ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2023年05月31日
手に汗握る相穴熊の熱戦が見られた叡王戦五番勝負は苦しみながらも藤井叡王が3勝1敗で防衛を果たしました。そして名人戦でも3勝1敗とし、七冠に王手を掛けています。
【第1図は△5三角まで】
第1図は第81期名人戦七番勝負第4局(▲藤井聡太竜王△渡辺明名人)。本局は雁木から早い戦いになりました。後手が攻め掛かっていますが、ここをしのげば先手に楽しみの多い局面です。▲8三歩が当然ながら「大駒は近付けて受けよ」で、△同飛▲8四歩と手番を握って飛車の直射を消すことができました。以下△8七歩▲同玉△8六歩▲7八玉△8二飛に▲9五歩と香を拾う手が間に合って先手に形勢が傾きました。以下は短手数の快勝で、藤井竜王が3勝1敗と名人奪取にあと1勝としています。
写真:銀杏
【第2図は△5六角まで】
第2図は第8期叡王戦五番勝負第4局(▲藤井聡太叡王△菅井竜也八段)。千日手指し直し局は相穴熊の熱戦になりました。金取りですが、「終盤は駒の損得より速度」で▲4一飛と打ちました。対する後手も6五の金を取らずに△6七銀と迫っていきます。以下も難しい応酬が続きましたが、結果は再度の千日手に。2度目の指し直しも相穴熊となりましたが、そちらは藤井叡王が快勝して防衛を果たしています。
写真:金子光徳
【第3図は▲6八銀まで】
第3図は第16期マイナビ女子オープン五番勝負第3局(▲甲斐智美女流五段△西山朋佳女王)。形勢の揺れ動く熱戦となりましたが、ここは先手が優勢になっています。単純な攻め合いでは勝てない後手は△8四玉▲6二成桂△5七歩▲6三成桂△9五玉と「中段玉寄せにくし」と局面を複雑にさせようとします。実際は△9五玉のところで詰みがあったようですが、一分将棋の中ではチャンスをつかみきれず、最後は後手が再逆転で制しました。西山女王は3連勝で6連覇を達成。引退を表明している甲斐女流五段は最後のマイナビ女子オープンを終えました。
写真:常盤秀樹
【第4図は▲9七玉まで】
第4図は第34期女流王位戦五番勝負第3局(▲伊藤沙恵女流四段△里見香奈女流王位)。第2局を里見女流王位が勝ち、1勝1敗で迎えた第3局。振り飛車が攻めをつなぎ、寄せの段階に入っています。△9五歩が「端玉には端歩」の間違いのない寄せで、先手玉は一手一手になりました。
写真:虹
【第5図は△5二玉まで】
第5図は伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦挑戦者決定戦(▲佐々木大地七段△羽生善治九段)。苦しい将棋を後手が追い込みましたが、先手がなんとか逃げ切りました。「玉は包むように寄せよ」で▲3二馬と縛り、後手は受けの難しい形で投了となりました。佐々木七段は棋聖戦に続く挑戦で、ダブルタイトル戦に臨みます。
写真:牛蒡
【第6図は△7三桂まで】
第6図は大成建設杯第5期清麗戦挑戦者決定戦(▲西山朋佳女流三冠△加藤桃子女流三段)。直前に▲1八香と上がった流れで▲1九玉も自然な手ですが、実戦は▲7五歩と積極的に動きました。以下△6五桂▲6八角△7二飛▲7四歩△同飛▲9五角と進み、形勢は難しいながら局面を動かすことには成功しています。「端歩は居飛車の税金」と言いますが、△9四歩を突いていないと▲9五角ののぞきがうるさい攻めになることがあります。結果は西山女流三冠が快勝となり、本棋戦では初めて五番勝負登場を決めました。
写真:文
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段