天下分け目のリコー杯女流王座戦。3連覇か、それとも初代クイーン王座か。 第11期リコー杯女流王座戦五番勝負展望

天下分け目のリコー杯女流王座戦。3連覇か、それとも初代クイーン王座か。 第11期リコー杯女流王座戦五番勝負展望

ライター: 紋蛇  更新: 2021年10月27日

 西山朋佳女流王座に里見香奈女流四冠が挑戦する、第11期リコー杯女流王座戦五番勝負が開幕する。3年連続のカードで、西山は第9期に里見から女流王座を奪取した。今年は3連覇が懸かる。里見は女流王座獲得が計4期で、あと1期で初代クイーン王座の資格を得る。

前期はフルセットで西山防衛

前期の五番勝負は西山先勝から里見連勝で挑戦者が追い込むも、そこから西山が2連勝で初防衛を果たした。タイトルがかかった第5局を紹介しよう。

【第1図は▲1六同玉まで】

振り駒の結果、里見が先手になって相振り飛車に。中盤は里見優勢になるも、西山は勝負手連発で嫌みをつける。第1図で△3八角▲2七飛打△7五銀▲同歩△4三角(第2図)が粘り強い食いつきだった。

【第2図は△4三角まで】

王手金取り、成銀取りの角打ち自体は明確な狙いだが、第2図から▲3四歩△3二角▲2二飛引成と進むと角を閉じ込められるので、打ちにくい面もあった。しかし、▲2二飛成に△3一歩がしぶとい。▲同竜なら△1四角と出て、先手は竜の守りが外れてプレッシャーがかかる。本譜は▲3七金と催促したが、△2七角成から勝負勝負と迫り、最後は一瞬のスキを突いて逆転に成功した。立役者になったのは自陣に残る角と歩2枚の防波堤。竜の横利きを遮って手を稼ぎ、奪った飛車を活躍させたのが大きい。

西山は記者会見で「諦めずに勝ちきったのは、相手が里見さんで、負けたらタイトルを失うという状況というのもあったか」と問われ、「相手が誰だからというわけではなくて、最終局で見せ場もなく投了するのは恥ずかしいというだけで、少しだけでもいい形をと思いながら指していました」と話し、シリーズ全体については「結果は3勝2敗で終わる形になりましたが、内容は負けの将棋が多かったです」と総括している。薄氷の勝利だった。

昨年の秋は女流王座戦と女流王将戦だけでなく、並行して三段リーグも戦っていた。長期間に渡る戦いでは、不調の時期もある。西山は生活や勉強のスタイルを見直したり、自己啓発の本を読むなど、いろいろなことを試した。最終的に腑に落ちたのは、親しい人にかけられた「将棋をやり続けていたら、戻るよね」という言葉だったそうだ。あまり余計なことを考えずに、途中からは将棋に打ち込めるようになったという。昨年秋から今年夏まで女流王将戦、女流王座戦、マイナビ女子オープンと、3つ続いた防衛戦をすべてフルセットで制した。今年4月に女流棋士に転向し、10月に新棋戦のヒューリック杯白玲戦・女流順位戦を制して初代白玲の座に就いた。盤上で結果を出すために、休むことなく走り続けている。

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写真(リコー杯女流王座戦第3局より):紋蛇

里見は二冠奪取の返り咲きを狙う

これまでの対戦成績は西山の13勝9敗で、タイトル戦を戦うのは6回目。過去に決着したタイトル戦は4つで、一昨年からすべて西山が制している。

今年は第11期リコー杯女流王座戦と第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負のダブルタイトル戦で、後者は11月4日に第3局が指される。リコー杯女流王座戦の第1局は10月28日。つまり霧島酒造杯女流王将戦で煮詰まった流れのままリコー杯女流王座戦の第1局を迎えるわけだ。女流王座戦の開幕戦勝利は単なる1勝に留まらず、女流王将戦の最終局に影響を与えるのは間違いないだろう。

2019年、里見は西山に女流王座と女流王将を奪われた。今回はリターンマッチに成功するチャンスで、どちらかを制せば西山よりタイトル保持数が多くなる。今年6月に第32期女流王位戦五番勝負で達成した、獲得女流タイトル数歴代単独1位の通算44期を更新し、さらに初代クイーン王座獲得となれば、今後の西山戦に向けて勢いづくはずだ。

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写真(リコー杯女流王座戦第3局より):紋蛇

見どころはねじり合い

第1局は東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で行われる。昨年も開幕戦は同所で行われ、124手で西山勝ち。戦型は里見の先手中飛車から相振り飛車模様になるも、里見が居飛車に戻して変則的な対抗形になった。ともに振り飛車党なので戦型は相振り飛車が最有力だが、前期のように里見が多彩な戦型をぶつける可能性も高い。ちなみに並行して行われている第43期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負は、第1局と第2局ともに先手中飛車から相振り飛車に進んだ。

第1局の戦型予想は難しいが、里見次第といえるだろう。意地をぶつけるなら相振り飛車、芸域の広さで勝負するなら対抗形が有力と見る。序盤は里見が注文をつけ、中終盤のねじり合いが見どころとなるだろう。

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写真(リコー杯女流王座戦第3局より):紋蛇

ふたりが対戦した第9期と第10期のリコー杯女流王座戦五番勝負の平均手数を見ると、126手。どちらも容易に崩れない指し回しだからこそ、長手数になるのだ。開幕戦から大熱戦を期待したい。

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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