ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2023年08月16日
8月12日(土)に放映された本戦トーナメント二回戦第1試合のチーム羽生「不動心」(羽生善治九段、梶浦宏孝七段、伊藤匠六段)と、チーム天彦「天辺堂」(佐藤天彦九段、戸辺誠七段、三枚堂達也七段)の戦いを振り返る。ここからは二回戦で、予選リーグを1位で通過したチームが出てくる。
開幕から戸辺─伊藤戦、三枚堂─梶浦戦でチーム天彦が2連勝してリード。しかし、3戦目の羽生─佐藤戦のリーダー対決を羽生が制し1勝を返す。迎えた山場の第4局は互いにオーダーを崩さず、第1局と同じ顔合わせとなった。
戸辺の中飛車穴熊に伊藤は急戦。伊藤がペースをつかんだが、戸辺もしつこい攻めでチャンスを手繰り寄せて、終盤は二転三転の激戦となった。
【第1図は▲2九同金まで】
△3九金▲2八金打△2九金▲同金......を繰り返して迎えた局面。互いに時間も少なく、△3九金を選べば千日手で指し直しとなったことだろう。しかし、実戦は△3七銀不成と打開し、▲4六香△同馬▲3七歩で途端に攻めが細くなってしまった。以下は△4七金に▲4五歩が厳しく先手の勝ち筋に。局後に伊藤は打開を悔やんでいた。
第5局は佐藤が梶浦に勝ち、羽生チームは一気に追い込まれる。ここで再びリーダー羽生が登場。
かつてはチームメイトとしても戦ったことのある両者。相掛かりから激しい切り合いとなった。
【第2図は▲2一角成まで】
ドカンと△4九飛成が強烈な踏み込み。三枚堂はこの手をうっかりしていたようだ。時間を使って▲6八玉としたがこれでは勝ち目がなく、△8五桂▲7九金△4八竜▲5八桂△4七とまで後手の勝ちとなった。△4九飛成に対しては▲同玉と取るよりなく、△4七とに▲6八飛と受ければ簡単ではなかったようだ。同じ負けるにしてもこちらを選びそうなところだが、それを選ばせないのが羽生の存在感だろう。
チーム羽生はここで順番を入れ替え、梶浦を投入。星取りは苦しいが、全勝の羽生がまだ残っているためここをしのげば勝負は分からなくなる。
戸辺の角交換振り飛車穴熊にうまく仕掛けた梶浦が大優勢を築きあげるが、寄せをもたついて徐々に形勢は怪しくなる。
【第3図は▲3二とまで】
後手の穴熊は薄いが、この瞬間は手付かずで遠い。じっと△5五歩が力のこもった好手だった。▲5二金には△3一角があるので▲7七銀と壁を解消したが、△5六歩▲同歩△5七歩▲同金直に△3九角で攻めになっている。以下▲5八金引に△5七歩▲5九金△2六角が絶好。まさかの5二香、5三角まで攻めに働いてきて、振り飛車の指がしなる気持ちの良い展開だ。以下も怒涛の寄せで戸辺が鮮やかな逆転勝ちを収めた。
チーム天彦が5勝2敗で準決勝進出を決めた。戸辺が粘り強い振り飛車で3連勝と引っ張ったのが大きかっただろう。チーム羽生は残念ながらここで敗退。だが、羽生個人は予選から6連勝と無敗で終え、このルールでもレジェンド健在を見せつけた。
【総合成績】
第1局 戸辺○─●伊藤
第2局 三枚堂○─●梶浦
第3局 佐藤●─○羽生
第4局 戸辺○─●伊藤
第5局 佐藤○─●梶浦
第6局 三枚堂●─○羽生
第7局 戸辺○─●梶浦
【個人成績】
佐藤九段 1─1
戸辺七段 3─0
三枚堂七段1─1
羽生九段 2─0
梶浦七段 0─3
伊藤六段 0─2
ライター渡部壮大