チーム藤井VSチーム渡辺 第5回ABEMAトーナメント~予選Eリーグ第一試合振り返り~

チーム藤井VSチーム渡辺 第5回ABEMAトーナメント~予選Eリーグ第一試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2022年07月13日

 6月18日(土)19時に放映された第5回ABEMAトーナメント予選Eリーグ第1試合、チーム藤井「スリーカード」藤井聡太竜王、森内俊之九段、藤井猛九段、チーム渡辺「マンモス」(渡辺明名人、近藤誠也七段、渡辺和史五段)の戦いを振り返る。

【第1局▲渡辺明名人-△藤井聡太竜王】

5abema_0709_playback03.jpg

 第1局でいきなり竜王VS名人のカードが実現した。藤井聡は「予想外」と話し、それを聞きつけた渡辺明は後に「近藤七段を予想して、潰しにきていたんでしょう」と分析したている。

 戦型は矢倉から後手がバランス型に構える最新形になった。渡辺がうまく戦機をつかみ、竜を作って突破する。一見は先手よしながら、藤井の猛追もあって激戦になった。

【第1図は▲3七玉まで】

 第1図は▲3七玉と4八から逃げたところで、残り時間は▲渡辺20秒、△藤井8秒の叩き合いになっている。実戦は第1図から△6四玉▲7六金△3二飛▲3五歩△6三金(第2図)と受けるも、▲7三銀不成が決め手。△同金は▲6五歩△6三玉▲4一角△5二銀▲3二角成△同歩▲6二飛が厳しく、本譜の△7三同玉も▲9五角の王手竜取りから飛車を手に入れて7一に打てば、後手玉は粘りが利かない。

【第2図は△6三金まで】

 第2図では△2二飛で馬を狙うほうが難しかったようだが、実戦の△6四玉と入玉を見せて、△3二飛から△6三金(△6四玉でできたスペースを活用)と修復したのも手を尽くした粘りだ。藤井がミスをしたというよりも、作戦家の渡辺が藤井よりも時間を多く残し、勝負手に冷静に対処して押し切ったのが光る一局である。局後にチームメイトのところに戻った渡辺が「大誤算でしたね。まさか勝つプランじゃなかったので」「びっくりしたでしょ?」と声をかけると、近藤は「まあ、ちょっと......(笑)」、渡辺和が「いやいや、そんなことないです」と答えて笑いが起こった。

5abema_0709_playback01.jpg
第1局で渡辺明が藤井聡に勝ち、直後のオーダー会議は盛り上がった

 チーム渡辺は幸先のよいスタートを切ったものの、ここから3連敗と調子が上がらない。しかし、第5局で近藤が連敗を止めると、第6局で渡辺和が続いてタイに戻した。第6局を終えて全員が1勝1敗は珍しく、力が拮抗しているのがわかる。ABEMAトーナメントに初参加の藤井猛と渡辺和も白星を挙げたのは心強い。

【第8局▲森内俊之九段-△渡辺明名人】

5abema_0709_playback04.jpg

 第7局は近藤と藤井聡の対戦になり、藤井聡に誤算があって優勢になった近藤が一気に押し切った。これでチーム渡辺の4勝目となり、チーム藤井はあとがない状況。残り2局で森内、藤井猛をどう采配するかで、当初は藤井猛が志願していたようだが......。

藤井猛「(チーム渡辺は渡辺明と渡辺和が残っているが、第8局に出場するのは)私は名人だと読んでいるんですよ。(こちらは)先手番だし、相手が名人ということで、ここは森内さんです」
森内「そうですか。藤井さん、行くっていってませんでした?」
藤井猛「気が変わりました。ここは臨機応変にいかないと」

5abema_0709_playback02.jpg
第8局のオーダー会議で、藤井猛の「気が変わりました」に一同爆笑

 一同が爆笑しているうちにオーダー会議のタイムアップとなってしまった。筆者の推測だが、藤井猛は緻密に相手と自分のオーダー、先後を読んで変更を申し出たのだろう。第3局のオーダーで「振り飛車は後手のほうがいいので」と後手番を引き受けたことを考えると、先手番の利を生かすために森内にしたのは自然な選択だった。

 チーム渡辺は渡辺和が最終局でも構わないということで、渡辺明が第8局に登板する。
 森内は得意の矢倉を採用し、組みあがったところは第2局の▲森内-△近藤戦と同一局面になる。そこから森内がパスの手を変え、渡辺が飛車角を積極的に攻めに使って、戦いが始まった。ねじり合いから渡辺明が抜け出すも、森内が入玉模様で粘る。

【第3図は▲7四金まで】

 第3図は金を飛車取りに打ったところで、逃げれば▲7六玉から上部に脱出できる。渡辺明は持ち駒の歩を手に取って盤上に打とうとしたが、残り4秒で駒台に戻し、桂を素早く8四に置く。残り時間はわずか2秒になり、ギリギリの早業だった。△8四桂に▲同金△7五歩で、先手は上に抜けられない形になって一手一手の寄りになった。以下▲8八桂と粘るも、△同銀不成▲同玉△7六桂▲7八玉△8九角で先手投了。ギリギリの予定変更が功を奏し、名人が激戦に終止符を打った。

 渡辺明は次のように第1試合を総括している。 「(渡辺明自身は)今日は藤井聡竜王にも勝てましたし、森内九段にも勝って2勝できたので。それでチームもみんな1勝以上して勝ち上がることができたので、第1試合としては最高の滑り出しだと思います」

【総合成績】
第1局 藤井聡●-〇渡辺明
第2局  森内〇-●近藤誠
第3局 藤井猛〇-●渡辺和
第4局 藤井聡〇-●渡辺明
第5局 藤井猛●-〇近藤誠
第6局  森内●-〇渡辺和
第7局 藤井聡●-〇近藤誠
第8局  森内●-〇渡辺明
総合    3勝-5勝

【個人成績】
藤井聡竜王 1勝2敗
森内九段  1勝2敗
藤井猛九段 1勝1敗
渡辺明名人 2勝1敗
近藤七段  2勝1敗
渡辺和五段 1勝1敗

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています