世名人、羽生善治九段(永世七冠)、佐藤康光九段(永世棋聖)、森内俊之九段(十八世名人)の4人の永世称号資格者は本戦へシードされる。残りの本戦出場者4名を、ブロック別予選トーナメントで選出した。勝ち抜いたのは、丸山忠久九段、藤井猛九段、深浦康市九段、阿部隆九段――言わずと知れた、歴戦の猛者たちだ。
 予選対局は東西将棋会館で順次行われたが、先述の通り、本戦は立川市の「TACHIKAWA STAGE GARDEN」において公開対局の形式で行われることとなっていた。記念すべき第1回大会のため、さまざまなイベントも企画された。

11月25日 準決勝 羽生善治九段 対 森内俊之九段

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 準決勝で羽生森内の黄金カードが実現した。2人は、名人戦で戦うこと実に9期!名人獲得は森内8期、羽生9期で森内が十八世名人、羽生が十九世名人だ。
 戦型は先手森内の誘導で相掛かりに。互いに玉が前進していくという激しい戦いとなった。

【第1図は▲3四桂まで】

 図は大詰め、▲3四同桂と角を取ったところ。次に▲2二角から5五の飛車を抜く手があるし、△3四同玉と取ると▲1六角の王手飛車で4九の飛車が抜かれる。しかし羽生は29秒まで読まれて飛車を横にすべらせた。この△3五飛がうまい手で、以下▲2二角△3四玉▲2六金に△8七金と詰めろをかけて、みごと決勝進出。

11月25日 準決勝 佐藤康光九段 対 丸山忠久九段

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 準決勝もう一局、佐藤丸山戦は、佐藤が丸山に1手損角換わりをさせないように工夫して、前例のない力戦になった。うまく攻めた佐藤が優勢となるが、丸山は実に巧みに粘る。先手陣上に打った桂馬で、先手玉を守る銀を取らずに飛車を追った△4八桂成が好手。

【第2図は△4八桂成まで】

この手は入玉を含みにしている。佐藤は局後「桂成をウッカリした」とぼやいた。
 ここから丸山が逆転勝利をおさめ、決勝進出を決めた。

11月25日 決勝 羽生善治九段 対 丸山忠久九段

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 ということで、決勝戦は羽生対丸山となった。1970年生まれ同士の対決だ。
 戦型は後手丸山の1手損角換わり。羽生は早繰り銀から先攻し、丸山は飛車を4筋に回って受けて局面が落ち着く。
 羽生は矢倉囲いの堅陣に組んでから再び攻撃を開始した。角損ながら竜を作って巧みに攻めをつなぐ。丸山も持ち味の粘りを発揮し大熱戦。そして大詰め、羽生が5四にいた成銀を6三に入って詰めろをかけたのに対し、128手目、丸山が△7七歩と叩いたところ。

【第3図は△7七歩まで】

対して①▲7七同桂は△8九角▲同玉△8八金▲同玉△6八竜でトン死。また②▲7七同金引は△8五角が詰めろ逃れの詰めろ。一手間違えると逆転だ。だが羽生は▲7七同玉とし、その後10手を過たず逃げ切った。
 かくして羽生が、記念すべき第1回達人戦初優勝を果たした。

 ...の、だが、ここで観客も私も疑問を抱いた。表彰式では、日本将棋連盟会長が優勝者に表彰状を授与するはずだ。連盟会長は羽生だ。そして優勝者も...じゃあ、いったい誰が渡すの?

表彰式

 そんなみんなの疑問をよそに、「日本将棋連盟会長」の羽生が閉会の挨拶を行う。
「3日間、将棋のイベントが続きました。初めての試みで、ふたを開けてみないとわからないところもありましたが、皆さまのご尽力をいただきまして無事に行えました。厚く御礼申し上げます。
 ...ここからはしゃべりにくいので、改めてお話しします。今回はありがとうございました」
 「ここからはしゃべりにくい」ってどういうこと??? そして、なんとそのまま表彰式の流れになり、自身で自身への表彰状を読み上げはじめたのだ。
20231125-1 (12)_md.jpg  まさかあの真剣勝負の後に、笑ってはいけないコントが始まるとは! 読み終えると、羽生は賞状を差し出した姿勢のまま律儀に向きを変え、受け取る形で頭を下げる。観客は、どよめき、驚き、そしておおいに沸いた。

 そして今度は「優勝者」の羽生が謝辞を述べる。
20231125-1 (15)_md.jpg 「あらためまして、今度はプレーヤーとしての感想を話します。将棋の世界では、プロゴルフのようなシニアツアーはありませんでしたが、このような機会をいただいてありがたく思いましたし、張り切って対局に臨みました。こちらの会場はアリーナ型で、スポーツイベントを行うような素晴らしい会場だと思います。ここで対局できて、スポーツ的な側面のあるイベントになったと思います。早指し将棋だったので、決断よく指したのがいい結果につながったと思っています。
最近は、表彰状を読むのが仕事みたいなもので、(自分のために)自分の名前を呼ぶのは面はゆいのが率直な感想ですが、一つ結果を残せたことは棋士として自信になりました。これを機会に、前進できたらと思っています」
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 スリルあり、感嘆あり、笑いあり。これほどのドラマを1日で堪能できるとは、こんなお得なイベントはない。今年は12月3日(火)、4日(水)に同じ「TACHIKAWA STAGE GARDEN」で開催される。2日(月)にはコース料理付きの前夜祭もある。今年は平日開催となったが、有給休暇を使っても観戦に行く価値はあると断言できる。ぜひとも、立川まで足を運んでいただきたい。

※第2回達人戦立川立飛杯のチケット予約はこちら! https://w.pia.jp/t/tatsujin/

勝又清和

ライター勝又清和

1969年3月21日生まれ。神奈川県座間市出身。石田和雄九段門下。 「教授」の愛称で親しまれており、講義や記事の執筆などに定評がある。 著書に「新手年鑑Ⅱ」、「最新戦法の話」、「実戦に役立つ詰め手筋」等。

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