女流四冠同士の戦い 第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負展望

女流四冠同士の戦い 第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負展望

ライター: 相崎修司  更新: 2021年10月18日

女流四冠同士の戦い

 西山朋佳女流王将に里見香奈女流四冠が挑戦する第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負が始まっている。女流王将の他、白玲、女王、女流王座の四冠を併せ持つ西山と、清麗、女流名人、女流王位、倉敷藤花の四冠である里見との対戦はまさに女流棋界の頂上決戦だ。

 今期の女流王将戦を振り返ってみると、本戦トーナメントで里見は野原未蘭女流初段、上田初美女流四段、伊藤沙恵女流三段を連破して挑戦者決定戦へ進出した。逆の山では加藤桃子女流三段が千葉涼子女流四段、山根ことみ女流二段、香川愛生女流四段を破って勝ち上がっている。

【第1図は▲5三歩まで】

 里見―加藤戦となった挑戦者決定戦は加藤の先手番で、超速▲3七銀対後手ゴキゲン中飛車という戦型になった。第1図は終盤の入り口だが、ここからの△3二飛がハッとさせられる一着である。

 ▲3二同馬でタダのように見えるが、それには△5五馬の返し技が用意されている。銀を取り返した手が5四の桂馬取りになるだけではなく、先手玉には△8八飛以下の詰めろが掛かる。これは後手勝勢だ。

 加藤は▲1一馬と5五への利きを維持しつつ香を取ったが、今度は△5七歩が厳しいタタキとなった。先手はどう応じても味が悪い。例えば▲6八金寄は△5八銀とからまれるし、▲4八金は△6八歩(▲同金には△5九銀、▲同玉には△5八銀)がある。

 実戦の▲5七同金には△3八飛▲6八金打△3九馬▲6六銀△6五歩が厳しく、後手勝ち筋となった。手順中の▲6六銀では▲5八香のほうが堅そうだが、△4八銀があるので状況はあまり変わらない。以下は里見が的確に勝ち切った。

43jo-osho_outlook-02.jpg
写真:相崎修司

女流王将戦のゆくえ

 里見が女流王将戦三番勝負に登場するのは2年前の第41期以来となる。その時は挑戦者の西山に1勝2敗でタイトルを奪われた。女流棋界でほぼ無敵状態とも言える里見だが、西山にだけはどうにも分が悪い。過去に西山―里見の女流タイトル戦番勝負は4度行われているが、その全てを西山が勝っているのだ。

【第2図は△7一桂まで】

 第2図は西山女流王将が誕生した第41期三番勝負の第3局。自玉が広い西山玉に対し、里見玉は先手の攻め駒に押さえ込まれてしまっており、ここでは先手勝勢だ。 どう決めるかという局面で、西山の指した手は▲7六桂。一目は意外に見えるが、以下△7三馬引▲7四歩△同馬▲6四香まで進むと先手の狙いがわかる。6二の馬を動かして▲7一竜を実現しようというのだ。それは許さじと里見は△6四同馬と香を取ったが、▲同桂と駒得を拡大した先手に悪い理屈がない。▲7二桂成も残っている。以下、手数は掛かったが西山が勝ち切った。 対里見に限らず、西山はこれまでの女流タイトル戦番勝負の戦績は9勝1敗、内訳を書くと3回奪取、5回防衛、そして先週土曜日のヒューリック杯白玲戦の1回獲得。敗戦はタイトル戦初登場のときの挑戦失敗があるだけだ。タイトル保持者になってからは事実上の無敵状態である。

 だが今期の三番勝負は少し状況が異なりそうだ。過去の西山―里見の番勝負は、第1局を全て西山が勝っている。しかし今期の第1局は挑戦者の里見が制した。第3図はその中盤である。

【第3図は▲4六歩まで】

 駒の損得は全くないが、ここでは持ち歩の枚数の差で後手が指しやすい。図から△1五歩▲同歩△1七歩▲同香△2五桂が、歩を生かした美濃崩しの手筋である。西山は▲1六香とかわしたが、△3六歩▲同歩△3三角でいよいよ困った。次の△5五銀を受ける術がなく、後手は天王山に銀を進出させれば、1筋で香車を奪ってから4筋に設置して△4六銀をみるなど、攻め手に困らない。

43jo-osho_outlook-01.jpg
写真:相崎修司

 今期の開幕局は里見の快勝譜となった。勢いに乗って里見が女流王将を奪回するか、西山が逆転防衛を果たすか。女流棋界の頂上決戦は第2局は、明日10月19日(火)に東京・将棋会館で行われる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています