ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2024年06月03日
藤井聡太名人に豊島将之九段が挑戦した第82期名人戦七番勝負。藤井は初防衛を、豊島は第77期以来の復位を目指すシリーズだ。
第1局は東京都文京区「ホテル椿山荘東京」にて。後手の豊島が趣向を凝らし、少し変則的な横歩取りからねじり合いとなる。豊島がリードを奪い、着実に差を広げていったが......。
【第1図は▲4六玉まで】
ここでは△4八竜としておけば先手玉は受けが難しく、際どいところはあるが後手の勝ち筋だった。実戦は△4四香と上から攻めたため、▲5七玉と引かれて混戦に。以下△4五香▲8八歩△7九竜に▲3七桂の活用が絶好で、先手が逆転に成功。一瞬のチャンスをとらえて藤井が開幕戦を制した。
写真:文
第2局は千葉県成田市「成田山 新勝寺」にて。相掛かりから先手の豊島はひねり飛車模様。しかし藤井が巧みな構想でペースをつかみ、はっきり作戦勝ちになる。だが、踏み込みのタイミングを誤り、大きな駒得ながらまとめにくい局面になり混戦となった。
【第2図は△7二銀打まで】
第2図は▲5二銀に△7二銀打と受けたところ。ここは▲6一銀成△同銀に▲5二金なら難解ながら先手の勝ち筋だった。また、▲6一銀成△同銀に▲5二銀と千日手含みに時間を稼ぐ手もあるが、豊島は相手から打開される可能性を気にしたようだ。実戦は▲3六金とかわしたが△5九角と追撃。以下▲2七玉に△2四桂と押さえられて受けが難しくなった。藤井が二転三転の将棋を制して2連勝。
写真:玉響
第3局は東京都大田区「羽田空港第1ターミナル」にて。空港での対局は新しい試みだ。豊島の雁木に藤井は棒銀。シンプルな攻めが決まり、藤井が大きくリードを奪う。
【第3図は△5四銀まで】
着実にポイントを重ねてきた先手だが、▲7三歩と垂らして決めにいく。△同桂で後手の駒も働いてくるが、▲7四歩△6五桂▲7三歩成△同銀▲6五銀で駒得に成功。以下は暴れる後手の面倒を見て、大差での終局となった。藤井が快勝で防衛まであと1勝とした。
写真:田名後健吾
第4局は大分県別府市「割烹旅館もみや」にて。先手の豊島が3手目に端歩を突き、先後を入れ替えた形の横歩取りとなった。豊島がペースをつかむが、形勢としては微差の戦いが続く。
【第4図は△6二銀まで】
▲5五飛が単純ながら厳しい飛車打ち。5三の突破は許せないので△4一桂と受けたが、▲2五飛△1九馬▲3八飛で先手の駒得が広がっていく。以下は物量差をキープして押し切った。豊島は対藤井の連敗を止める、シリーズ初白星。
写真:飛龍
第5局は北海道紋別市「ホテルオホーツクパレス」にて。序盤に端をめぐる駆け引きから豊島は意表の四間飛車を採用。藤井は歩損の代償に四枚穴熊に固める。堅さを武器に居飛車は飛車角交換の決戦に持ち込んでいった。
【第5図は△7四同歩まで】
難解な形勢が続いていたが、鉄壁の穴熊に囲われた居飛車の勝ちやすい展開だ。▲7五歩が後手陣の急所を突いた攻め。△同歩なら▲4六角が効果的になる。実戦は△8三金と埋めたがやはり▲4六角が厳しく、△9二玉に▲9四銀が鋭い寄せで先手が抜け出した。以下も攻め続けて先手が制勝。
写真:紋蛇
藤井は4勝1敗で名人初防衛を果たした。タイトルは通算22期目。豊島は工夫の作戦を多く繰り出したが、結果的には第1局の逆転負けが痛かった。
ライター渡部壮大