チーム中村VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント第四試合振り返り~

チーム中村VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント第四試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2024年08月29日

ABEMAトーナメント2024、8月24日(土)に放映されたのは本戦トーナメント1回戦第4試合、チーム中村「長考派」(中村太地八段、佐々木大地七段、渡辺和史七段)対チーム稲葉「井上一門」(稲葉陽八段、藤本渚五段、上野裕寿四段)の対戦だ。予選Aリーグで2度のフルセットを経験したチーム中村、予選Cリーグでは2試合ともメンバー全員が勝利しての総力戦で1位通過を決めたチーム稲葉。果たして今回の対戦も期待にそぐわぬ大熱戦となった。

1局目 中村太地八段─上野裕寿四段

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振り駒の結果、第1局はチーム中村の先手番に。対戦カードは▲中村―△上野戦となった。チーム稲葉は予選2試合とも上野を初戦に出場させ、勝利している。しかし本局は中村がリーダーの気概を見せた。相掛かりから中盤ではハッキリと上野優勢になったが、中村は辛抱に辛抱を重ねて最終盤の第1図を迎える。

【第1図は▲7七同玉まで】

実戦はここから△8五桂打▲6六玉△1六飛成▲3六歩△6五銀▲同銀△同歩▲5五玉△5四銀▲4六玉△5五金▲3五玉△4五金▲2四玉と進み、上部脱出に成功した中村が逆転する。第1図では単に△8五桂なら後手の勝ち筋だった。対して▲6六玉は桂を残した効果で△5四桂が打て、▲同銀に△5五金▲同玉△5四金という順で先手玉は即詰みとなる。そして△8五桂に▲同銀は△7五飛と王手に走る手がある。ここで先手は▲7六金と打つしかないが(他の応手はいずれも詰み)、△8五飛と銀を取っておけばよい。後手玉に即詰みはなく、先手玉は△8八銀からの詰めろがかかっており、そして▲8五同金には△7六歩から詰んでいる。

続く第2試合は▲藤本―△佐々木戦。昨年度に8割5分という高勝率を記録した藤本だが、3月に行われていた対佐々木戦に勝っていれば、中原誠十六世名人の持つ8割5分5厘という年度最高勝率の記録を更新していた。藤本にとってはいわばリベンジマッチだが、相雁木の将棋を優位に進めるも終盤で一失があり逆転負けを喫する。
チームにとっての苦しい出だしを救ったのが稲葉だ。渡辺と戦った第3局では角交換型振り飛車を採用し、中盤では苦しくなるも最終盤でひっくり返すという、第1局の中村のお株を奪うような逆転劇を見せる。いずれもリーダーの底力を示した一局だった。続く第4局では上野が佐々木を破って勝利し、2勝2敗のタイに持ち込む。
しかし第5局では中村が藤本を、第6局では渡辺が上野を破って、チーム中村が勝ち抜けまであと1勝とした。第6局の結果で、チーム中村はメンバー全員が勝利したのもチームにとっての追い風となっただろう。残る3局を1人ずつが指すという状況で、チーム全員に勝ち経験があるということの影響は小さくないと思う。
対してチーム稲葉はリーダーが2局を残している。そうなると第7局で稲葉が出場するのは必然といっていいだろう。佐々木との一戦で三間飛車を採用し、相穴熊の戦いを制する。控室に戻ってくると、次戦を中村と戦う藤本に「悔しさは盤上で晴らすしかないから」とエールを送る。そのエールを受けた藤本が第5局のリベンジを決め、ついにフルセットに持ち込んだ。

9局目 稲葉陽八段─渡辺和史七段

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第9局は稲葉―渡辺戦。今度は渡辺が第3局のリベンジを果たせるかどうかという構図である。この日3度目の後手番である稲葉は四間飛車に振った。

【第2図は▲3四竜まで】

第2図はその終盤で、ここから△6七金▲同金△5七金▲7八金打の手順が繰り返され、千日手が成立した。千日手成立局面は179手目で、さらに先後を入れ替えての指し直しとなる。

9局目(指し直し局) 稲葉陽八段─渡辺和史七段

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先手番の指し直し局で、稲葉は向かい飛車から相穴熊に潜った。対する渡辺は銀冠から1、2筋の位を取る。中盤はハッキリ後手よしとなるも、稲葉が踏ん張って混戦に。

【第3図は▲4四銀まで】

そして迎えた最終盤が第3図だ。渡辺は△4四同金▲同歩と駒を入手してから△3九飛成▲同銀△同竜と踏み込む。5五の角がいるため先手玉に詰みはないが、次に△3八金が回れば受けなしだ。
しかしここでの手番は稲葉にある。▲3一角と打ち、△2三玉に▲2一飛△2二桂▲4三歩成の局面は先手勝勢だ。△4三同金は▲2二角成から即詰みとなる。第3図から△4四同金と取ったことで、▲4三歩成が生じるようになったのは皮肉だ。
第3図では△3七桂が有力だった。▲同銀は△3九飛成で、この時の自玉が詰まず後手勝ち。桂打ちには▲3三銀成△同金としてから▲3八銀あるいは▲4七角で頑張ることになりそうだが、いずれも△2九桂成として後手に分がありそうだ。

チーム稲葉が総力戦を制して準決勝進出を決めた。次回は8月31日に放映される本戦準決勝第一試合、チーム藤井対チーム永瀬の対戦もどうぞお楽しみに。

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【総合成績】
(第1局はチーム中村が先手番。以下は交互。第9局は指し直し局がチーム稲葉の先手)
第1局上野●-○中村
第2局藤本●-○佐々木
第3局稲葉○-●渡辺
第4局上野○-●佐々木
第5局藤本●-○中村
第6局上野●―○渡辺
第7局稲葉○―●佐々木
第8局藤本○―●中村
第9局稲葉○―●渡辺(千日手指し直し)

総合5勝―4勝

【個人成績】
稲葉八段3-0
藤本五段1-2
上野四段1-2
中村八段2-1
佐々木七段1-2
渡辺七段1-2

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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