ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2022年01月21日
里見香奈清麗に加藤桃子女流三段が挑戦した第3期大成建設杯清麗戦五番勝負。両者の対戦はこのところ里見が大きく連勝を重ねており、加藤が食らいついていけるか。
第1局は東京都港区「ホテルオークラ東京」にて。里見の先手中飛車に加藤は居飛車穴熊。中盤で飛車交換を挑み決戦になる。
【第1図は▲5六桂まで】
ここで角を逃げるようでは▲4四桂で先手の攻めが調子付くが、△1五香が端攻めを逆用した厳しい反撃。▲同香なら△1七銀や△1九銀で先手玉を寄せにいく含みがある。実戦は▲6九桂と辛抱したものの△1九香成▲同玉△5八銀と駒を削りながらの攻めが続き後手優勢となった。加藤が里見戦の連敗をストップする大きな白星でスタート。
写真:常盤秀樹
第2局は東京都千代田区「ホテルニューオータニ」にて。里見の中飛車に加藤は左美濃。居飛車が押している時間が長い将棋だったが、里見も頑強な粘りでなかなか決め手を与えない。
【第2図は△6五馬まで】
△6五馬は8三に利かしながら、場合によっては△7五桂の筋で先手玉を詰ます含みもある。実戦の▲7五銀△5七飛▲7四銀打がごつい決め手。馬の利きを止めれば後手玉は受けがない。以下△9七歩成▲同歩△7七飛成から詰ましにいったものの先手陣は2六の飛が利いているのが大きく、わずかに詰まない。加藤が2連勝で一気に追い込んだ。
写真:常盤秀樹
第3局は宮城県仙台市「仙台ロイヤルパークホテル」にて。里見の先手中飛車に加藤は左美濃。加藤が積極的に仕掛けていくが、里見も冷静に対応してペースを乱さない。
【第3図は△4四金まで】
攻め続けてきた後手だが、自陣に手が戻ったところ。▲4二歩△5一金▲6四角が急所をとらえた攻めになった。3一にいる玉がもろにとがめられてしまった格好だ。以下△2二玉▲5三角成△4三金と受けたが▲同馬△同銀▲5三とで先手の攻めが切れる心配はない。的確な反撃を見せた里見が1勝を返す。
写真:日本将棋連盟
第4局は関西将棋会館にて。里見のゴキゲン中飛車に加藤はミレニアムに構える。振り飛車は薄い陣形ながら里見がまとめ上げてリード。
【第4図は▲8六金まで】
指し方は色々あるところだが、△4一桂が負けない気持ちを見せた手。▲7五歩△同歩▲同金にも△7四歩▲7六金△3一歩とさらに投入する。長期戦となったが崩れない指し手を重ねた里見が押し切り、2勝2敗のタイに。
写真:日本将棋連盟
第5局は東京・将棋会館にて。先手の里見はやはり中飛車。加藤は左美濃に構える。里見が積極的に動いていったが、うまく切り返した加藤がリードに成功。
【第5図は▲3六同銀まで】
6八の金を取れる形だが、それは一瞬先手玉が安全になるため暴れてくるだろう。△1五歩が粘りを許さない攻め。3九の金を竜がにらんでいるため、端を触れば先手陣は受けが難しい。▲5五角に△同竜▲同歩△1六歩▲1八歩△1七歩成▲同歩△1八歩で筋に入っている。
写真:牛蒡
加藤が2連勝から2連敗と悪い流れだったが、最終局を制した。女流五冠になった里見も四冠に後退。加藤は奨励会員だった時代に8期タイトルを取っているが、2019年4月に女流棋士となってからは初めてである。二強の厚い壁を破り、悲願のタイトル奪取となった。
ライター渡部壮大