クイーンの貫禄か2人目のクイーン誕生か ー第12期女流王座戦五番勝負展望ー

クイーンの貫禄か2人目のクイーン誕生か ー第12期女流王座戦五番勝負展望ー

ライター: 生姜  更新: 2022年10月24日

 いよいよ第12期女流王座戦五番勝負が始まる。里見香奈女流王座に挑戦するのは加藤桃子女流三段だ。本戦トーナメントから小高佐季子女流初段、中澤沙耶女流二段、上田初美女流四段、西山朋佳白玲・女王を破って挑戦権を獲得した。

5年前のリベンジ

12jo_ouza_outlook_02.jpg

 本棋戦の五番勝負では2017年度の第7期以来の対戦だ。当時の女流王座だった加藤が開幕から2連勝したが、そこから3連敗で5連覇ならず。初のクイーン王座を目前にしていたが、里見が先にその栄光を掴んだ。

 里見が防衛を重ねる間、加藤は本戦トーナメントで敗退が続き、挑戦者になれなかった。歯がゆい思いをしたことだろう。今期ついにリベンジの機会が巡ってきた。5年前の借りを返し、史上2人目のクイーン王座を狙う。

【第1図は△8二角まで】

 今期は挑戦者決定戦で西山を相手に圧倒したのが記憶に新しい。投了図は先手に迫る手がなく完封状態。剛腕の西山に力を出させなかった。

絶対王者の強さ

12jo_ouza_outlook_01.jpg

 里見の活躍については説明不要だろう。今月に初の女性棋士を目指した棋士編入試験を終えたばかり。その第3局の4日後に行われた女流王将戦三番勝負第2局ではカド番をしのぎ、精神力の強さを見せつけた。絶対王者はそう簡単に崩れない。今回はよく顔を合わせる西山と違い、居飛車党を相手にする。相振り飛車の研究データファイルをひとまず閉じ、久しぶりに居飛車への対策を講じることになる。

 不安要素といえば対局過多によるハードスケジュールなことだが、もう何年もその心配がされるほど活躍し続けている。結果を残すことはもちろん、ファンの心に響く内容の将棋を残しており、まさしく女流棋界のトップにふさわしい存在だ。注目を集めた前述の棋士編入試験では多くの感動を呼んだ。

対戦成績

 両者の対戦成績は里見32勝、加藤10勝。

2021年からは里見12勝、加藤4勝。里見が現在6連勝中だ。興味深いデータをひとつ。2021年からは後手側の勝率が12勝4敗と高い。大きな要因としては里見のゴキゲン中飛車が非常に強いのだ。だが、里見の先手中飛車に対しては加藤も善戦している。この関係性にも注目したい。

戦型予想

 戦型は対抗形が本命。里見がどの筋に飛車を振るか、それに対する加藤の対策は何か。加藤の序盤戦術には定評があり、芯の入った古風な定跡を軸に、最新の流行形の要素を取り入れる柔軟さも持ち合わせている。勝負どころで意欲的な作戦が見られるかもしれない。

 直近の対局は里見のゴキゲン中飛車に、加藤が超速の出だしから穴熊で対抗。加藤が序盤でリードを奪ったが、終盤で里見が力を見せ逆転勝ちを収めている。加藤は元々急戦を得意とするタイプだったからか、穴熊の距離感を少し苦手にしているのかもしれない。最近の別の対局でも相穴熊の将棋で敗れていた。よって銀冠や美濃囲い、舟囲いで戦うのではと予想する。

 この五番勝負では里見が依然として手厚いが、加藤の充実も著しく激戦必至だろう。特に挑戦者決定戦で見せた将棋は的確な判断が随所に見られた。この実力を出しきれば下馬評を覆せそうだ。

 第1局は10月26日(水)に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕する。熱戦を期待したい。

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています