チーム羽生VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2023~予選Bリーグ第二試合振り返り~

チーム羽生VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2023~予選Bリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年05月16日

 5月13日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023予選Bリーグ第二試合を振り返る。開幕から1ヵ月が経過し、毎週土曜日が待ち遠しくなっているのは筆者だけでないはず。この日の対戦カードはチーム羽生「不動心」(羽生善治九段、伊藤匠六段、梶浦宏孝七段)とチーム斎藤「飛慎隊」(斎藤慎太郎八段、黒田尭之五段、冨田誠也四段)。チーム羽生は第一試合でチーム山崎を5勝0敗で破った。チーム斎藤は初出陣。

第9局 羽生善治九段─冨田誠也四段

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 振り駒の結果、チーム斎藤の先手番でスタート。チーム羽生が先に4勝目を挙げたが、チーム斎藤も踏ん張り、勝敗はフルセットに。羽生と冨田が大勝負の舞台に上がった。

【第1図は△3五歩まで】

 序盤でペースを握ったのは冨田。羽生の居飛車穴熊が完成する前に3筋から動く。▲3五同歩△4四角が覚えておきたい手順だ。以下▲8八銀△3五飛▲3七歩△3三桂とし、飛車交換が望める格好に。先手の穴熊は6九金が浮いていて不安定だし、後手陣は飛車に強い。羽生も局後の感想で「作戦負けだった」と振り返る。

【第2図は△7四金まで】

 しかしそこは百戦錬磨の羽生。玉頭方面で戦いを起こし、局面を複雑化させる。▲7六金△9六歩▲8五金△同金▲6四角△7三歩▲7四歩△6三金▲7三角成が気迫十分の猛攻だ。穴熊らしい指し回しが非常に参考になる。作戦負けを腕力で跳ね返し、冨田の美濃囲いを切り裂いた。

【第3図は▲7三桂成まで】

 羽生の穴熊は冬眠なんて生優しいものではなく、空腹時のヒグマのそれであった。ボコボコに攻め立てられた冨田の玉は中段に放り出され、粘りの利かない格好に。玉形差でかなり勝ちづらく、4四角と3五飛が残ってしまっているのが切ない。さらに相手は羽生。普通は心が折れる。
しかし冨田のガッツは並ではなかった。△9七歩成▲同桂△同香成▲同香△9八歩▲同玉△7六角が嫌みな角打ち。羽生は残り10秒を切っていた。秒に追われて▲7七金と埋めたが、構わず△8六桂▲同金△同金と踏み込まれ、流れは逆転ムード。そして羽生の玉も追われるがまま中段へ。

【第4図は▲5五玉まで】

 誰がこうなることを予想しただろうか。羽生の玉が四方八方からにらまれており、絶体絶命の状況に追い込まれている。しかしギリギリ助かっていたのは天命か、それとも神技の計算か。△5四飛▲6五玉に△6四歩は打ち歩詰めの禁じ手なのである。また、△3五飛▲6四玉△3四飛▲5五玉は連続王手の千日手による禁じ手だ。作ったような局面がそこにあった。放送の解説者である石田直裕五段も「なんでこの時間で読めるんですか」と困惑、感嘆。
実戦は△3五飛▲6四玉△6六馬としたが、▲2一角△3四玉▲7四成桂△5六馬▲7三玉として救出成功。穴から目覚めて危険地帯を駆け回り、いつしか天空の地へ。バーサーカーであった。

【第5図は△8八飛成まで】

 冨田も根性で入玉を果たした。相手玉が捕まらなくなったからといって簡単に諦めてはこの場に立てない。△8八飛成と銀を取ったとき、冨田の手が泳いでいるように見えた。筆者の推測だが、▲6九角で危ないと察知したのかもしれない。実際は▲6九角に合駒をすれば際どくしのいでいる。▲4八歩は前述同様の禁じ手なのだ。まさか1局に2回も双方で打ち歩詰めの筋が現れるとは驚愕である。相入玉でさえ珍しいのだが。
実戦は▲5六角の王手金取りを放ち、駒を取る方向にシフト。駒数による点数勝ちを目指す。しかし△5八玉▲7四角△9七竜▲9三歩△8四金▲5六角△5四香で冨田も大駒を捕獲し、勝敗の趨勢はわからなくなった。やがて整理されていく盤面。互いに駒を逃がし合って、あの3文字が見えてきた。

【第6図は△8六歩まで】

 こちらが終局の局面である。フルセットの大一番は持将棋となった。今大会でも屈指の大激闘だったといっても過言ではない。盤上の隅々まで物語が紡がれていた。

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羽生の闘志あふれる姿には思わず感動を覚えた。時間に追われ、駒が乱れ、いつもの優雅な様子でなく必死そのものであった。それを引き出した冨田も称賛されるべきだろう。誰よりも高い熱量は次第に伝播されていき、多くの視聴者を寝不足に追い込んだ。今回はこの1局のみ取り上げたが、ほかの将棋も見どころ満載であったのでご了承いただきたい。

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指し直し局の模様は『将棋連盟ライブ中継アプリ』にて配信されている。羽生の冷静な指し回しが光った会心譜だ。ぜひお楽しみいただければ幸いである。
この結果、チーム羽生が2連勝で本戦進出を決めた。

将棋連盟ライブ中継アプリ

【総合成績】
第1局 伊藤○-●冨田
(第1局はチーム斎藤が先手番。8局目まで交互、9局目は振り駒の結果、チーム羽生の先手番)
第2局 梶浦●-○黒田
第3局 羽生○-●黒田
第4局 伊藤○-●斎藤
第5局 梶浦●-○冨田
第6局 羽生○-●斎藤
第7局 伊藤●-○黒田
第8局 梶浦●-○斎藤
第9局 羽生 持将棋 冨田
    羽生○-●冨田

【個人成績】
羽生九段 3-0
伊藤六段 2-1
梶浦七段 0-3
斎藤八段 1-2
黒田五段 2-1
冨田四段 1-2

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ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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