ライター相崎修司
チーム藤井VSチーム渡辺 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント第一試合振り返り~
ライター: 相崎修司 更新: 2024年08月07日
ABEMAトーナメント2024、8月3日(土)に放映されたのは本戦トーナメント第一試合、チーム藤井「パイナップル」(藤井聡太竜王・名人、羽生善治九段、青嶋未来六段)対チーム渡辺「ジグザグ打線」(渡辺明九段、山崎隆之八段、岡部怜央四段)の対戦だ。予選Cリーグを1位通過したチーム藤井と、予選Aリーグを1位通過したチーム渡辺の戦いは意外なワンサイドとなった。
振り駒の結果、第1局はチーム藤井の先手番に。対戦カードは▲青嶋―△渡辺戦となった。チーム藤井は予選の2戦ともに青嶋を第1局に出場させているので、本戦でもそれを踏襲した。対して今回のチーム渡辺が初戦にリーダーを出場させるのはこれが初である。
戦型は青嶋の向かい飛車から相穴熊の対抗形に。混戦から迎えた最終盤で一瞬、渡辺にチャンスがあったが、これを逃して青嶋が勝利。結果的にはこの一局がトータルの流れを決めたか。
2局目 藤井聡太竜王・名人─岡部怜央四段
第2試合は▲岡部―△藤井戦。チーム渡辺は予選でいずれも第2局に岡部を投入していたが、チーム藤井が第2局でリーダーを登場させるのはこれが初めて。前局と逆の形になった。相掛かりから岡部が珍しい形での仕掛けを見せる。それが奏功したように思われたが、中盤で強攻ともいえる踏み込みを見送ったことで、逆に藤井がペースを握った。
【第1図は▲1三香成まで】
第1図は次に▲2二成香を許すと大変だ。しかし狙われそうな角をさばく△8七角成は▲同金△同飛成に▲8八香がある。ここで何と藤井は△8七桂と打った。大駒が成れなくなるので重そうに見えるが、▲7八銀に△9九桂成と香を取る。金取りを受ける▲8七歩には△2四香と、取ったばかりの香を使って飛車を押さえ込んだ。▲4五飛に△7九角が先手の金銀の逆形をついた厳しい一着である。ここまで来ると△8七桂が好手だったことがわかるが、超早指しの対局で考えつくものがどれほどいるのだろうか。解説の藤森哲也五段も「△8七桂なんてよく思いつきますね」と脱帽していた。
3局目 羽生善治九段─山崎隆之八段
第3試合は▲羽生―△山崎戦。角交換型の力戦相居飛車となった。序盤早々に2二銀・3三金型というセオリーに反する形に組むのが山崎流である。前局の岡部が金銀逆形をとがめられる形で敗れたが、そのようなことには頓着しない。実際、中盤の入り口では互角としかいえない評価値をAIも示していた。
【第2図は▲5五同飛まで】
しかし、第2図から時間を使わずに△3五歩と仕掛けたことには「もうちょっと考えてよ」とリーダーの渡辺も頭を抱えた。▲同歩に△3六歩と打つのが狙いだが、本局の場合はそこで▲1八角の切り返しがある。△3七歩成には▲6三角成△同金▲7二銀で決まる。▲3五同歩の局面で山崎の手が止まり「これは見落としだ」と、チームメイトも苦笑するしかない。実戦は△2七角をひねり出したが、▲7五歩△同歩▲4五歩△5四歩▲7四歩△同銀▲5四飛の進行は先手好調である。玉の堅さが全く違う。
メンバーそれぞれが勝利しての3連勝という最高のスタートを切ったチーム藤井。ここからも流れは止まらない。第4局では青嶋が山崎を快勝で下し、準決勝進出へ王手を掛けた。
5局目 藤井聡太竜王・名人─渡辺明九段
第5局はリーダー対決。リーダー自らの奮起から奇跡の大逆転へとつなげたいが、この日のチーム藤井にはそれを全く許さない盤石さがあった。
【第3図は△4九角まで】
第3図は第5局の終盤で、ここから▲2四桂△4三玉▲4八金打△3八角成▲同金△4一金▲6一飛と進み、先手勝勢が明らかとなる。▲2四桂△4三玉を入れてからの▲4八金打が肝要で、第3図から単に▲4八金打は△7六桂▲5九玉△5八銀▲同金△3八角成で逆転する。ここで▲2四桂と打っても△4二玉で届かない。なお第3図からの▲2四桂に△4二玉は▲3一飛で先手勝ち。
チーム藤井が5連勝と圧倒し、準決勝進出を決めた。次回は8月10日に放映される本戦第二試合、チーム永瀬対チームエントリーの対戦もどうぞお楽しみに。
【総合成績】
第1局 青嶋○-●渡辺(第1局はチーム藤井が先手番。以下は交互)
第2局 藤井○-●岡部
第3局 羽生○-●山崎
第4局 青嶋○-●山崎
第5局 藤井○-●渡辺
総合5勝―0勝
【個人成績】
藤井竜王・名人2-0
羽生九段1-0
青嶋六段2-0
渡辺九段0-2
山崎八段0-2
岡部四段0-1