チーム天彦VSチーム菅井 ABEMAトーナメント2023~予選Cリーグ第二試合振り返り~

チーム天彦VSチーム菅井 ABEMAトーナメント2023~予選Cリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年06月07日

6月3日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023予選Cリーグ第二試合を振り返る。チーム天彦「天辺堂」(佐藤天彦九段、三枚堂達也七段、戸辺誠七段)とチーム菅井「関西最強」(菅井竜也八段、船江恒平六段、西川和宏六段)の対戦だ。チーム菅井は第一試合を5勝4敗で制している。チーム天彦は今回が初登場だ。

第1局 西川和宏六段─三枚堂達也七段

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 振り駒の結果、チーム菅井の先手番となり、西川-三枚堂戦が組まれる。ABEMAトーナメント初参戦の西川は今大会の持ち時間のルールに適応するため、練習量を多くして臨んだそうだ。得意の三間飛車に構えると、穴熊を相手に華麗にさばいて実力を発揮。だが、終盤に落とし穴があり、フィッシャーの洗礼を受けることになる。

【第1図は▲3二銀不成まで】

 西川は3二の金をつまんで銀をそろりと引いた。▲3二銀不成。成らなくても同じなようだが、この隙を三枚堂は見逃さなかった。△2七香成が鋭手。▲2七同銀△4九飛成と迫る。このとき後手玉は▲2二角成△同金▲2一銀成△同金ではっきり詰まない。よって西川は自陣を見続けることになった。戻って▲3二銀成なら勝負はわからなかった。▲2二成銀△同金▲同角成として脅かす順が残っていたからである。この差は実戦的に大きかった。西川は時間を惜しんで不成としたようで、終局後は悔やんだ様子だった。普段であれば銀を成っていただろう。三枚堂が切れ味を見せて逆転勝ちを収めた。

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第2局 佐藤天彦九段─船江恒平六段

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 第2局は佐藤と船江が対戦。両者は奨励会の同期とのことだ。船江が工夫の出だしで自らの土俵に持ち込むが、佐藤も適応力の高さを見せて互角に渡り合う。揉み合いの末に佐藤がリードを奪うも船江の粘り方も巧みで、激戦が繰り広げられた。

【第2図は▲3五角まで】

 4六にいた角で▲3五角と桂をむしり取った場面。ここまで目まぐるしい攻防が繰り広げられていたため、船江は平常心でなかったと思われる。ここで△3八飛がまさかの失着であった。なんと王手放置による反則負けである。佐藤が1三の玉を指差し、船江は「あっごめんなさい」とのけぞった。控室は悲喜こもごも(特に菅井のリアクションは一見の価値あり)。まさかの結末ではあったが、ここに至るまで非常に見応えのある戦いだった。チーム天彦が連勝スタート。

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 余談だが、その直後のチーム菅井のふたり、船江をイジって笑いにしていたのが、チーム戦ならではのいい情景であった。「将棋ってさ、一応王手には受けないとダメですよ」とリーダー。仲の良いわちゃわちゃ姿を見られるのもABEMAトーナメントのよさである。ただ、成り忘れに王手放置と、連続して悔いの残る敗戦になったのは痛かったか。

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 第3局は戸辺と西川がぶつかる。相振り飛車の将棋になり、戸辺がやや無理気味に攻める展開。それは俗に「戸辺攻め」と言われている。西川も持ち味を出して応戦。最終盤で戸辺玉に詰みがあったのだが、時間の少ない西川は逃してしまう。戸辺が薄氷の勝利をつかんだ。

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 第4局。チーム菅井は満を持して菅井が登場。チーム天彦は三枚堂をぶつける。スコアはチーム天彦の3連勝だが、その差は紙一重である。チーム菅井はここで流れを取り戻したかったが、三枚堂が相穴熊戦を見事制した。リーダーを擁しても悪い流れは止められず。チーム菅井は窮地に追い込まれる。

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 第5局。ここで男を見せたのが西川だった。カド番なので菅井の連投を予想した方も多かったはず。しかし西川は第一試合でも2連敗後に1勝をもぎ取っていた。その馬力を見込んだのだろう。チーム天彦は再び戸辺を送り込んだ。相振り飛車からやはり「戸辺攻め」でかき乱しにいくが、西川は飲まれず、むしろ積極的に戦った。最後は流れるような反撃を決めて勝利。西川が土俵際でバトンをつなぐ。

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第6局 佐藤天彦九段─菅井竜也八段

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 第6局。西川の熱い思いに応えるべく、チーム菅井は菅井が登場。チーム天彦も佐藤が出て、勢いを止めにかかった。

【第3図は△7一金打まで】

 リーダー対決は期待に違わぬ相穴熊の大熱戦になった。形勢は先手よし。△7一金打に対し、佐藤はさほど時間を使わず▲6三竜と切り飛ばす。△6三同金に▲7二歩△同金▲6一銀がうまい食いつきだった。△8八銀成~△7七銀を間に合わせないよう、しがみつくのがコツ。と、さらっと書いたが、6三銀を取るという着眼点が凄いのである。形の急所を捉える能力があまりにも高すぎる。こういう場面で居飛車側が慌てて悪手を指し、菅井がねじ伏せているのを何度も見てきたが、佐藤は崩れなかった。

 その後も菅井の強靭な粘りで手数はかかったものの、佐藤が押し切った。スコアを5勝1敗とし、本戦出場に前進。チーム菅井は1勝1敗に。第三試合の結果によって各チームの運命が決まる。次回も要注目だ。

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【総合成績】
第1局 三枚堂○-●西川(第1局はチーム菅井が先手番。以下は交互)
第2局 佐藤○-●船江
第3局 戸辺○-●西川
第4局 三枚堂○-●菅井
第5局 戸辺●-○西川
第6局 佐藤○-●菅井
総合5勝-1勝

【個人成績】
佐藤九段 2-1
三枚堂七段2-0
戸辺七段 1-1
菅井八段 0-2
船江六段 0-1
西川六段 1-2

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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