13年ぶりの挑戦! 第28期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負展望

13年ぶりの挑戦! 第28期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負展望

ライター: 紋蛇  更新: 2020年11月04日

13年ぶりの挑戦!中井広恵女流六段

 13年半ぶりに中井広恵女流六段が番勝負に帰ってきた。里見香奈に挑む第28期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負は、11月5日(木)に開幕する。
中井は1969年生まれの北海道稚内市出身。1981年に女流2級でデビューし、1982年度に第5期女流王将戦で初めてタイトル戦に出場した。1985年度に第12期女流名人位戦で初タイトルを獲得し、2002年に女流三冠(女流名人、女流王位、倉敷藤花)を達成した。これまでに登場したタイトル戦の数は43、タイトル獲得は女流名人9期(クイーン名人)、女流王位3期、女流王将4期、倉敷藤花3期の計19期。棋戦優勝は計10回を誇る。

28kurashiki_outlook_01.jpg
写真:第33期女流名人戦第5局時

女流棋戦の実績に加えて、中井には偉大な功績がある。女流棋士が棋士の公式戦に参加が認められたのは1981年だが、初勝利を収めたのは中井だ。1993年の第5期竜王戦6組・池田修一七段戦を皮切りに白星を積み重ね、大活躍したのはNHK杯。2003年度は初戦で畠山鎮六段(現八段)、2回戦でA級棋士の青野照市九段を破った。女流棋士がA級棋士に勝ったのは、これが初めてである。3回戦は中原誠永世十段(現十六世名人)に惜敗したものの、翌年は1回戦で佐藤秀司六段(現八段)に勝ち、2回戦は佐藤康光棋聖(現九段)をあと一歩のところまで追い詰めた。

 中井は本格居飛車党。攻防のバランスが取れた将棋で、無理のない駒運びから流れるような指し回しを得意にする。倉敷藤花戦の戦いを振り返ってみよう。初戦から順に長沢千和子女流四段、貞升南女流初段、水町みゆ女流初段、 K・ステチェンスカ女流1級、野原未蘭女流2級を破り、挑戦者決定戦に進出した。準決勝は野原のデビュー戦で、中井が247手!の相入玉を制している。

 中井の挑戦者決定戦進出は、2014年の第25期女流王位戦以来のことだった(結果は当時の清水市代女流六段〈現女流七段〉に敗退)。倉敷藤花戦は、2012年に第20期大山名人杯倉敷藤花戦で矢内理絵子女流四段(現女流五段)戦に敗れてから8年ぶりになる。今回の相手は若手で振り飛車党の石本さくら女流初段。石本の三間飛車から中井が積極的に仕掛け、駒得でリードを奪った。

【第1図▲6七歩まで】

第1図は▲6七歩と角を支えたところ。先手は角のラインを生かして▲3四金や▲2四金に期待しているが、中井が落ち着いた指し回しで優位を拡大する。△3二銀▲1五歩△3五銀が冷静な受けで、▲1七竜に△1五歩で端を逆用できた。角を取られても、先手の攻めが続かなければ後手の駒得が生きる。中井は焦らずに先手玉を追い詰め、136手で石本をくだした。

 今回の挑戦で、中井は女流タイトル挑戦の最年長記録を51歳4か月に更新している。タイトル戦登場は2006年度の第33期女流名人位戦(現女流名人戦)以来、倉敷藤花戦では2004年度の第12期以来、16年ぶりの三番勝負登場だ。中井は終局直後のインタビューで次のように語った。

「自分でも、いつタイトル戦に出たのか思い出せないくらい。それだけ若手が増えて強くなった、こちらが衰えてきたことの証かなと。弟弟子のおじさん(木村一基九段。佐瀬勇次名誉九段門下の同門)も頑張っているので、おばさんも頑張らないと、という感じです」

木村は2019年に46歳で初タイトルの王位を獲得した。相手は豊島将之で、のちに史上4人目の竜王・名人を達成している。七番勝負はフルセットになり、最後は木村の執念が勝利を呼び込んだかのようだった。中井が挑む相手は里見で、棋界の若き第一人者に挑む構図は同じである。

受けて立つのは 里見香奈倉敷藤花

 里見はクイーン倉敷藤花の資格を保持している。今期は6連覇を目指す戦いで、防衛すれば計11期の獲得だ。今年度の女流棋戦成績は16勝4敗の勝率8割、女流棋士代表として出場している棋士の公式戦は4勝4敗の成績を収めた。清麗と女流王位を防衛し、第10期リコー杯女流王座戦で西山朋佳に挑戦している。里見にとってタイトル戦は日常で、倉敷藤花と女流王座のダブルタイトル戦でも安定した実力を発揮してくるだろう。注目したいのは後手でゴキゲン中飛車を連採していることで、超速3七銀に押されて激減した戦法の採用から深い研究がうかがえる。

28kurashiki_outlook_02.jpg
写真:第27期倉敷藤花戦第3局時

 里見と中井の対戦成績は里見6勝、中井6勝の五分。初手合いは2007年の第1期マイナビ女子オープンで、直近の対局は2015年の第37期女流王将戦になる。里見のエース戦法、中飛車と三間飛車に中井がどのように戦うがポイントのひとつだ。直線勝負よりねじり合いでポイントを積み重ねる展開にしたほうが、中井の持ち味を発揮しやすいだろう。

 里見が6連覇を果たすのか。それとも中井がタイトル挑戦だけでなく、タイトル獲得の史上最年長記録も更新するのか。第1局は11月5日(木)大阪府大阪市福島区「関西将棋会館」で行われる。

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています