チーム渡辺VSチーム永瀬 第4回ABEMAトーナメント~本戦2回戦 第一試合振り返り~

チーム渡辺VSチーム永瀬 第4回ABEMAトーナメント~本戦2回戦 第一試合振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2021年08月11日

 8月7日(土)に放映されたお~いお茶presents第4回ABEMAトーナメント本戦トーナメント2回戦第一試合、チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座、増田康宏六段、屋敷伸之九段)とチーム渡辺「ホームラン」(渡辺明名人、近藤誠也七段、戸辺誠七段)との戦いを振り返る。
 第1局は永瀬ー渡辺戦(先手は永瀬)、第2局は増田ー戸辺戦で、チーム永瀬が連勝スタートを決める。第3局の屋敷ー近藤戦はチーム渡辺が1勝を返し、第4局を迎えた。

【第4局 永瀬拓矢王座-渡辺明名人】

 第4局はまたもリーダー対決。渡辺は勝てばタイに追いつけるとあって、作戦会議で「ここは勝負どころだな」と話していた。

 相矢倉から序中盤は渡辺ペースで進むも、永瀬が嫌みをつけて楽をさせない。

【第1図は△4三歩まで】

 第1図は△4三歩と打ち、銀を支えたところ。先手は駒得なものの、8筋を破られているのでプレッシャーがかかっている。渡辺は▲4四銀 △同歩▲同飛 △同金▲同角 △5三銀▲同角成△同玉▲4五桂と詰ましにいった。 先手の豊富な持ち駒を見るとどこに逃げても危なく見えるが、ここから永瀬が王手ラッシュを潜り抜ける。以下△4二玉▲3三角△同金▲5三銀△5一玉▲4二銀打△6一玉▲6二金△同飛▲同銀成△同玉(第2図)▲8二飛△7二銀打▲5三桂成△7一玉▲8一金△6一玉と進み、渡辺が投了を告げた。

【第2図は△6二同玉まで】

 途中の△5一玉から飛車側に逃げたのが正しく、▲6二金から飛車を抜かれても最後の△6一玉でギリギリ耐えている。第2図からの▲8二飛に△7二銀打に代えて、△7二金は本譜と同じように▲5三桂成から追われて最後の△6一玉に▲7二飛成△同玉▲8二金打からの詰みがあった。

 第1図では、控室の近藤が▲8三歩を指摘していた。△同飛なら飛車の横利きが消えるので、後手玉を追いやすくなる。後の「第6局 オーダー&作戦会議」で、渡辺は「決断悪く指しているから、あそこで時間がない。もうちょっと時間あれば8三叩いて......時間がないから負けるような運びになっちゃっている」と語った。

4abema_0807_playback_1.jpg
▲渡辺-△永瀬戦は永瀬の粘り強さが光った

 トッププロであっても、超早指しのフィッシャールールでは数秒の浪費が命取りになる。第1図での残り時間は渡辺1分33秒。永瀬は1分28秒とほぼ互角。しかし最終盤の難しい局面を乗り切るためにはもっと時間が必要で、そのためには序中盤でもっと時間を節約する組み立てにしないといけなかったようだ。

【第7局 永瀬拓矢王座-近藤誠也七段】

 第5局の増田ー戸辺は増田勝ちで、4勝目を挙げる。あとがなくなったチーム渡辺は、第6局に渡辺が出て屋敷を破り、望みをつなぐ。リーダーの渡辺が「Aランク(3戦中2勝は堅いの意味)」と評する近藤を温存し、大逆転勝利の可能性に懸けた。

4abema_0807_playback_3.jpg
第7局前の作戦会議で、渡辺は「(永瀬王座は)私の手に負えない」と苦笑い

 第7局は永瀬-近藤の当たりになった。チーム永瀬は永瀬→増田→屋敷の順番通りのオーダーのつもりだったかもしれないが、チーム渡辺は合理的な選択と感じていたようだ。事前の作戦会議では「リーダーがきたということは、決めにきた」(近藤)、「向こうはあと1勝だから、普通はリーダーを(主導権の握りやすい)先手番で出すでしょう。俺でもそうするけど(苦笑)」(渡辺)と分析している。

【第3図は△6五桂まで】

 戦型は相掛かりで、永瀬がペースをつかんだ。近藤のカウンターにも、丁寧な指し回しでチャンスを与えない。図は△6五桂(※62手目)と跳ねたところ、解説の青嶋六段と両チームの控室は▲6六角と逃げて▲8四香を決め手にするのでは予想していた。実戦は▲1二飛成△5二銀▲5八歩!と進む。角を取られるのでは変調なようでも、△5七桂不成▲同歩でスキがない陣形にできるのが大きく、また持ち駒の桂が2枚になったことで▲6六桂△6三銀打▲7五歩△同歩▲7四桂打の攻めが見えてくる 実戦は▲5八歩に△8六歩▲同歩△5七桂不成▲同歩△6五桂と攻めるも、▲6八銀△5五金に▲6六桂が実現し、永瀬が押し切った。

 永瀬は貫禄の3勝。その指し回しについて、渡辺は何度も「整理ができているんだよなぁ」と舌を巻いていた。複雑な最新形の分岐点、また相手に珍しい手で変化されても、手を止めずに指していたのが印象的だったようだ。豊富な実戦経験や深い研究があるからこそ序中盤を飛ばし、中終盤の勝負どころで時間を使って考えられるのだろう。名人だからこそわかる、王座の技術と力だったといえる。

4abema_0807_playback_2.jpg
永瀬が詰ましにいくと、増田は「よし、きたぁ」と喜んだ

 翌日、渡辺は自身のブログで「燃え尽き症候群で今日はボーッとして1日が終わろうとしています。正月に結成して7ヶ月ほど活動してきたチームが終わる訳ですから、当然、寂しさはあります」と振り返った。今期は本戦の初戦敗退となってしまったが、控室での実況や分析を聞いているとさらなるパワーアップも可能なのではないか。次回に期待したい。なお、対局中の控室の様子はABEMAプレミアムに登録すれば見ることができる。

 チーム永瀬はベスト4に一番乗り。次戦はチーム木村とチーム稲葉の勝者と対戦する。

【総合成績】
第1局 永瀬〇-●渡辺
第2局 増田〇-●戸辺
第3局 屋敷●-〇近藤
第4局 永瀬〇-●渡辺
第5局 増田〇-●戸辺
第6局 屋敷●-〇渡辺
第7局 永瀬〇-●近藤
総合  5勝 ― 2勝

【個人成績】
永瀬王座 3-0
屋敷九段 0-2
増田六段 2-0
渡辺名人 1-2
戸辺七段 0-2
近藤七段 1-1

 次回は本戦トーナメント2回戦第二試合、予選Cリーグ1位のチーム木村「エンジェル」VS予選Aリーグ2位のチーム稲葉「加古川観光大使」の対局。8月14日(土)17:00~の放映をどうぞお楽しみに。

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています