チーム糸谷VSチーム斎藤 第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント2回戦 第三試合振り返り~

チーム糸谷VSチーム斎藤 第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント2回戦 第三試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2022年09月01日

 8月27日(土)に放映された第5回ABEMAトーナメント本戦トーナメント2回戦第三試合、チーム糸谷「乾坤一擲」(糸谷哲郎八段・黒沢怜生六段・西田拓也五段)とチーム斎藤「シン エンジェル」(斎藤慎太郎八段・木村一基九段・佐々木勇気七段)の戦いを振り返る。

 毎週のように熱戦また熱戦が続くABEMAトーナメントだが、今回は特にドラマが相次いだ。第1局は振り駒の結果、チーム斎藤の先手で、▲木村―△黒沢という組み合わせになる。終盤に入り、木村が押し気味に進めていたが、なんと痛恨の二歩。聞き手の千葉涼子女流四段も思わず悲鳴を上げた。打った瞬間に木村は両手で自らの頭をたたき、うなだれる。黒沢はしばし憮然としていた。

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続く第2局は糸谷が斎藤を破ってリーダー対決を制し、第3局は西田が佐々木に勝利した。

【第5局▲西田拓也五段-△斎藤慎太郎八段】

【第1図は△4二玉まで】

 第4局では木村が糸谷に一矢を報いたが、続く第5局は斎藤が得意の終盤で、即詰みを逃して西田に敗れてしまう。第1図から▲3一角と打てば詰んでいたが、▲3二金だったため△5一玉▲5二歩△6一玉で詰まず、以下▲2八飛△8六桂▲8三角△7一玉▲7三銀不成△8九金まで、西田の勝ちとなった。第1図から▲3一角以下の詰み手順は△3一同飛に▲5二金△4三玉▲5三金△4四玉▲2六角まで。作戦部屋に戻ってきた斎藤は「▲2六角かあ」と天を仰いだ。

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 厳密な意味での敗着は次の▲5二歩で、すぐ▲2八飛なら先手に分があったようだ。例えば▲2八飛に実戦同様△8六桂だと、▲4二角△6一玉▲5二桂成△同玉▲5三角成△6一玉▲6二歩△7一玉▲8一歩成△同玉▲5四馬△9一玉▲7五銀で先手勝ち筋となる。最後の▲7五銀が開き王手で、後手がどう応じても▲8六銀と要の桂を抜いてしまえばよい。ただ、超早指しの最終盤でこんなトリッキーな順を実現させるのは、前述の即詰みを発見する以上に大変だ。

【第6局▲黒沢怜生六段-△木村一基九段】

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 いよいよ土俵際に追い込まれたチーム斎藤、第6局は木村―黒沢で、先後は逆だが、波乱の第1局と同一カードである。

【第2図は△4五金まで】

こちらも最終盤でドラマがあった。黒沢が勝勢の局面を築いたが、木村が必死にこらえ続けるという展開が続いて迎えたのが第2図。ここで▲8二角成と飛車を取ったのが波乱への第一歩か。代えて▲4六角成ならば△同金には▲1七桂以下の即詰みがあった。実戦は▲8二角成に△6四香と木村は馬筋を止めて頑張る。次の▲5四角が痛恨で、△3七歩と打たれて逆転してしまった。△3八歩成には▲1七玉と逃げれば詰まないので、たたきを放置して▲4五角と取りたいが、△3七歩に▲4五角△3八歩成▲1七玉△2九飛成の局面は後手玉が詰まないため先手負けなのだ。戻って△6四香には▲2二桂成として▲3四角を狙えば先手勝ち筋だった。「修羅場をくぐったので、メンタルは強くなった」とは局後に木村が発した言葉である。

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 ベテランの執念が流れを引き戻したか、第7局では佐々木が第3局のリベンジを果たし、第8局では斎藤はこの日待望の初白星を上げて、フルセットへ持ち込んだ。

【第9局▲糸谷哲郎八段-△佐々木勇気七段】

【第3図は△6八飛成まで】

 最終戦は振り駒の結果、▲佐々木―△糸谷に。力戦の勝負から徐々に佐々木がペースをつかんでいく。第3図は最終盤、先手玉には詰めろが掛かっているが、▲6三香成と上部を広げれば捕まらない形だ。以下△5一玉▲6二成桂△同金▲同角成(代えて▲5二銀ならそれまで)△4一玉▲5二成香△3二玉▲4二成香△同玉▲5三角と進めて、佐々木が押し切った。チームを準決勝に導く大きな勝利を上げた佐々木は「死にかけてきた、というところからギリギリの勝負だった」と語った。

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 大逆転劇を演じたチーム斎藤が準決勝進出。予選リーグではチーム糸谷に3連勝からの5連敗を喫していたので、その借りを返す形にもなった。準決勝ではチーム渡辺とチーム天彦の勝者と戦う。

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以下は二回戦第三試合の最終結果。
第1局 木村●―○黒沢
第2局 斎藤●―○糸谷
第3局 佐々木●―○西田
第4局 木村○―●糸谷
第5局 斎藤●―○西田
第6局 木村○―●黒沢
第7局 佐々木○―●西田
第8局 斎藤○―●黒沢
第9局 佐々木○―●糸谷
総合 5勝―4勝

【個人成績】
斎藤八段 1-2
木村九段 2-1
佐々木七段 2-1
糸谷八段 1-2
黒沢六段 1-2
西田五段 2-1

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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